家族信託を始めるときは、「実印」を準備しておくことが一般的ですが、実印を登録していない場合には、家族信託を始めることができないのでしょうか?

本記事では、実印がなくても家族信託の契約は可能なのか、どのような手続きになるのかについて解説していきます。

家族信託とは?についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

【参考記事】
家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します
家族信託は危険?実際に起こったトラブルや回避方法
家族信託に必要な費用を解説!費用を安く抑えるポイント
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実印という本人の証明

実印とは、大きなお金が動く契約に使われる印鑑で、各人が住んでいる市区町村の役所に登録して証明を受けます。

印鑑を登録すると、証明書類として「印鑑証明書」の発行を受けることができます。

実印と印鑑証明は、社会通念上とても大切な証明書類です。

実印を所持しているということは基本的にその所有者本人であることを意味し、印鑑証明書(氏名、住所、生年月日等が記載されている)によって確認することができると認識されています。

これらのことから、実印+印鑑証明書は、本人確認と契約等の意思確認をする方法として広く利用されています。

印鑑登録の注意点

実印は各人の住民票の所在地で登録するため、引っ越しにより市区町村をまたいで住民票が移動すると、改めて実印を登録し直す必要があります。

また、実印の証明書類である印鑑証明は、実印を登録した際に交付された「印鑑登録証(印鑑登録カード)」が無ければ発行してもらえませんので注意しましょう。

印鑑登録証や権利証など、家族信託ではさまざまな書類や証明書が必要となります。

では、家族信託を始める際にどのような場面で実印や印鑑証明が必要になるのでしょうか?

実印が必要とされる場面や、実印がない場合の対応方法について紹介します。

【1】信託契約書を公正証書で作成する場合

信託契約は、家族間で締結することがほとんどですが、金融機関など、対外的にも信託契約書の存在を明確にするために、公正証書で作成されることが一般的です。

公証役場で公正証書の作成を依頼する場合、公証人は委託者・受託者の本人確認を行うため、実印と印鑑証明書の提出が求められます。

このことから、家族信託を始める際には実印を準備しておくことが一般的です。

しかし、公証役場での本人確認は実印+印鑑証明書の他にも、例えば、運転免許証+認印でも公正証書の作成に応じてくれる場合があります。

実印以外の本人確認の方法については、契約内容や公証人によって取扱いが異なることがあります。事前に公証役場で確認をしておきましょう。

【2】信託契約を私文書で締結する場合

信託契約は状況により、公正証書ではなく私文書(公正証書以外の方法)で締結することも可能です。

信託契約書を巡って、後日揉め事が起きる可能性が極めて低い場合(受託者のほかに委託者の相続人にあたる人物がいない場合等)や、第三者に公正証書として提示する必要がない場合には、私文書で締結することも可能です。

契約書を私文書で作成する場合には、原則として実印は必要ありません。

この場合は、契約当事者以外の者が、印鑑証明書を使って本人確認や意思確認をすることがないためです。

しかし、家族信託は、個人の大切な財産の管理を任せるという重要な契約なので、私文書で作成する場合であっても契約書は実印で押印し、印鑑証明書と一緒に保管しておくことが望ましいと言えます。

受託者としても、自分が財産を管理する権限があることを担保するためにも、実印+印鑑証明書で契約書を作成した方が安心できます。

私文書によるトラブルに注意

私文書による信託契約書の場合は、私文書だからこそ起きやすいトラブルについて想定しておきましょう。

本人に代わって家族が実印や印鑑証明書を取得できるのでは、と指摘される可能性です。

私文書の契約書は実印を押していても、公正証書で作成した【1】の契約書のような信頼性があるわけではありません。

家族が勝手に印鑑と印鑑証明書を使って信託契約をしたのでは、と主張されても、そのような嫌疑を否定できる明確な根拠がないからです。

公正証書であれば公証人による本人確認や契約の意思確認が行われますが、私文書の場合は契約成立についての真正が証明されるわけではない点に注意しましょう。

私文書で契約書を作成する際にはいくつもの注意点があります。

家族信託は「公正証書」が必要なのか。私文書では危険?』の記事もご参照ください。

【3】信託財産に不動産が含まれる場合

信託財産として土地や建物を信託する場合、不動産登記簿の名義人を書き換える手続きが必要となります。

この信託登記の際に、必要書類として委託者の印鑑証明書(3ヵ月以内に発行のもの)が必要です。

【信託登記で必要となる書類】

  • 委託者の実印

  • 委託者の印鑑証明書

  • 受託者の認印

  • 受託者の住民票

  • 固定資産税評価証明書

  • 登記済証(権利証)

実務上、印鑑証明を含めて手続き書類一式の提出を求められるため、実印+印鑑証明にて準備する方が安心だといえます。

実印が必要になる重要な場面

実印は大きなお金を動かす際や契約事項で使われます。そのため高齢になるにしたがって、相続をする際や遺言状の作成などで必要となってきます。

自筆証書遺言では実印の押印は必須ではありませんが、遺言書という重要書類を作成するため、できるだけ実印を用い、遺言書を自宅保管する際は印鑑証明書とともに保管するようにしましょう。

また、不動産などを売却する際にも実印と印鑑証明書が必要です。信託契約とともに老後資金用に売却の予定があるなら実印を用意しておいた方が安心です。

このように、遺言書などの相続準備や資産の整理をしていく際に、実印+印鑑証明は非常に重要な証明書類になります。

遺言については2020年にスタートした自筆証書遺言の「遺言書保管制度」により利便性が向上しました。

遺言書は家族信託との併用により、資産管理や相続に向けた備えを組み立てやすくなります。

まとめ

本記事では、家族信託で実印が必要とされる場面と、実印がない場合の対応方法について解説しました。

実印がなくとも家族信託を始めることは可能ですが、実印は重要な証明書類であり、各種手続きで実印と印鑑証明が求められます。

その他、実印が必要となる場面も想定されますので、印章を用意して登録しておくと安心です。

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