高齢の親御様が自宅や収益不動産を所有している場合、
・親が自分でいつまで不動産の管理ができるのだろう?
・いざというときに、滞りなく売却して現金化することができるか?
などの不安を感じることもあるのではないでしょうか。
家族信託を活用すれば、柔軟に不動産の管理・売却・運用ができる可能性があります。
本記事では、不動産の所有者が家族信託を活用した際のメリットとデメリット、家族信託した不動産を売却する方法、課税されうる税金など、事例を交えて徹底解説していきます。
要約
- 不動産を家族信託すると、親が認知症になっても不動産の売却・活用・管理などができる
- 不動産を家族信託すると、兄弟間での共有問題の解消に役立つ
- 不動産を家族信託すると、委託者・受託者・受益者で課税される税金が異なる
- 不動産の管理・運用・売却については契約内容をしっかり決めておくことが重要
- 思わぬリスクを避けるため、家族信託に詳しい専門家と相談しながら進めましょう
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目次
家族信託とはどのような仕組みなのか?
まず、家族信託の仕組みについてご説明します。
家族信託とは家族内で行うことのできる財産管理の方法の一つで、不動産や預貯金などの財産について、その管理・処分を信頼できる家族に任せる 仕組みのことです。
家族信託では 「委託者」「受託者」「受益者」 という3者を決めて、依頼する内容を契約します。
- 委託者…自分の財産の管理・処分を任せる立場の人
- 受託者…委託者から財産を引き受けて、信託契約で定めた目的に従ってその管理・運用・処分を行う立場の人
- 受益者…通常、委託者と同一人物。信託された財産の管理・運用・処分により発生する収益等の利益を受け取る人

仮に受益者を委託者以外の第三者とした場合、受益者は委託者から財産の贈与を受けた者として贈与税がかかる可能性があるため、一般的には「委託者=受益者」 で信託契約を結びます。
典型的な家族信託の例としては、高齢者である親を委託者兼受益者、その子を受託者とし、親の老後のために、親の財産の管理・運用を子が引き受ける、といった形が挙げられます。

家族信託を組成する際には、専門家に相談やサポートを依頼することも可能です。
家族信託の仕組み・デメリット・費用などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説!
家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ仕組みです。本記事では家族信託の詳細や具体的なメリット・デメリット、発生する費用などについて詳しく解説します。将来認知症を発症しても、親子ともに安心できる未来を実現しましょう。
【事例紹介】家族信託で不動産を活用する方法とは?
家族信託では、信託する財産を自由に決めることができます。
そのため所有する不動産を信託し、管理や売却などの手続きを家族などに依頼することも可能です。
家族信託の活用をおすすめすることが多い相談内容は以下の3つです。
- 施設への入所で空き家になる家の管理・処分を家族に託したい
- 収益物件の管理を自分で行うことが難しくなってきた
- 障がいを持つ子に安定的に財産を残したい
ここからは不動産を家族信託した具体的な活用事例について紹介します。
事例1:施設入所で空き家になる家の管理・処分を家族に託したい

妻を亡くし自宅で一人暮らしをしているAさんは、老人ホームへの入所を検討していました。
入所後は、自宅は空き家になる見込みです。
Aさんは自宅以外に大きな資産があるわけではないため、将来的には自宅を売って施設の費用や生活資金に充てたいと考えています。
ただし、施設から思い入れのある自宅に戻る可能性も残しておきたいため、今すぐに自宅を売却する気にはなれません。
そこで、Aさんは息子であるBさんと家族信託契約を締結し、自宅を信託財産としました。
これにより、万が一Aさんが認知症などになってしまった場合でも、息子Bさんの判断によりいつでも自宅を売却できる ようになります。
当面はAさんの意向を尊重して自宅を空き家のまま管理しつつ、いざというときは息子Bさんの判断により自宅の売却や賃貸といった処分、運用をすることができます。
家族信託契約を締結したことによって、息子Bさんは資金面での不安もなくなり、父であるAさんは安心して施設に入所することができました。
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事例2:収益不動産の管理を自分で行うことが難しくなってきた

Cさんは収益不動産を複数所有していますが、高齢になり、賃貸人としての様々な手続きを自分で行うことが難しくなってきました。
そのため、不動産を息子Dさんに譲りたいと考えましたが、今すぐ(生前に)息子Dさんに不動産を贈与すると、多額の贈与税がかかってしまいます。
そこで、息子Dさんと家族信託契約を締結し、収益用不動産を信託財産としました。
これにより、贈与税を負担することなく収益用不動産を息子Dさんが管理・運用できる ようになりました。
Cさんは収益不動産の管理から解放されるだけでなく、受益者として収益不動産からの収益を引き続き得られるため、安心して生活できるようになったのです。
事例3:障がいを持つ子に安定的に財産を残したい

