家族信託の大きな魅力の一つは、「第三者を関与させず、家族の中で、家族にあった財産管理をしていけること」です。

家族信託において、受託者を誰にするかということは最も重要なことといっても過言ではありません。

しかし、中には「受託者をお願いできる人がいない、、、」という方もいらっしゃいます。

今回は、「家族信託を考えているけど、受託者となってくれる人がいないとき」をテーマにお伝えしていきたいと思います。

受託者となってくれる人がいない場合とは?

家庭により、高齢となった自分を支えてくれる人の存在は、さまざまでしょう。

おひとり様や子供のいらっしゃらないご夫婦
信頼できる子供はいるけれども、日々の生活や仕事でいそがしく、自分の代わりに財産管理を頼むことができそうにない。
信頼できる子供はいるけれども、海外や遠方に住んでいる。
子供はいるけれども、疎遠になってしまっている。
子供が障がいなどを持っており、ご自身で財産管理ができない。

家族の数だけ事情があるかと思います。

このような場合に、本当に家族信託を組成することはできないのか、また他にどのような制度を活用すれば悩みが解決できるのかを見ていきましょう。

受託者は家族でなければならない?

まず、家族信託の受託者は家族の中から決めなくてはならないのでしょうか?「家族」という名前がついている信託契約ですが、必ずしも家族である必要はありません。

家族信託は、別名で「民事信託」と呼ばれます。企業が業務として行う「商事信託」と対になる言葉です。

一方の商事信託とは、信託銀行や信託会社等、企業に財産を託して管理や運用を依頼する形の信託契約を指します。

財産管理・財産運用のプロである信託銀行や信託会社など、金融庁から免許を受けている会社に依頼する信託契約で、手数料もそれなりに高額になります。

家族信託を含む民事信託では、信頼できる身内の人を受託者として行う信託で、家族(配偶者やお子さん、兄弟等)を含め、家族でなくとも信頼できる人物に依頼して受託者とすることができます。

例えば、甥っ子や姪っ子、あるいは身内以外の友人や、信頼できるビジネスパートナーでも就任できるのです。

財産を託せる人がいない場合は?

「受託者は必ずしもご家族である必要はない。」とお伝えしましたが、とはいえ身内以外の個人にご自身の財産を託して管理を依頼するのは、容易にできることではないでしょう。

受託者の候補がいない場合には、家族信託以外の選択肢についても検討してみましょう。

【1】商事信託を利用する

1つの方法として商事信託を利用する方法があります。

家族信託の普及に伴い、商事信託も以前より個人の財産管理や相続の場面で利用できるサービスが増えてきました。

金銭の信託であれば、金融機関でお手頃な手数料と簡単な登録方法で利用できるサービスが出ています。

不動産についても、大手ハウスメーカーの中には顧客が購入した物件の管理信託を受ける企業も出てきています。

商事信託は家族信託と比較して委託のコストがかかること、財産管理の自由度が低いことがデメリットではありますが、先々、ご自身で財産を管理することに不安を感じる方にとっては、有力な選択肢になり得るでしょう。

家族信託か商事信託のどちらか一方と決めるのではなく、金銭は家族信託でお子さんに管理を任せ、不動産の管理は商事信託を使ってプロに依頼するという方法でもよいでしょう。

【2】成年後見制度を利用する

もう一つの方法としては、「法定後見」や「任意後見」などの成年後見制度を利用する方法です。

こちらも月々の費用がかかる、財産管理の自由度が失われるなどのデメリットはありますが、家庭裁判所がかかわるため一定の透明性が担保された制度でもあります。

法定後見人の場合

法定後見の場合、弁護士・司法書士などの専門家が後見人に就きます。

どんな人が自分の後見人になるか分からない、専門家報酬がかかるなどの特徴がありますが、その反面、家庭裁判所から選任される後見人は国が指定する研修を受けた人物です。

また年に1回、後見人から家庭裁判所に財産状況の報告義務がある等、透明性が確保されているといえます。

気になるコスト面については、こちらの記事『家族信託と成年後見制度はどちらの費用が高い?』にて比較していますのでご参照ください。

任意後見人の場合

もしも依頼できる弁護士、司法書士等の法律専門家がいれば、自身の体力の低下・判断能力の低下の場合に備えて任意後見契約を締結しておくことも考えられます。

任意後見制度であれば、自分で後見人を選んでおくことができます。

成年後見制度の仕組みについてこちらの記事『【完全版】成年後見制度の手続きの流れや申立方法』にて解説しています。

商事信託や任意後見についても検討を

今回は、「家族信託を考えたいけど、受託者となってくれる人がいないとき」というテーマでお送りしました。

お子さんのいらっしゃらない場合や、受託者をお願いできる家族がいない場合でも、商事信託を利用したり、任意後見制度など他の選択肢もありますので検討してみてはいかがでしょうか。

自分にはどのような対策が最適か、この記事を参考に今一度ご検討いただければ幸いです。