「家族信託を使ったら、大変なことになった」
「こんなことになるなら、家族信託を最初からやめておけばよかった」

などと、家族信託は使い方を間違えると、贈与税などの思わぬ課税を受けたり、家族の信頼関係にひびが入ってしまうなど、家族信託をしたあとに後悔してしまうような事態を招く可能性もあります。

このような事態を避けるために、本記事では「家族信託で失敗・後悔しやすい12のパターン」をご紹介します。

これから家族信託の利用を検討している方は、ぜひ参考にしていただければと思います。

家族信託についてまだ知らない、という方はまずはこちらの記事を参考にしてください:
家族信託とは?メリット・デメリット・費用について

要約

  • 他の家族に隠して特定の親子で家族信託を進めた場合、後々トラブルになりやすい
  • 契約書の内容に誤りがある場合、契約書そのものが無効になるケースも
  • 契約書の設計の仕方によっては、予期せぬ税金がかかってしうことも
  • このような失敗の原因は、多くが専門知識不足によるもの
  • 家族信託の経験が豊富な専門家に相談して失敗・後悔しない契約をしましょう

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よくある家族信託の後悔・失敗 事例12選

失敗例1. 親の認知症が進んで信託契約ができなくなる

家族信託は、認知症を発症し意思能力を完全に失った後には利用することができません

家族信託は委託者(親)と受託者(子)の契約で成立するため、両当事者には意思能力があることが前提となるためです。

家族信託を検討している最中や、契約締結に向けて進めている間に認知症が発症または進行してしまい、契約ができなくなってしまうことがよくあります。

まだ元気なので「今後ゆっくり検討しよう」と思っている間に、認知症を発症したり、認知症が急に進行してしまう、などのケースをよく見かけます。

認知症になってしまった後は、成年後見制度(法定後見)を使うほかありません。

家族信託の方が成年後見制度より柔軟で使い勝手が良いため、「もっと早く家族信託について検討しておけばよかった」と後悔する前に、早めに対策しておくことが望ましいと言えます。

失敗例2. 信託できない財産を対象にしてしまう

家族信託には、信託の対象とすることができない財産もあります。

代表的なものは「農地(田・畑など)」や「預貯金口座」などです。
これらの財産は、信託契約書に記載をしても信託の効果が生じないので注意しましょう。

◎ 農地(田・畑など)

「農地」は、農地法という法律に則った手続きが必要です。信託財産とすることは基本的に認められません。

家族信託は、高齢者の財産を家族が代わって管理する制度です。信託される主な財産には、預貯金などの他、土地や建物などの不動産が考えられます。ただし、信託する土地に地目が「農地」の物件があった場合、信託の対象にする際に注意が必要です。今回は地目が「農地」の土地について詳しく説明します。
農地は家族信託できるのか?わかりやすく解説します

◎ 預貯金口座

「預貯金口座」は、金融機関との契約で譲渡禁止特約という約定があります。
よって、自由に名義変更することはできません。

例えば親と家族信託契約を結んだ子が「家族信託契約を結んだので親の預貯金を下ろしたい」と申し出ても対応してもらえないのです。

ただし、預貯金口座の中にある金銭はもちろん信託が可能です。
一般には信託口口座 という家族信託専用の口座を作り、家族信託の契約後に親の預貯金口座から信託口口座に送金を行い、信託口口座で金銭の分別管理を行います。

家族信託を利用する場合、信託法で受託者は「分別管理義務」を負い、信託された財産と個人の財産とを分別して管理しなければならないとされています。この記事では信託口口座の特徴や口座の開設方法などについてご紹介しますので参考にして下さい。
家族信託の口座(信託口口座)のつくり方について解説

◎ その他信託できない財産

他にも、例えば親が年金受給権者である場合の「年金受給権」も信託ができません。

年金受給者へは通常、偶数月に口座へ年金が振り込まれます。
年金受給権は他人に譲り渡すことができないことから、信託財産の対象外とされています。

自分の財産の一部を頼れる家族に託して管理してもらう「家族信託」ですが、中には信託できない財産も存在します。家族信託ができない財産にはどのようなものがあるのでしょうか?老後生活で重要な収入源となる年金はどうでしょうか?この記事では、年金は信託できるのか?信託できない財産とは?について解説をさせていただきます。
年金は家族信託できるのか?家族信託できない財産とは?

