「家族信託をすれば、相続税が安くなると聞きました。」お客様から、このような声を聞くことがあります。
結論から言うと、家族信託のみで相続税が安くなるということはありません。しかし、相続税対策のために家族信託を始めることはとても有効な方法だといえます。
今回の記事では、家族信託を活用して節税の準備をする方法についてご紹介いたします。
要約
- 相続税対策にも家族信託は有効、委託者が財産の管理や運用ができるようになる
- さらに収益不動産の受益権を収益と元本に分ける手法もある
- 分けた元本を生前贈与することで節税に繋がる
- 利用を検討する際は専門家にご相談を
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目次
節税をする準備としての家族信託
相続税の節税というと、現金で不動産を購入したり、更地に賃貸住宅を建築して、相続税評価額を引き下げたりする方法が考えられると思います。
例えば、父が預貯金1億円を保有している場合、そのまま亡くなってしまった場合は、1億円から所定の基礎控除額を差し引いた金額に、そのまま相続税がかかってしまいます。
ここで同じ1億円分の遺産であっても、不動産を購入してから父が亡くなってしまった場合は、不動産評価額が計算の基礎になります。
販売価格が1億円の物件でも、税額算出の基礎となる不動産評価額としては、およそ7000万円から8000万円くらいに評価が下がるのです。
この額から所定の基礎控除額を差し引いた金額で相続税を計算するため、節税になる、ということになります。
つまり、預貯金をそのまま遺すよりも不動産に換えておいた方が相続税の面においては遺族に有利となり、節税になるといえるのです。
しかし、このような節税対策をする前に資産の所有者である父の判断能力がなくなってしまった場合は節税対策が滞ってしまいます。
不動産購入のための売買契約や建築請負契約等は法的行為であり、本人でなくては手続きができません。
そこで家族信託で家族と契約をして、預貯金等や不動産の管理や処分の権限を家族に預けておくことができれば、仮に父の判断能力が無くなってしまったとしても、家族が財産の処分や運用が出来るようになります。
とくに、相続税対策には年数がかかることが懸念されているため、時間の経過を心配することなく対策を継続することができます。
このように、家族信託の利用によって、結果として相続税の対策ができる、ということになります。
不動産を信託した場合について、こちらの記事でも解説していますのでご参照ください。
→【完全版】不動産を家族信託する方法・税金・デメリットなどを解説
受益権の複層化による節税とは?
家族信託を利用した相続税対策として、もう1つ別の方法をご紹介します。
信託には受益権という利益を受け取る権利がありますが、この受益権は信託契約書の中で受け取る人を決めることができます。
家族信託では通常、贈与税がかからないようにする目的で、委託者=受益者に設定して家族信託をスタートさせます。
しかし今回は、受益権を「元本受益権」と「収益受益権」の2つに切り分けて、元本受益権を生前贈与することで節税につなげるという方法です。
ここから多少専門的な話になりますが、家族信託の活用方法の1つとしてご覧ください。
なお、この方法は税務上の解釈の変更により課税状況に変化が生じる可能性もありますので、ご利用を検討の際は税理士へのご相談をお勧めします。
収益不動産の受益権を収益・元本に分けて「元本」を生前贈与する
受益権を元本と収益の2つに分けることを受益権の複層化(分離型信託)といいます。
収益不動産を例にすると、「収益を受け取る権利(収益受益権)」と「不動産そのものを受け取る権利(元本受益権)」の2つに分ける方法です。
分けることでそれぞれの評価額が以下のように設定されます。
- 収益受益権…将来にわたる収益予想金額が設定される
- 元本受益権…不動産の評価額から上記、収益受益権の価値を差し引いた評価とされる
収益受益権は不動産の所有者である親が受け取り、不動産本体の元本受益権を子(将来の相続人)が受け取るという方法です。
親の収益受益権はもともと本人が所有していた不動産のため、今回の信託化で受益権者になっても、それだけで税金がかかることはありません。
一方、元本受益権を受け取る子の側としては贈与税がかかりますが、不動産の評価額が低くなるため、その税額も低くなる見込みです。
元本受益権については、「不動産の評価額ー収益受益権」で算出します。
収益受益権を「年間収益×期間20年」などで算出するため、収益によっては不動産評価額に近い額になる可能性があり、元本受益権が低くなる可能性が高いのです。
このように受益権の複層化(分離型信託)により、評価方法や価値が分離されることで節税になる可能性があります。
とくに不動産の場合は将来の収益の見通しが立てやすいため評価額の見通しも立てやすいというメリットがあります。
また、元本受益権の価値は信託を開始した直後は低い状態のことが多いため、このタイミングで贈与をすることで、不動産を一度に引き継ぐケースと比較して節税につながると言われているのです。
受益権の複層化については税理士へご相談を
後半で節税スキームの1つとしてご紹介しましたが、受益権の複層化については収益受益権の評価方法が難しいことや、資産を複数世代にわたって承継するような受益者連続型の信託のケースには転用できないという問題点もあります。
資産の所有状況によっては資産全体を見て、生前贈与による対策を進めるべきケースもあるため、この利用は条件がそろった場合に限られると考えられています。
また、課税の可否の判断について法解釈を含みますので、のちに解釈の変更が行われるという可能性もゼロではありません。
上記、受益権についてのスキームを検討をする際は税理士や専門家へご相談ください。
また、相続税対策を検討している場合は、家族信託の設計段階から検討すべき部分がある可能性もあります。信託すべき財産の設計を含めて専門家への相談をお勧めします。
相続税対策についてはこちらの記事でも解説していますので参考にしてみてください。
→【家族信託を活用した相続対策】かかる税金や具体事例も紹介
相続の準備・検討のためにも早めの家族信託契約を
以上のように、家族信託の契約が直接的な節税になるわけではありません。
また、後半でご紹介した受益権の複層化については、その条件が厳しい面もあり、課税についての解釈の面で難しさを含んでいるという問題点もあります。
相続について準備や検討をする場合、対策にはどうしても年数がかかります。早めに家族信託を契約しておくことで年数が経過するという不安材料が無くなるという間接的なメリットもあるのです。
情報を集めるためにも、時間をかけて節税対策を検討するためにも、その準備段階として役立つ家族信託を検討してみてはいかがでしょうか。
[解説記事]
家族信託とは?メリット・デメリット・費用について
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