家族信託というと、高齢の両親に代わり、子世代が両親の金銭や不動産を管理していくというイメージが強いでしょう。
名称は「家族」信託ですが、民事信託としてその利用範囲は広く、実は会社経営など事業の承継にも活用可能です。
経営者が「委託者」となり、「受託者」に金銭や不動産の信託、そして管理・運用・処分を任せて、「受益者」に利益を還元する仕組みを利用します。
とくに経営者ほど、もしもの事態に備えることが非常に重要となるでしょう。
そこで今回は、「家族信託(民事信託)を活用した事業継続対策」についてご紹介していきたいと思います。
【参考記事】
・家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します
・家族信託は危険?実際に起こったトラブルや回避方法
・自分には家族信託は必要ない?家族信託が使えない・不要となる場合を解説
・【家族信託の手続き方法まとめ】手続きの流れ・やり方を解説
・【家族信託の失敗と後悔】よくある家族信託の失敗事例12選
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目次
中小企業経営者の健康面のリスク
中小企業庁の調査によると、2016年時点での日本における中小企業の数は約358万社となっています。
これは日本における企業全体の99.7%を占め、この中小企業の多くは、経営者自身が自社の株式の全部または大半を所有する、いわゆる「オーナー経営者」による経営で成り立っています。
また、日本は長寿大国ですが、自立した生活を送ることができる「健康寿命」としては【男性 約72歳、女性 約74歳】というデータがあります。
平均寿命は【男性 約80歳、女性 約87歳】ですので、亡くなるまでの約10年間、認知症の危険性があるということになります。
また、高齢になると、健康を脅かす要因は認知症だけにとどまりません。
まだまだ健康、大丈夫だと思っていても、不意の変化により自立した生活を送ることが難しくなる可能性もあるのです。
これから起こり得るリスクに備えるにはどのように検討をしていったらよいのでしょうか。まずはリスク面から見ていきましょう。
【1】預金口座の凍結
健康面に悪化が起きた時、第一に影響が出るのは資金関連でしょう。
暗証番号を忘れてATMで預貯金を引き出せなくなったり、窓口で必要書類に自筆署名ができなくなったりするケースが挙げられます。
金融機関で「判断能力が著しく低下している」と判断されると、その口座の利用は凍結されます。
すると日常の生活費だけでなく、大きな金額の引き出しや送金、運転資金の決済や返済に遅れが生じる可能性があります。
状況によっては新規融資の審査や貸付金の回収について、金融機関から厳しい条件を出される可能性もあるのです。
【2】自社の株式の議決権を行使できなくなる
自社株式の大半が経営者の所有となっている場合、経営者の判断能力が低下してしまうと議決権を行使できなくなります。
これまで譲渡や相続により自社株が分散していたとしても、経営上、少なくとも経営者自身が自社株の過半数〜3分の2程度を所有しているケースが多いでしょう。
譲渡してきた株については、議決権の無い形式に変えているケースもあると思います。
事前に後継者に株式の譲渡を完了できれば良いのですが、症状の進行や各種疾患の発病は予測できません。
経営者の症状の悪化により、会社運営や方針決定など重要な決定ができなくなる可能性があるのです。
【3】新代表者の選定にも問題が生じる
このように、会社の経営に重大な支障をきたし経営機能が停止した状態に陥ると、周囲も事業承継の検討をせざるを得ません。
しかし、役員人事や承継先等についても「決定」が難しい状態です。
事前に代表取締役以外の取締役を選任して経営者が欠けた時に備えたり、新しい代表取締役の選任について定款で定めることができれば対策もできるでしょう。
しかし【2】と同様、事前の準備が完了していない場合は経営そのものが揺らぐ事態に陥ることが考えられます。
【4】自社株の承継が未定のまま相続が発生した場合
また、もし自社株式の承継先が未確定なまま現経営者が亡くなった場合、一般の相続と同じように遺産分割の合意が必要になります。
親族の意見が一致するとは限らず、合意がまとまらなければ自社株式は相続人全員の共有状態となります。
会社側の人たちとしては、特定の後継者に相続してほしいと考えていても、分割協議では相続人全員の合意が必要です。
結果的に、会社運営における重要決定についても相続人の合意が必要となってしまい、円滑な判断が困難になるケースが考えられます。
会社経営に大きな影響が生じ、最悪の場合には廃業に追い込まれてしまう可能性も考えられます。
【基本編】事業承継に家族信託を活用するプラン
実際に家族信託を活用した場合、どのような形でオーナー経営者の認知症対策をすることができるのでしょうか。
基本的な方法としては、現経営者の持つ自社の株式を信託財産として受託者に信託する方法を取ります。
また、この信託契約の前提として、現経営者が信託契約を実行できるほどの判断能力や意思能力が残っていることが重要です。
[家族信託を活用した事業承継の基本プラン]
● 前提条件
現経営者の判断能力や契約能力に問題がないこと
● 後継者=受託者
通常、受託者には現経営者の子など、その事業を承継する予定の後継者が就任します。自社の株式を信託した結果、以後、株式の議決権は株式を託された「受託者」が行うことになります。
● 現経営者=受益者
信託した自社株より配当が出る場合、この配当は受益者である現経営者が受け取ることができます。
[事業承継プランで実現できること]
自社の株式を信託することで、次のことが実現可能です。
● 議決権を行使する権利が受託者に移る
→現経営者が認知症となった場合でも、問題なく議決権を行使していくことが可能となり、会社の経営に支障をきたすことがなくなります。
