家族信託を利用する際、信託財産の中に上場株式を含める 場合はどのような手続きをとればよいのでしょうか。
上場株式を家族信託する際には、事前に信託契約書を証券会社で確認してもらう必要もあります。信託契約書に指定の内容を盛り込む必要もあるため、事前の確認が非常に重要となるのです。
今回は、上場株式を家族信託する際の流れや注意点について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
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要約
- 上場株式を家族信託することは可能
- ただし取扱いができる証券会社が少なく、金融機関ごとに取り扱いが異なるため注意が必要
- 委託者が利用していた証券会社で家族信託用の口座開設可能な場合はそのまま手続きを進める
- 委託者が利用していた証券会社で家族信託用の口座開設ができない場合、口座開設が可能な証券会社へ移管する
- 上場株式の家族信託の締結をする前に証券会社で契約書の文案をチェックしてもらう
- 口座開設の申し込みから移管する期間は約2か月~3か月程
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目次
上場株式を信託することはできるのか
答えは『上場株式の信託はできる』
です。
ただし、実務上、取扱いができる証券会社が少ないというネックがあります。
信託口口座に対応する大手証券会社も出てきていますが、金融機関ごとに取り扱いや規定に違いがあるため、実際に信託するかどうかについては利便性や注意点も含めて検討しましょう。
上場株式を信託する時の流れ
信託する際の流れについて見てみましょう。
● 委託者が利用している証券会社が家族信託用の口座開設に対応している場合
この場合は、同証券会社に信託口口座を開設
して、委託者の口座からの信託口口座へ証券等を移動
することによって手続きが完了します。
● 証券会社が家族信託用の口座開設に対応していない場合
対応可能な証券会社で信託口口座を開設
の上、その証券会社に移管
する必要があります。
つまり、証券会社Aで家族信託用の口座開設ができないのであれば、口座開設が可能な証券会社Bで口座を開設し、移管することになります。
移管が必要なケースの注意点
証券会社で新しく信託口口座を開設できても、保有していた資産が株式だけでなく、債権や投信などの金融商品もある場合、新しい証券会社Bにおいて、それらの金融商品の取り扱いがない場合があります。
つまり移管する時に、商品によっては移管できない可能性 があるのです。
その場合は、移管できる商品を証券会社Bに移管し、移管できない商品についてはそのまま証券会社Aに残さざるを得ないということになります。
信託財産の内容を見直す必要もありますので、移管先の証券会社の取扱商品について確認をしておきましょう。
上場株式を信託する際の注意点
①特定口座で作成できないケースがある
証券会社によっては、信託口口座は一般口座のみで、特定口座の利用ができないケースがあります。
この場合、受益者は自動的に確定申告をすることになります。利益を受けるのが受益者であるため、手続きをした受託者ではなく受益者が確定申告をすることになるのです。
また、証券会社により取扱い銘柄が異なるため、移管する際にそのまま動かせる銘柄には限りがあり、また、NISAを利用できないケースもあるため、移管前に確認しておきましょう。
②証券会社により本人確認が行われる
証券会社の株式を家族信託用の口座に移管する手続きの際には、証券会社から委託者本人の確認手続きが入ります。
信託契約の段階でも公証役場での本人確認手続きが1つのハードルでしたが、ここに証券会社からの本人確認手続きもプラスされることになります。
本人の意思能力についても確認が行われるため注意が必要です。
③他の信託する財産と分けて契約書を作成する必要がある
証券会社の信託口口座を利用する際、その証券会社が指定する文言を信託契約書に入れるよう求められることがあります。
信託契約書の内容を変えることになるため、上場株式以外にも信託財産がある場合、内容的に合わなくなる可能性もあります。
そのような場合、例えば上場株式と不動産を信託するのであれば、不動産を信託する契約と、上場株式を信託する契約とに分けて契約書を作成する方法を取るケースもあります。
④権利確定日を過ぎて株主優待が受けられない可能性も
上場株式を信託して家族信託用の口座に移管すると、株式の保有期間は基本的にリセットされます。
移管日によっては株主優待を受けられる権利確定日を過ぎてしまい、優待から外れてしまうこともあるため、注意しましょう。
