親の認知症対策として家族信託を検討されている方からこのようなご質問をいただくことがあります。

「子どもである私が受託者になったとして、途中で辞めることはできるのでしょうか?

一般的に、受託者には子や孫、甥、姪など委託者(親)の下の世代がなることがほとんどです。

ただし、下の世代であっても、委託者(親)より先に亡くなってしまうことや、意思能力を喪失してしまう可能性もゼロではありません。

また、将来健康上の問題などによって、受託者としての任務を全うすることが困難となる可能性も考えられます。

そこで本記事では「家族信託開始後、受託者は辞任することができるのか?」、そして、後継となる受託者の指定・選定方法について解説します。

家族信託の仕組みや特徴、手続きなどについては、以下の記事をご確認ください。

家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ仕組みです。本記事では家族信託の詳細や具体的なメリット・デメリット、発生する費用などについて詳しく解説します。将来認知症を発症しても、親子ともに安心できる未来を実現しましょう。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説!

受託者が辞任できるケースとは?

信託法上、受託者は委託者及び受益者の同意を得られれば、いつでも辞任することができます(信託法57条第1項)。

「委託者及び受益者の同意を得る」という点が重要です。

「受託者の辞任に同意すること」も法律行為であり、同意をする委託者兼受益者(親)の意思能力が必要となります。

もし委託者及び受益者(親)が認知症などで意思能力をなくし、同意できない状況になると、同意による辞任もできなくなるということです。

では、委託者兼受益者(親)の意思能力に左右されずに、受託者が任意の時期に辞任できるようにする手段はあるのでしょうか?

「受託者の辞任への同意」が得られない状況を回避する方法

「委託者及び受益者の同意」による辞任以外にも、受託者の辞任の方法を信託契約内で定めていた場合は、その方法による辞任が可能です。

信託法57条第1項では「ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる」とあるためです。

たとえば、以下のような規定を信託契約の中に入れておくと、いざというときに次の受託者がスムーズに就任できる道を残しておくことができます。

当初受託者(信託契約当初の受託者)が辞任しようとする場合において、その後継の受託者がその就任を承諾したときは、信託法第57条第1項に規定する委託者及び受益者の同意があったものとみなす。

上記の規定があれば、委託者兼受益者(親)の意思能力が喪失していたとしても、後継受託者の就任について同意があったものとして取り扱うことができます。

このような規定を信託契約に盛り込む際は、後継受託者に関する規定も入れておく必要があります。

また、もしもの場合に備えて、少なくとも第二受託者までは誰が担うのかを具体的に契約書に盛り込んでおくことが一般的です。

受託者にもしものことがあった場合の対応については、以下の記事でも詳しく解説しています。

家族信託において、受託者のほうが先に亡くなってしまうということも当然ありえます。では受託者が先に亡くなってしまった場合、家族信託はどうなってしまうのでしょうか?今回は、受託者が先に死亡した際に家族信託がどうなるのか、また、財産の取り扱い方法や次の受託者の選定について解説します。
家族信託中に受託者が死亡した時の対応・対策まとめ

「家族信託の受託者」について疑問や不安をお持ちの方へ

専門家のイメージ

家族信託の受託者(主に子)は、委託者(主に親)から託された財産を信託契約に沿ってしっかりと管理していかなければなりません。

「負担が重そう」
「受託者候補が1人しかいない」
「途中で辞めたくなったらどうするのか」

信託する側の親御様も、信託される受託者の方も、不安に思われることはぜひお気軽にご相談ください。

家族信託の契約件数No.1*の「おやとこ」では、経験豊富な専門家が真心をこめて対応いたします。

家族信託の「おやとこ」
お気軽に無料相談をご活用ください。
相談だけでもOKです。お気軽にご利用ください! 電話&メール 無料相談する

*2023年11月期調査(同年10月15日~11月11日実施)に続き2年連続
調査機関:日本マーケティングリサーチ機構

後継の受託者の選定方法は?

後継となる受託者の選定についての取り決めは、以下の形で進めていきます。

  1. 誰が後継受託者になるかを定めておく
  2. 選任する方法を定めておく
  3. 後継受託者にふさわしい人物がいない場合は「信託の終了事由」を定めておく

それぞれみていきましょう。

1.誰が後継受託者になるか定めておく

当初の受託者の兄弟や子など、信託契約の時点で後継受託者にふさわしい人物がいる場合は、具体的な人物を定めて契約に盛り込みます。

2.選任する方法を定めておく

信託契約の時点で具体的な人物を想定できない場合は「後継受託者を選任する方法」を契約で定めておく方法があります。

たとえば、以下のように「協議による選任」について定めておきます。

「当初受託者の任務が終了したときは、受益者(受益者代理人が選任されている受益者については、当該受益者代理人)及び当初受託者の法定相続人全員の協議により、その後継の受託者となる者を指定する。」

3.後継受託者にふさわしい人物がいない場合

受託者やその後継者には信頼できる人物に就いてほしいものですが、兄弟がいなかったり遠方に住んでいたりと、後継受託者にふさわしい人物がいないケースもあるでしょう。

このように信託契約の時点で受託者候補が一人のみの場合、受託者が空席となった時に備えて「信託の終了事由」を定めておく方法があります。

例えば、信託の終了事由を「当初受託者(長男)が死亡したとき」と規定しておいたとします。

これにより、当初受託者(長男)が亡くなったときには家族信託が終了し、信託財産を委託者(主に親)に信託財産を戻すという設計が可能です。

詳しくは、以下の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。

親と長男で家族信託を組成したとして、長男が先に死亡してしまうと、家族信託はどうなるのでしょうか?家族信託を組成するご家族のなかでも、お子様が一人しかいない家庭が増えてます。今回の記事では、「受託者となる人物が1人しかいない場合の家族信託」について解説します。
家族信託の受託者候補が1人のみの場合、事前に備えるべきことは?

また、新受託者に関する定めがない場合は、委託者及び受益者(親)は、新受託者を選任することができます(信託法62条第1項)。

まとめ

原則として受託者は、委託者及び受益者の同意を得れば辞任できます

ただし、委託者及び受益者(親)が認知症などで判断能力を失くした場合「同意する」という法律行為ができなくなるおそれがあります。

このような状況に備えて、信託契約であらかじめ対策しておくことが重要です。

  • 受託者の子や兄弟等、特定の人物を後継受託者とする定め
    又は後継の受託者の選任方法に関する定め
  • 後継受託者がその就任を承諾した際には、委託者及び受益者の同意があったものとみなす定め

契約内容の設計には専門的な知識が必要となるため、お悩みの際は家族信託の専門家に相談することをおすすめします。