家族信託において、財産を預ける方(委託者)を年齢別に見ると、その多くが70代以上の方となります。
実際に弊社における家族信託の事例を見ても、委託者の方の多くは70代、80代の方でした。
委託者となる方が高齢の場合、その方が介護施設などに入居しているといったケースもあると思います。
もちろん、委託者が施設に入居している場合でも、問題なく家族信託をすることはできます。
しかし、施設側が面会を一切禁止しているなどの事由がある場合には、本人確認や意思確認の面で信託契約が困難となる場合もあります。
そこで、今回は「委託者となる方が施設入居中の場合でも家族信託できるのか」という部分について、実際の事例や実務の観点から対処法を見ていきたいと思います。
【参考記事】
・家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します
・家族信託は危険?実際に起こったトラブルや回避方法
・家族信託に必要な費用を解説!費用を安く抑えるポイント
・家族信託で気をつけるべきデメリット・注意点10選
・認知症になると銀行口座が凍結される理由と口座凍結を防ぐ方法
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目次
入所した親の自宅の管理について
高齢となり施設に入所すると、自宅に戻る機会も少なくなります。
子や親族が近くに住んでいれば家の管理もできますが、住む人のいない住宅の掃除などの管理は負担になることも多いようです。
施設へ入所できるとホッとしますが、同時に、入所関連の費用を考えなくてはなりません。長期間続く支払いですので、まとまった額を見積もる必要があるのです。
家を売れば準備できるはずの介護費用
介護費用は実家を売れば準備できる、と考えていても、名義人(親)がもし意思能力を失ってしまうと売却もできなくなります。
親が名義人である場合、家族であっても自宅を売却することも賃貸することも、修繕をすることもできなくなってしまいます。
施設にもよりますが、介護施設での暮らしには入所金で数十万円〜数百万円単位で必要となり、月額利用料も数万円必要です。
生前贈与すると当然、贈与税も課税されます。
この問題について対応できるのが「家族信託」です。子や親族に資産管理を委託する信託契約を結び、自宅の売却などの資産管理を依頼することができます。
売却の依頼をして利益は資産保有者のものとなる(受益者)ため、贈与税については課税の心配もありません。
ただ、信託契約には委託者の契約能力や委託する意思の確認が必要となるため、入所していても一定内容の面談が必要となるのです。
本人の意思能力は非常に重要なポイントであり、そのほか、預金口座の凍結などのリスクもあるのです。
それらの問題について次項で確認しておきましょう。
(1)入所費用の捻出と預金口座の凍結について
上記のような実家の売却について家族信託を締結していれば解決できますが、本人の意思能力が低下していると信託契約そのものを結ぶことができません。
さらに注意が必要なのが、預金口座の凍結です。
本人の意思能力が確認できないと判断されれば、金融機関側が預金口座の利用を凍結するケースも多いのです。
年金が振り込まれても引き出せなくなるケースが考えられます。
(2)口座利用の凍結と金融機関の対応
本人の意思能力を確認できない状況になると、金融機関側としては正式な法定代理人との手続きを求めるケースが多くなります。具体的には「法定後見人」制度の利用です。
一部の金融機関で口座取引の代理人の制度を設けている所もあるものの、どうしても数が少ないのが現状です。
導入している銀行でも、実際の取扱い窓口は拠点となる支店窓口のみに限られていることもあり、また、預入額に最低限度額が設けられている所もあります。
(3)成年後見制度の「法定後見人」を利用した場合
もし、早めに家族信託等の備えをしていなかった場合、「法定後見」制度を利用せざるを得なくなります。
後見人(代理人)が就いて本人の代わりに定期預金の解約などの法律行為をすることになり、各種手続きが可能となりますが、後見人は本人の財産の保全を目的としています。消極的な範囲でしか法律行為を行いません。
そのため、介護費用の捻出で売却等の必要性がないと判断した場合には、本人が亡くなり相続が発生するまで、自宅はそのまま親族の管理とされてしまいます。
このように後見人などの救済制度はあるのですが、親族の意向は反映されにくくなり、選択肢が無い状態に陥ります。
このような事態を防ぐために「家族信託」を契約しておくと安心なのです。
資産を子などの親族に信託し、万一、判断能力が低下してしまった場合でも資金繰りに困ることがないように備えておきましょう。
家族信託の前提となる「意思確認」
このように老後生活の資金準備や自宅の管理については事前の備えが重要であり、また、どうしても子や親族の手を借りることになります。
家族信託により、委託者が財産を預けることができれば各種管理や手続きの心配もなくなります。
ただし信託契約をするため、委託者(資産の所有者)の契約能力が必要です。
「自分の財産を受託者に預けて管理してもらう」という意思がしっかりと表明されている必要があります。
そして、信託の組成をサポートする専門家や公証人などが、委託者及び受託者の意思を確認し、問題ないと判断したうえで家族信託の契約手続きを行います。
このように、家族信託をするうえで重要なポイントとなる「意思確認」とその方法について見ていきましょう。
意思確認の方法について
では、この「意思確認」はどのような形で行われるのでしょうか?
