今回は、家族信託で財産を預かる「受託者」について解説します。
誰が受託者になれるのかという点は、家族信託のご相談の中で、よくいただくご質問です。
その中でも、今回は、未成年者・家族以外・複数名・委託者・受益者などの立場・状況にある方が、家族信託の受託者になりうるか、解説していきます。
家族信託の制度の概要等については、こちらの記事をご参照ください。
要約
- 家族以外の人物でも、家族信託の受託者になることができる
- 未成年者(孫など)は、家族信託の受託者になれない
- 家族信託で複数の受託者を設定することは可能
- 委託者=受託者になることは可能(障がいのある子の支援など)
- 最初から受益者=受託者とした家族信託はできないと考えて良い
- 士業専門職(司法書士・弁護士など)は受託者になることはできない
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目次
未成年者は受託者になれるか?
未成年の孫を家族信託の受託者にできるか?というお問い合わせをいただくことがあります。
結論として、 未成年者の孫を、家族信託の受託者にすることはできません。
なぜなら信託法で、未成年者を受託者とすることはできない、と定められているからです。
参考:信託法第7条:信託は、未成年者を受託者としてすることができない。
家族信託は、委託者(財産を託す人)と受託者(託される人)の間で「信託契約」を結び、財産管理を行う制度です。
そもそも未成年者は、親などの法定代理人の同意を得なければ原則として有効な法律行為(契約など)をすることができません(民法第5条)。
そのため、未成年者のお孫さん等を受託者にすることはできないことになります。
家族以外でも受託者になれるか?
おい、めい、おじ、おばなどの直系親族以外の人、あるいは血縁関係のない第三者でも、家族信託の受託者になれるのでしょうか?
結論として、 いずれの家族以外の人物も、家族信託の受託者になることができます。
先述した信託法第7条(未成年者は受託者となれない)以外に、受託者になれる人を制限する規定がないためです。
家族信託は、名称に「家族」とついているので、その名の通り家族間でしかできないのでは?と考えがちですが、実は家族間でなくとも、家族信託は締結できるのです。
家族信託は、もともと「民事信託」というのが正式名称です。
民事信託を誰にでもわかりやすくするために、家族信託という名称が用いられているにすぎません。
家族信託で複数の受託者を設定できるか?
例えば、長男、次男2人両方を受託者にすることはできるのでしょうか?
結論として、 家族信託で複数の受託者を設定することは可能です。
実際に、複数の子どもで協力して、親の老後を支えたいというごご相談をいただくことはよくあります。
受託者を複数にすると、以下のようなメリットもあります。
- 信託事務の負担の分散ができる(子ども1人に負担が偏らない)
- 受託者が財産を適切に管理しているか、お互いに監督することができる
- 判断に迷ったときに受託者同士で相談できる
受託者が複数の場合の注意点
受託者が複数になったとき、いくつか注意点があります。
まず、信託契約の中に受託者それぞれの権限が定められていない場合、信託事務の処理については原則として受託者の過半数の一致が必要となる 点です。
仮に、例のように長男、次男の2人を受託者として定めた場合、受託者の権限行使には過半数の一致が必要です。
つまり、受託者2人の一致が必要となりますので、兄弟で仲違いしてしまった場合には、受託者の権限行使ができなくなってしまう といったリスクがあります。
そのため、「信託契約に長男・次男とも関与してほしい」という場合には、2名とも受託者とするのではなく、
・長男を受託者、次男を受託者の監督をする「信託監督人」に設定する
・長男を受託者、次男を第二受託者(予備的受託者)に設定する
などの方法もおすすめです。
例えば、信託した不動産(自宅や収益物件など)を売却する際に、この問題は顕著に現れます。
親(委託者)の保有不動産を信託し、受託者を長男・次男にした場合、この不動産の登記簿には受託者2名の名前が所有者欄に記載されます。
したがって、この不動産は実質的に長男・次男による共有状態となります。
不動産の処分(売却する・賃貸に出す・そのまま保有するなど)について、長男・次男の間で合意できなければ、信託不動産は売却できないことになってしまい、せっかく家族信託をした意味がなくなってしまいます。
受託者を複数にするかどうか検討する際には、このようなデメリットを踏まえて、慎重に検討しましょう。
受託者複数は可能?兄弟全員を受託者とする家族信託はできるのか?
家族信託において、委託者は資産の保有者ですので確定していますが、受託者については兄弟間で議論になることもあるかもしれません。そこで、受託者を複数名にすることは可能なのでしょうか?結論から言えば、可能です。今回は受託者を複数人にするメリット面とともに注意点について解説します。委託者が受託者になることは可能か?
結論として、 委託者が受託者になることは可能です。
委託者=受託者になると、財産を預ける人=財産を預かる人、となります。
これは「自己信託(信託宣言)」といって、委託者本人が受託者となって「受益者のために」自分の財産を管理運用することをいいます。(信託法3条3項)
自己信託では、利益を受ける受益者は、家族のケースや他人のケースもあります。
自己信託による親なきあとの子の支援
信託法の改正により、委託者と受託者が同一人物になる自己信託が可能となりました。
これにより、例えば障害のある子どものために親が自己信託する、福祉型信託と呼ばれる信託が注目を浴びています 。
この信託では、親が生きている間は財産を引き続き親が管理し、親の死後は信頼できる人や法人へ管理を引き継いでもらうよう設計します。
たとえば、親が保有する不動産から生まれる収益を、子どものために将来にわたって使うことなどが可能になります。
不動産の管理はその不動産を所有する人・法人が行いつつ、不動産が生む利益は子が得られるようにすることが可能になります。
しかし子の生活や介護等まで補うためには、成年後見制度、任意後見契約、遺言などと組み合わせた契約を作り、総合的に子の生活を守る仕組みづくりが必要となります。
受益者=受託者とできるか?