ここまで移管の際の注意点について説明してきました。
移管により資産をまとめることができるという管理面のメリットもありますが、保有資産の内容や移管先の証券会社によりデメリットは異なりますので事前確認が重要となります。
【上場株式の信託の流れ】先に契約書の確認を受ける必要あり
ここからは信託する際の手続きについて解説します。
まず、証券会社の担当者に連絡を取りましょう。
そして証券会社の担当者がいる支店または本店で、契約書の文案をチェックしてもらいます。
これは、公証役場で信託契約を締結する前に行います。 そしてこの文案のチェックが通ったら、公証役場で実際に信託契約を締結します。
次に、証券会社に口座開設の申込み手続きを行います。
その際、「口座開設申込書」とあわせて、公証役場で締結した信託契約公正証書の提出が必要になります。
書類のチェックを受け、家族信託用の口座が開設されます。そして委託者が元々保有していた口座から、移管の手続きをとります。
口座開設の申し込みから移管の手続きが終わるまでの期間はおよそ1か月前後です。
手続きスタートからの全体のスケジュール感としては、早くても2か月から3か月ぐらいかかるイメージです。
証券会社での手続きについてはこちらの記事「証券会社での手続きについて」でも解説していますので参考にしてみてください。
信託契約書についての注意点
契約書の注意点については証券会社によって運用が異なる場合があります。おおよその証券会社に共通している内容を4つ挙げていきます。
①受益者連続型の信託契約書は基本的に不可
委託者(兼受益者)の方が亡くなったら信託は終了する、という内容です。
どこの証券会社においても指示がある内容のため、他の信託財産との整合性が取れない場合は、契約書を複数に分けて対処することになるでしょう。
②受託者を一般社団法人などの法人ではなく、個人とする
売買を行う受託者については個人であることが求められ、さらにこの個人についても委託者(兼受益者)の一定の範囲内の親族にする必要があります。
③形式として、公正証書での信託契約の締結がマスト
金融機関にて受け付けるため、公正証書による信託契約書であることが求められます。
公正証書であれば委託者(兼受益者)本人の意思判断能力について公証人により認められたという証明にもなるという理由があります。
④後継の受託者を必ず定める
受託者が亡くなったり判断能力が無くなってしまった時に備えて、後継の受託者の定めを求めるケースが一般的です。
そのため信託契約では、第2受託者まで定める必要があります。
⑤その他の注意点
証券会社によって運用は様々ですが、以上の4点については信託契約書の条件として一般的に入る内容となります。
その他の注意点として以下のような内容があります。
《証券会社によっては信託財産の下限がある》
証券会社によっては信託する財産が3000万円以上からでないと口座開設に応じないなど、下限を設けていることもあります。
口座開設を検討する場合は取扱い上限について証券会社に必ず確認を取るようにしましょう。
《証券会社によっては代理人の登録制度がある》
証券会社によっては「代理人登録」の制度があります。
代理人登録とは、家族が代理人として証券会社に登録することによって、委託者の代わりに株式を売買・管理などの手続きをすることができるようになる制度です。
しかし、代理人登録をしたら家族信託は不要なのでしょうか?
このような制度があると、信託契約よりも手続き面が簡単である点や信託手続きが難しい場合に利用したくなることがあるかもしれません。
ただし、この代理人登録制度には注意点があります。
口座契約者本人(家族信託の委託者)の判断能力が低下すると、証券会社に口座凍結されるため取引ができなくなり、根本的な認知症対策にはならない点です。(参照記事:認知症患者の口座凍結問題〜保有株式の売却もできなくなる?)
また、代理人登録をした後で、他の親族から「代理人が勝手に手続きをした」と主張され、後でトラブルになる可能性もあります。
利用先の証券会社に代理人登録制度があれば、家族信託を利用できないケースで役立つと思いますが、利用を検討する前に親族間の関係性も考慮する必要があるといえます。
上場株式の信託には注意点が多い
このように、上場株式の信託の際には、契約書の公正証書化の前から確認していくべき事項や注意点があります。
不明な点や手続き方法なども家族信託に詳しい専門家にご依頼いただければ手続きのサポートも可能となります。
手続きで不明な点等ありましたら、信託契約の組成方法も含めて気軽にご相談ください。
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