失敗例3. 不動産の家族信託で高額な税金が発生

家族信託は高齢者の財産を家族で守ることを目的とした制度であり、税金対策を目的としている制度ではありません

家族信託の制度や特徴をよく知らずに活用してしまうと、想定外の贈与税や相続税が課される可能性があります。

例えば、

  • 委託者以外へと受益権を移動させたことで、受益権に対する贈与税が課税される
  • 受益者の不動産所得が大きく増加したことで、想定外の相続税が課税される
  • 不動産を信託財産とし、親が亡くなった後の信託契約終了登記の際に登録免許税が課税される

などが挙げられます。

登録免許税は、課税される税率が2パターンあります。
契約書の内容によっては高い方の税率が採用され、その差は5倍にもなる可能性もある点に注意が必要です。

想定外の税金で後悔しないよう、専門家と税金のシミュレーションや対策を行いましょう。

失敗例4. 30年ルールにより強制終了

家族信託では当初の受益者が亡くなった後も、受益者を子や孫へと順番に財産を承継し続けることが可能です。
この方法は、信託法第91条により「受益者連続型信託 」として定められています。

信託法第91条

「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。」

引用:信託法|e-Gov法令検索

しかしこの信託法には「信託契約締結後30年経過したときの受益者、または次の受益者が死亡すれば終了する」旨の30年ルール が存在します。

家族信託を開始してから30年が経過すると、新たな受益権の承継は1回に限られるというものです。

したがって第二受益者・第三受益者と設定をしても、必ずしも最後まで連続して承継できるわけではない点に注意が必要です。

失敗例5. 自分たちで契約書を作成して不備が発生

昨今、インターネット上で家族信託の流れ、手続き方法、契約書のひな型など、さまざまな情報を取得できるようになり、家族信託を自分でやりたいと仰る方が増えてきました。

しかし、家族信託の契約手続きを自分たちだけで進めることはおすすめできません。

家族信託は対象家族の状況(相続人の数、家族間の関係性、委託者の相続の意思など)に応じて、慎重かつ柔軟に設計する必要があります。
また、家族信託の契約を作るにあたっては、信託法など家族信託の基となっている法律知識や、税務知識などの専門的な知識も必要です。

インターネット上での雛形のままでは不備となる可能性が高く、あくまでも参考までに留めておくと良いでしょう。

自分たちだけで契約書の作成を行うと不備を発見できず、将来的な相続トラブルへと繋がり後悔してしまうこともあります。

そのようなリスクを防ぐためにも、家族信託に精通した専門家の力を借りて、有効性を確保した契約書の作成を依頼することをおすすめします。

家族信託を自分で手続きすることは可能ですが、法律や税金の専門知識がなければ、信託自体が無効になったり、親族間トラブルに発展したりなどのリスクが発生する可能性が高まります。本記事では、家族信託を自分でやる手続きについて、法律や税金の観点からも詳しく解説していきます。
家族信託を自分でやる?必要な手続き・やり方・注意点を解説

失敗例6. 公正証書を作成しなかったため信託口口座が開設ができない

家族信託の契約書は、財産管理者・利益の帰属先を決める非常に重要な文書です。
そのため、法的な有効性が担保されるよう公正証書での作成 がおすすめです。

私文書による契約も有効ではあるものの、委託者が認知症になった後に思わぬトラブルになるリスクがあります。

また、受託者は受託者自身の財産と信託財産を分けて管理する必要があり、信託口口座を新たに開設しなければなりません。

金融機関によって異なりますが、信託口口座の開設には公正証書で作成された信託契約書が必要とされることが多いのです。

「公正証書を作成していなかったために、信託口口座を開設できない」などと後悔しないよう、信託口口座の開設のために必要な準備を行いましょう。

家族信託も信託契約になりますので信託法のルールに沿って作成することになるのですが、法的には公正証書で作成しなくても問題はない、という解釈になります。今回は「公正証書化」が必要なケースについてご紹介します。信託契約書を公正証書で作成した方が良いケース、公正証書での作成にすべきケースについても説明していきます。
家族信託に公正証書が必要?私文書では危険?メリット・デメリット、必要書類や手続きの流れ、費用を解説

失敗例7. 家族・親族間の仲が悪くなる

家族信託では委託者(親)の財産の管理人を指定したり、将来の相続について指定したりと、多くの重要な決定を行います。
非常にセンシティブな内容を取り扱うことから、親族間で揉めたり、結果的に不仲になるケースも少なくありません。