結論として、 最初から受益者=受託者とした家族信託はできない と考えて良いと思います。
受託者が自分自身のために信託財産を管理処分等をする(受益者=受託者とする)というのは、信託の本来の目的ではないからです(信託法第2条第1項)。
あくまで信託においては、信託された財産を受益者のために管理運用することが目的になります。
その信託を管理運用する立場が受託者ですので、受益者=受託者になるという設定は想定されていないケースだと言え流でしょう。
ただし、信託組成後に、後発的な理由により受益者=受託者となる場合があります。
これは相続発生時に運用される方法で、下記のような事例があります。
【例】委託者兼受益者がA、受託者がBの場合に、信託契約の規定により、Aの死亡により受益者がBとなる場合
⇒ この場合、受託者=受益者になりますが、この状態でも1年間は信託の効力を維持することが可能です。
受益者=受託者の場合は「信託の終了事由」に該当する
受益者=受託者の状態で1年経過すると、信託の終了事由に該当します(信託法第163条第2号)。
信託法第163条2号は「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき」に信託が終了すると規定しているからです。
したがって、受益者=受託者の状態で1年経過すると、信託が強制的に終了されてしまいます。
受益者=受託者でも信託の終了事由に該当しないケース
【例】委託者兼受益者がA、受託者がB、信託契約の規定により、Aの死亡により受益者がB、C、Dとなる場合
⇒ もともとの受託者Bに加えて、C・Dという受託者ではない人たちが受益者になるケースです。
受益者と受託者は「完全に」一致していないため、終了事由には該当しないことになります。
1年経過後も信託はそのまま継続し、終了しません。
受益者連続型信託の場合は贈与税に注意
信託財産の承継を定めている受益者連続型信託の場合、贈与税の面で注意が必要です。
受託者が信託財産の給付を最終的に受ける権利を持っている場合、受託者が相続税法上の「特定委託者(税務上のみなし受益者)」に該当すると課税対象となる可能性があります。
このような想定しない課税を回避するには信託契約の書き方に注意が必要です。
受託者になれない職業
5つの立場・状況にある人について、受託者になれるかどうかを見てきました。
では、受託者の職業的にはどうでしょうか。
受託者が公務員の場合
受託者が公務員で、収益不動産を管理していく場合、副業禁止規定には抵触しないのでしょうか。
結論として、 一般的な家族信託(現金あるいは自宅などを信託する家族信託)においては、公務員が受託者であっても全く問題はありません。
しかし、「多くの収益不動産を信託財産とする場合」など、一定の収益を得る場合などにおいては、検討や工夫が必要になります。
公務員(副業禁止者)が家族信託の受託者になることは可能か?
家族信託では、財産を預かる人(受託者)が、財産を預けた人(委託者)の代わりに、賃料収入等の管理をしていきます。では、財産を預かる受託者の方が公務員で、収益不動産を管理していく場合、副業禁止規定には抵触しないのでしょうか。本記事では、公務員が受託者になる場合の注意点について説明していきます。司法書士・税理士・弁護士は受託者になれるのか?
また、家族信託のトラブルを回避するには専門家(司法書士・税理士・弁護士など)に受託者になってもらえばよいのでは、という考え方もあると思います。
しかし結論として、 士業専門職は受託者になることはできません
信託業法は、事業者が受託者に就任することを事業として行うには、金融庁の免許を得なければならないと定めています。
つまり、免許を受けているのは信託銀行や信託会社など、会社名に「信託」がついている企業のみで、この免許を持った会社を有している士業事務所等のグループはほとんど存在しません。
そのため司法書士等の士業は受託者にはなれないということになります。
家族信託で「受託者」になれるのは誰?受託者を選ぶ6つのポイントを解説!
今回は、家族信託で財産を預かる「受託者」について解説します。誰が受託者になれるのかという点は、家族信託のご相談の中で、よくいただくご質問です。その中でも、今回は、「未成年者・家族(子、孫などの直系親族)以外・複数名・委託者・受益者」これら5つの立場・状況にある方が、家族信託の受託者になりうるか、解説していきます。また受託者になった後にしなければならないことも解説します。まとめ
「家族信託で受託者になれるのは誰か?」について、ご説明いたしました。
家族信託という名称でありながら、家族以外でも受託者になれる 、という点がポイントです。
頼れる家族がいない方でも、家族信託を活用できる可能性はあるということです。
受託者を誰にするかは、家族信託をするにあたって非常に重要なポイントになります。
また、贈与税の部分でも信託契約の設計が重要となりますので、不明な点等ある場合は、ぜひ専門家にご相談ください。
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家族信託の「おやとこ」では、
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