● 配当などを受け取る権利は受益者(現経営者)に残せる
信託する前と同様に、現経営者が配当などを受け取ることができるので、株式を譲渡するよりも現経営者にとって有利な条件となります。
● 将来の事業承継先についても決定可能
信託契約の中で、現経営者が亡くなった後の自社の株式の承継先を決めることで、認知症対策と同時に事業承継対策をすることができます。
議決権の問題と事業承継先という大きな問題を解決する手段として、また、設計の自由度の高い方法となります。
【応用編】事業承継に効力発生条件を付ける
上記【基本編】のように経営権や事業承継についての設計ができる方法として信託契約を活用することができます。
ただし、信託契約の後、すぐに経営権が受託者に移ることに問題を感じるケースもあるでしょう。
現経営者がまだ議決権を渡したくない場合や、後継者の能力が経営権を握るまでには至っていないような場合です。
この問題についても信託の契約方法の応用で解決できます。信託契約に条件を設定することで、より希望に沿う形での信託組成が可能です。
[1]「停止条件付信託」による認知症対策
条件付の信託にすることで、信託の効力発生時期を調整することが可能です。停止条件付の契約とは、条件が確定するまでは法的な効力を発揮しないとする契約となります。
例えば、信託の効力が発生する時期について「現経営者が認知症であるとの医師による診断が出た場合」など、一定の条件(停止条件)を設定します。
さらに「生活自立度で〇の段階」「要介護認定で□に該当」など、複数の条件の設定も可能で、定めた条件に至ったときに信託契約が開始するという契約にすることができます。
[条件を満たす前後でどう変わるか]
条件付き契約の場合、信託契約をした段階では信託の効力は発生しません。効力発生の条件に達するまでは、引き続き現経営者が経営権を維持できます。
その後、現経営者が一定の症状を有するようになるなど信託契約に定めた条件に該当すると、信託の効力が発生します。
信託が開始すると受託者は信託資産の名義変更を行い、以後は自社株も受託者がその議決権を行使していくことになります。
[条件付信託の活用法]
この方法であれば、先に挙げた「認知症対策はしたいが、まだ後継者に議決権の行使を任せるのは不安」と考えるオーナー経営者の悩みも解決することができます。
また、会社のBCP(事業継続計画)の一環として、条件付信託を活用することも考えられます。
どのような事業体でも、災害や緊急時など、もしもの際の事業継続方法や復旧策、不測の事態に備える取り決めが必要です。
信託契約に条件を付けて発動できる準備をすることで、緊急時に備えるプランとして活用することも可能となります。
[2]「指図権」「同意権」を導入した家族信託による認知症対策
[1]の停止条件付信託は、一定の条件が満たされることにより信託の効力が発生する形の信託でした。
しかし、会社経営においては、時に、株式の売却や組織再編、会社の解散などの議題が発生する可能性があります。
現経営者が健康な段階で早めに信託を開始したとして、経営面で指揮やコントロールの必要がある場面もあるでしょう。
経営指導を可能とするには、現経営者(委託者)に「指図権」「同意権」を設定することで実現できます。
これにより、日々の業務は受託者に任せ、経営に関する重大な事項について、現経営者(委託者)が指図をすることや、現経営者の同意を必要とするような指揮関係を保つことが可能となります。
[3]「一般社団法人」を受託者とする承継準備
最後に、受託者を法人とする家族信託について簡単に紹介します。
家族信託における受託者は、委託者の子供など個人が就任するのが一般的ですが、受託者を法人(一般社団法人)とすることも可能です。
[受託者を法人にした場合のメリット]
(1)受託者が「死亡又は意思能力を喪失する」等の人間的なリスクがなくなる
(2)認知症対策はしたいが、会社の議決権を行使する権利は、まだ受託者に渡したくない
(3)信託により事業承継を行いたいが、現状、後継者が決まっていない
これらの解決策として活用できる見込みです。
(2)の経営権については、一般社団法人を受託者とし、自らがその代表理事(株式会社における代表取締役のような立場)に就くことで、間接的にはなりますが、議決権の行使により自らの意思を一般社団法人の意思として反映させることが可能です。
(3)の後継者についても、自らが法人受託者の代表社員、後継者候補を社員とすることにより、信託運営を通して時間をかけて後継者選びを進めることができます。
[受託者法人の費用面など]
ただし、一般社団法人を受託者とする場合、一般社団法人の設立費用や毎年の法人税などの費用が発生しますので、その点には注意が必要です。
コストはかかりますが、家族信託で事業承継を考えることで、後に契約内容を変更して改善したり、事業承継方法を変更したりといった再設計も可能となります。
事業の将来性や吸収・合併などを想定して、場合によっては信託契約を解除して方針を変更するという選択肢もあります。
これらは現経営者の判断能力が維持され契約能力を有していることが条件となりますが、民事信託だからこそ可能となる方法です。
まとめ
オーナー経営者が認知症となった場合、「議決権の行使ができなくなる」「円滑な事業承継ができなくなる」などの様々なリスクがあります。
家族信託という民事信託の活用により、「指図権」や「同意権」を付与する方法や「一般社団法人を活用する方法」など、ニーズに合わせて比較的柔軟に対応していくことが可能です。
また、事業承継に関しては、信託を利用した承継と事業承継税制に沿った承継など、それぞれ特徴があります。事業承継や企業法務についてはぜひ専門家にご相談ください。
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