家族の信頼関係をベースに行われるべき家族信託が、逆にトラブルの元と化してしまう事態は避けたいところです。

家族信託は相続と違い、相続人全員で手続きする必要がなく、当人同士が合意の上で契約書を作成すれば締結でき、契約が成立します。

そのため、他の親族に説明をせず進めてしまったり、当人同士も理解が曖昧になったまま締結してしまうケースもあるようです。

家族信託を締結した後になって「こういうルールは知らなかった」「私には説明がなかった」など、他の家族・親族からのクレームにより、家族信託がストップしてしまうこともあります。

家族信託を検討している方は、当人たち以外の家族・親族との問題やトラブルを防ぐために、関係者全員に説明を行いましょう。

家族信託は、委託者が親、受託者が子、という契約が一番多いパターンです。その他の親族の同意は、法的には必要ありません。ただし家族の同意を得ないまま信託契約を進めると、後に親族間でトラブルになるケースも多々あります。この記事では、家族信託をする際の他の親族に対する注意点や、トラブルを防ぐ対策法について解説をしていきます。
家族信託の契約を結ぶ際、家族の同意は必要?

失敗例8. 受託者に権限と負担が集中

家族信託では、信託した財産管理の権限と負担の両方が受託者に集中します。

例えば信託した不動産においては、売却金額や売却の時期を受託者の一存によってが決めることができるため、適正に管理していたとしても、受託者以外の相続人から見ると不公平だと思う気持ちが発生しやすいでしょう。

一方、受託者としても財産を適正に管理・運用・処分する労力がかかり、権限が集中することも負担に感じてしまうことがあります。

このような双方の不満が募り、家族内でのトラブルに発展するリスクがあります。
事前に受託者の権限や、受託者が負担する事柄について、十分に家族内で話し合う必要があります。

失敗例9. 遺留分でトラブルが起きる

遺留分とは相続の際に特定の相続人が遺産を相続できる最低限の取り分 のことを指します。
遺留分は、遺言があったとしても奪うことのできない、法定相続人に与えられている権利なのです。

遺留分は下記のように、相続人の人数や家族構成などによって細かく決められています。

  • 子だけが相続人の場合:相続財産の2分の1
  • 子と配偶者が相続人の場合:相続財産の4分の1など

家族信託も、この遺留分を侵害する契約内容にはできません。

信託契約書を作成する際には遺留分にも配慮して作成し、将来的なトラブルをあらかじめ防ぐ必要があります。

後々になって遺留分侵害額請求の火種が生まれ後悔しないよう、注意が必要です。

失敗例10. 経験・知識の少ない専門家に依頼

家族信託は契約を締結してからがスタートであり、数年〜長期間にわたり継続していく仕組みです。

契約内容は必要に応じて後から多少の変更が可能ですが、影響力が強い契約のため慎重に進め実行していく必要があります。

法律の専門家でも家族信託の取り扱い経験が少ない(家族信託の組成件数が100件にも満たない)事務所も多く、家族信託に精通した専門家が少ないのが現状です。

家族信託をする際には、経験豊富な専門家に依頼すると同時に、本記事で紹介しているような注意点についてご自身でも配慮して進めましょう。

家族信託の相談先は、司法書士がおすすめです。司法書士は主に登記手続きを専門分野としていますが、業務上、生前対策や相続、成年後見制度の知見も豊富です。 その他の士業との違いや、相談先を選ぶときのポイントについて、詳しく解説していきます。
家族信託はどこに相談すべき?専門家の選び方や相談事例を徹底解説!

失敗例11. 専門家への初期費用が高額になる場合がある

専門家に家族信託を依頼する場合、家族信託のコンサルティング料、契約書の作成費用、公正証書の作成費用、信託登記費用など発生します。
おおよその総額は信託財産の1%〜となるケースが一般的です。

ただし、成年後見制度と異なり、継続的な専門家への報酬の支払いなどは原則発生しません。

家族信託の組成には高度な専門知識が必要です。
そのため安ければ良いというわけでは決してありませんが、費用・専門力・経験・相談のしやすさなどを天秤にかけて、慎重に専門家の見極めを行いましょう。

親が高齢となり「認知症などによって、両親の財産の管理ができなくなったら」と不安に思うことはありませんか。実際、認知症の発症・判断能力の低下によって、利用している金融機関に口座の利用凍結をされることがあります。本記事では、将来の不安に備える対策として、「家族信託」と「後見人制度」について、費用面の比較をしていきます。
家族信託と成年後見制度はどちらの費用が高い?比べてみました

失敗例12. 損益通算ができなくなる

損益通算とは、同一人物が所有する損失と利益を相殺すること を言います。
例えば赤字経営の不動産を所有している場合、所得税の計算時にはその損失を損益通算の対象にできるのです。