原則は「対面での面談」の形によりますが、様々な事情により対面での面談が難しいケースもあるかと思います。
(1)信託組成をサポートする専門家による意思確認
オンラインでの面談方式を用いた意思確認が実施されることもあります。オンライン方式を用いるかどうかは、相談先の専門家によります。
(2)公証人による意思確認
信託契約を公正証書の形で締結する際の公証人による意思確認の場合には、「対面での面談」となり「オンライン面談」で実施することはできません。
(3)信託登記の際の司法書士による意思確認
また、信託する財産に不動産が含まれる場合、不動産の信託登記をする必要があります。
登記については、司法書士が委託者の意思を確認したうえで行われ、対面での面談による意思確認が原則となっています。
不動産を信託する場合は意思確認が重要となる
この事例では、委託者の意向に沿って信託契約の作成を進めていました。
「将来的に、自分が認知症になってしまった後においても自宅を売却できるようにしておきたい」という不動産処分の計画です。
まず、信託組成のため、上述の意思確認(1)のように本人確認、意思確認が必要です。
そして不動産を信託するため、少なくとも(3)のように信託登記に関する意思確認が必要となります。
また、売却資金の振込先として委託者の預金口座が必要です。
信託契約で受託者が管理するには「信託口口座」「信託専用口座」など、受託者として口座を開設し、その口座に売却代金を振り込んでもらうことになります。
預金口座開設には信託契約書が公正証書であることを求められるため、(2)公証人による意思確認も必要となります。
つまり、信託契約を公正証書の形で締結する場合や信託する財産に不動産が含まれる場合には、必ず委託者及び受託者の方と公証人や司法書士が面談をする機会を設ける必要が生じるのです。
《信託口口座作成について》
信託を運営する上では、大きな額の定期預金等がなくても、経費の支払い等に対応できるよう、ある程度の現預金の残高が必要になります。
実務上は信託口口座の開設をはじめのうちに検討し、金融機関に信託取引についての確認をしていきます。
これは金融機関ごとの規程に沿った信託契約書の提示が必要となる可能性があるからです。
まずは信託口口座の開設の相談から取り掛かり、契約書の案の確認を受けてから、公正証書作成という流れがスムーズになります。
また、信託資産の内容や種類によっては手続き・手順が特殊なケースもあります。対応の難しい場面もあると思いますので、手続きの面など専門家へご相談ください。
入所している委託者との面会事例
このように、最初の段階では重要な手続きを踏む家族信託です。本人の意思確認についても非常に重要な意味を持ちます。
しかし、委託者が施設に入居中の場合、感染症などの各種事情により面会禁止になったり、その期間が非常に長期間になることもあります。
この事例でも面談などの日程調整を検討していたところ、入所先の施設が面会禁止になったという連絡を受けました。
それでも適切な手順を踏むことで、最終的に施設側に面会時間を確保していただき、信託契約の締結が完了しました。
この事例についてお伝えします。
面会の申請の段階で重要性を理解してもらう
今回、顧客の資産管理の依頼を受けている立場として、受託者(委託者の長男)に代わって次のような点を説明しました。
施設側が面会を許可するための具体的な理由と緊急性を理解できるように説明する必要があります。
- 家族信託という制度を使用するために契約を締結したい旨
- 財産を預ける大切な契約なので、対面で対応しないとならない旨
- 認知症などが進んだ場合には、契約締結が難しくなる旨
- 面会時間は1時間で構わない旨
まずは簡単な説明から入り、概要を伝えています。
資産管理のため「家族信託を実行する」「そのため委託者本人との面会が必須である」という点がポイントとなるでしょう。
その後で詳細に入り、事情を理解してもらうように話をしました。
- 家族信託の説明(委託者が所有する財産を受託者に預けて管理してもらう制度である旨)
- 財産管理についての非常に重要な契約であること
- 契約を法的に成立させるため、専門家や公証人による委託者との面談が必須であること
- 具体的な面談時間(家族信託の契約締結には40分から1時間程度かかるものと思われます)
- 認知症など意思能力の低下が進んでしまうと信託契約が不可能となるため早期の面談と契約が必須であること
親族が施設側に面会を求める場合、他の面会希望と同じように受け止められたり、単に親族が面会を強く希望しているという程度にしか捉えられないこともあるかもしれません。
しかし今回のように専門家から面会希望を申請することで、専門家が介入して進めている重要な事柄であることが伝わりやすくなります。
施設側としても利用者の資金繰りは重要な事項です。施設側が面談を許可しないという理由による責任問題も想起させることもあるでしょう。
このように、専門家から話をした方が理解してもらいやすい場合もあるのです。
今回、結果として、施設の責任者の方に家族信託の契約の重要性と面会の必要性などを理解いただけたことで面会の許可が下りました。
無事に公証人立会いのもと、信託契約の締結が完了しました。
まとめ
委託者が施設に入居している場合に重要となるのは、「委託者の意思確認のための面会時間確保」です。
施設側としても様々な理由があり、やむを得ず面会が禁止される場合があります。
ただし、面会が禁止されている場合でも、施設側に面会時間を確保してもらいたい旨をしっかりと説明することです。
説明の際には、「家族信託の契約の重要性」「委託者との面会の必要性」「認知症などが進むと契約ができなくなるリスク」をしっかりと施設側に伝えるように心掛けましょう。
場合によっては専門家が間に入った方が、施設側へ信託契約の重要性がしっかりと伝わる可能性があります。
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