収益不動産を保有しているオーナー様のお悩みの中で、よくあるのが、賃借人との交渉です。

  • 賃料をなかなか支払ってくれない
  • 賃料の値下げを頼まれた
  • 立ち退き訴訟をしたい

これらの交渉には、気力や体力も必要ですし、何より年数のかかるケースがあります。年齢が上がるにつれて、体力や気力が追いつかないこともあるでしょう。

現在進行形で問題を抱えている場合、また、将来同じようなトラブルが起きた際に備えて、家族信託の仕組みを上手く使えないでしょうか。

要約

  • 家族信託をすれば不動産オーナーである父母の代わりに子が賃借人と交渉することができる
  • 認知症などで不動産オーナーの判断能力が低下し交渉が停滞してしまうリスクを防げる
  • 不動産の立ち退き訴訟の最中でも家族託を開始することは可能
  • ただし訴訟することだけを目的とする家族信託は法律で禁止されているので注意が必要
  • 収益不動産を複数保有している場合や、不動産オーナーの方は一度専門家にご相談を

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賃借人との交渉も家族信託で解決

家族信託の仕組みを使えば、 収益不動産のオーナーである父母世代の代わりに、子世代の受託者が賃借人と交渉することができます。

保有している収益不動産を信託すると不動産の名義は委託者から受託者(子など)に移り、不動産登記簿に信託をした旨の「信託登記」を行うため、誰に対しても交渉権限を持っていることを証明できます。

こうすることでオーナーチェンジのような形になり、子が父のために賃料交渉等をすることができるのです。
(参考記事:『オーナー経営者の認知症対策、家族信託が有効です!』)

収益不動産のオーナーである父自らが立退きの交渉をしていて、万が一、その途中で判断能力が低下してしまった場合、以降は父が交渉をすることができなくなってしまいます。

すでに意思・判断能力が低下してしまった場合には、法的行為を代理するためには成年後見制度の利用が必要となります。
(参考記事:『家族信託と成年後見の違いは?どちらを使うべき?』)

そうなる前に家族信託を契約しておくことで、世代交代を兼ねた継承ができ、立退き交渉についても途中で中断することなく継続できるようになります。

訴訟前、訴訟中に家族信託することは可能?

立退きの交渉が決裂したり、賃料未払いの賃借人に退去を求める際に、年数が掛かる見込みであっても訴訟を提起して手続きを進めたいケースもあるでしょうし、現在すでに訴訟中だというケースもあると思いますが、訴訟中であっても家族信託を活用して受託者へ手続きを依頼することができます。

  • 不動産を信託財産に入れれば、受託者から訴訟を提起することも可能
  • 現在訴訟中でも家族信託の開始は可能
  • 信託契約後は受託者が係属中の訴訟を引き継ぐことも可能

通常、立退き交渉から訴訟終結までの一連の手続きは長引くことが多いため、これらの手続きを滞りなく円滑に進めていくという意味においても、家族の協力を得られる信託契約は非常に有効な手段だといえるでしょう。

【訴訟信託の禁止】

ただし、訴訟については、訴訟することだけを目的とする信託(訴訟信託といいます。)は法律上、禁止されている ので注意が必要です。

信託法10条に次のように規定されています。

「信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない。」(訴訟信託の禁止)

弁護士法の規定によって、他人の権利を譲り受けて実行することを業として行うことや、弁護士でない者が訴訟等の法律事務を行うことは禁止されています。

上記の規制を免れることを目的で信託を設定することはできません。

このような信託が設定された場合、法律上無権利者が提起した訴訟ということで、請求棄却となります。

一般的な家族信託では訴訟信託と認定されて無効とされる心配はほとんどありませんが、もっぱら訴訟提起と信託財産から報酬を払うことを目的とするような信託契約については注意しましょう。

訴訟を提起し、報酬を得ることができるのは、弁護士や認定司法書士に限られています。
例えば法律に詳しい知人を受託者としてその知人から訴訟をおこし、信託財産から報酬を払うという場合は、この禁止事項に該当する可能性もゼロではないからです。

まとめ

家族信託は、介護費用捻出のために不動産を売却できるようにしておいたり、収益不動産の管理のためにもとても有効な手段ですが、本記事のような事例でも活用できる有効な手段だといえます。

収益不動産に関する売買や管理をはじめ、訴訟など長引く可能性が高い手続きを途中で頓挫させずに円滑に進めていくことが可能となります。

とくに収益不動産を複数保有しているケースや、賃借人との交渉が起きやすい不動産オーナーの方には適した方法となります。

こちらに記事『【家族信託を活用した相続対策】かかる税金や具体事例も紹介』でも紹介していますので、一度検討してみてはいかがでしょうか。

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