しかし、赤字の不動産を家族信託の対象とした場合は、損失が発生していないものとされ損益通算ができなくなります
そのため、他に黒字の不動産を所有している場合は、思わぬ額の税金が発生し、後悔につながる可能性があります。

不動産収益のある方は、家族信託の締結前に専門家に相談し慎重に家族信託の設計をしましょう。

家族信託の失敗・後悔を避けるために

ここまで「失敗・後悔する12のパターン」をご紹介してきました。
家族信託は正しく知識をつけ、適切に運用することさえできれば、認知症による資産凍結対策としてとても有効に働きます。

ここからは、上記で挙げた主なリスクを回避するための方法をご紹介していきます。

方法1. 親が認知症になる前に契約する

前述の通り、意思能力が完全に失われてしまうと契約行為を行うことができないため、家族信託も利用できなくなってしまいます。

したがって、親が元気で意思能力に問題のないうちに、早めに家族で将来について話し合い、専門家へ相談しましょう。

なお、認知症の診断があっても、進行度合いによっては家族信託を締結できる可能性は残されています。
詳しくは参考記事をご覧ください。

家族信託は、認知症になったからといって、すぐにできなくなるというわけではありません。 家族信託に関する理解や、判断能力が確認できれば、認知症発症後でも取り組めるケースがあります。家族信託ができるかどうかの判断基準や認知症の程度について、詳しく解説していきます。
家族信託は認知症発症後でもできる?判断基準や始める時期を徹底解説

方法2. 家族全員で仕組みを理解する

既にご紹介したとおり、家族信託を進める際には家族全員の理解が必ず必要です。

「家族信託の目的や仕組み」「相続についての考え」を理解し、他の家族・親族へ説明できると良いでしょう。
子の一人から他の親族へ説明をするよりも、委託者となる親本人の言葉で説明を行った方が、スムーズな話し合いがしやすく・全員からの同意も得やすいからです。

「相談されなかった」「知らなかった」という感情面での不安が生まれると、将来的にトラブルや揉めごとに繋がることもあります。
このようなリスクを未然に防ぐためにも、推定相続人など可能な限り全ての親族から理解と同意を得て、納得の上で家族信託を利用できることが理想です。

どうしても親族全員での話が難しい場合は、専門家に間に入ってもらうことも検討しましょう。

方法3. 家族信託以外の相続対策も検討する

家族信託を行う前に、他の制度とも比較することをおすすめします。
主に以下について検討すると良いでしょう。

  • 成年後見制度(法定後見・任意後見)と家族信託の違い
  • 遺言書と家族信託の比較、あるいは併用

それぞれ全く異なる制度のため、それぞれの趣旨を理解・比較し進めましょう。

高齢者の財産を本人以外が管理するには、家族信託と成年後見制度があります。家族信託と成年後見制度は特徴が異なるため違いについてしっかり理解することが重要です。家族信託と成年後見制度の違いや、どちらを使うべきか?について解説します。
家族信託と成年後見の違いは?どちらを使うべき?

方法4. 必ず専門家に相談する

家族信託契約書は法的な妥当性・有効性を担保し、後々トラブルに発展しないよう設計することが重要です。

インターネット上での雛形だけでは、記載内容の抜け漏れや誤りの原因となり、受託者の財産管理・運用・処分に支障をきたす可能性もあります。

家族信託に精通した専門家に相談することで、このようなトラブルを回避できるだけでなく、より適切な方法の選択にも繋がるでしょう。

ご家族にとってベストな選択・運用のためにも、専門家への相談や依頼をおすすめします。

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よくある質問
家族信託で後悔するのはどんな時ですか?

ほとんどの家族信託の失敗は、家族信託の専門知識が不足しているために起こると言えます。

契約書の内容に誤りがあり契約書そのものが無効になったり、税金の知識がないために予期せぬ税金がかかってしうこともよくあります。

また、他の家族に十分に配慮しておらず後々の家族トラブルになるケースも散見されます。

詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶【家族信託の失敗と後悔】よくある家族信託の失敗事例12選

家族信託の費用はいくらですか?

家族信託を行う際にかかる費用は信託財産の1%程度が目安と言われています。

登記費用や公証役場の費用など、契約内容に応じて別途費用が発生することもあります。

経験豊富な専門家であれば、家族信託の費用を抑える方法を検討してくれるはずです。

詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶家族信託に必要な費用を解説!費用を安く抑えるポイントとは?