夫を亡くし自宅で一人暮らしをしている高齢のEさんは、障がいがあり自身で財産管理をすることの難しい娘Gさんがおり、自分たちが亡くなった後の生活が心配でした。
そこで、財産の管理ができるもう一人の息子F(長男)さんを受託者とする家族信託契約を締結しました。
所有する収益不動産の管理・処分の権限を息子Fさんに与え、母Eさんが亡くなった後は、受益者を母Eさんから娘Gさんへ移す契約内容としました。
これにより、母Eさんは自分が亡くなった後も、娘Gさんが収益不動産から得た収益を継続的に受け取れる仕組みを作ることができ 、将来の不安を軽減することができました。
不動産を家族信託するメリット
不動産を家族信託する上で得られる主なメリットは以下の4つです
- 認知症になっても不動産の売却ができる
- 不動産を承継する人の順位付けができる
- 任意後見よりも自由に不動産の管理・運用ができる
- 共有不動産の問題解消に役立つ
ここからは具体的に解説をしていきます。
1. 認知症になっても不動産の売却ができる
認知症になり判断能力が低下すると、契約行為ができなくなるリスク があります。
つまり、自分で不動産を売却するといった手続きを進めることが難しくなります。
そのため将来、認知症になった場合に備えて、家族信託を利用して家族に自宅の売却を託す方が増えています。
参考: データで見る家族信託
2. 不動産を承継する人の順位付けができる
家族信託を利用すると、二次相続まで含めて不動産を相続させる順位を指定できます 。
遺言書の作成でも不動産の相続人の指定ができますが、遺言には限界があり二代先の相続については指定することはできません。
一方、家族信託であれば、自分が亡くなった後(一次相続)に財産を引き継ぐ人だけでなく、その次に財産を引き継ぐ人(二次相続)についても指定することができます。
直系の家族に土地を引き継いでいきたいなど、代々所有している不動産や事業がある場合などの場面で多く活用されています。
3. 任意後見よりも自由に不動産の管理・運用ができる
将来の判断能力低下に備える方法として、任意後見制度 があります。
任意後見制度は判断能力が低下した本人に代わり、任意後見人が本人の財産の管理などをする制度です。
任意後見制度は、本人が元気なときに、家族などの任意の人を後見人に指定して契約をしておく制度であり、いわゆる法定後見制度と比較すると、使いやすい制度だと言われています。
ただし、任意後見制度は家庭裁判所に申立て、後見監督人が選定されてから利用がスタートする制度であるということを念頭に置く必要があります。
必ずしも不動産を自由に管理・運用できるわけではなく、基本的にリスクのある資産運用などは制限されます。
また、任意後見制度は、毎年裁判所への報告書を提出する必要があるなど、後見人に手間がかかり負担も大きくなります。
そのため、資産所有者の判断能力が低下する前に契約をすることができる方法としては、家族信託の方が不動産の管理・運用・処分などの自由度が高いと言えます。
4. 共有不動産の問題解消に役立つ
所有している不動産がある場合、不動産から得られる収益を子達に均等に分けたいという希望もあると思います。
しかし、兄弟間で不動産を共有させた相続が行われてしまうと、いざ売却をしたくなった時に共有者全員が同意しなければ、売却などの処分行為ができないという制限も伴います。
相続した不動産を活用できず、運用も売却もできないような、”塩漬け状態”になってしまうことも多いのです。
家族信託を利用することで、不動産の管理・運用・処分を子のうちの1人に依頼をしつつ、収益は平等に分けるという仕組みを作ることができるようになるのです。
不動産を信託財産にするデメリット・注意点
不動産を信託財産にする場合の主なデメリット(注意点)は以下の5つです。
- 受託者にふさわしい家族がいなければ難しい
- 関係者は長期間にわたり拘束される
- 契約内容をしっかり作り込まなければならない
- 信託登記などの手間がかかる
ここからは具体的に解説していきます。
1. 受託者にふさわしい家族がいなければ難しい
家族信託を利用する場合、信頼できる家族の中に、不動産の管理や処分を適切に行う能力のある人がいるかどうか がポイントとなります。
信頼でき、かつ能力の高い家族がいれば安心して受託者に選ぶことができますが、そのような人がいなければ自分の不動産を安心して託すことは難しくなります。
信託法では、受託者となれるのは家族に限定されているわけではありませんが、将来相続が発生した際のトラブルを避けるためにも、できれば身近な家族の中から受託者を選んだ方が良いでしょう。
適任者がいない場合、代理行為に制限のある任意後見人を選ぶなどの方法で対策を考える必要があります。
また他の家族が受託者の能力や人間性などに疑いを持っている場合、受託者に対して不満をもつ可能性もあります。
このような場合は、受託者を監督する「信託監督人 」を設置することでトラブルを回避する方法もあります。
信託監督人とは?〜家族信託を監視・監督する重要な役割〜
この記事では「家族信託の重要人物〜信託監督人〜」と題して、家族信託における「信託監督人」についてお伝え致します。家族信託では委託者は資産の管理・運用を受託者に依頼しますが、さまざまな理由から、受託者の財産管理に不安があるケースもあると思います。その場合に活用できる信託監督人について、この記事でご紹介します。
2. 関係者は長期間にわたり拘束される
家族信託契約は、契約してからが始まりであり、場合によっては長期間にわたり続いていきます。
その期間、受託者である子は信託契約の内容に拘束されることになるのです。
毎年、受益者である親に向けて信託された財産の収支を報告し、報告書類を保管する手間も発生します。
3. 契約内容をしっかり作り込まなければならない
家族信託を利用して、不動産の売却などの処分行為についての権限を受託者に与えた場合、受託者は個人の判断で不動産の売却などができます。
委託者が想定していたのとは違うタイミングで不動産を売却されてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
受託者は自分一人の判断で不動産を売却できるため、委託者の意図と異なる処分をする可能性がありますが、その判断は信託契約に定めた目的に沿った内容である必要があります。
信託した財産管理のためにも、信託の目的や受託者の権限の範囲について、契約内容をしっかりと作り込んでおくことも重要なポイントとなります。
4. 信託登記などの手間がかかる
不動産を信託財産とした場合、その不動産が信託財産であることを公にするため信託登記を行う必要があります。
自分で手続きをすることも可能ではあるものの、信託登記は通常の移転登記などとは異なる難しさがあるため信託の登記は通常、司法書士に依頼をして行います。
その際には、司法書士に支払う報酬が発生します。
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家族信託された不動産は売却する手順
家族信託をされた不動産売却はどの様な手順で行われるのでしょうか?
売却をする手順の流れは以下のとおりです。
- 買主を見つける
- 買主が見つかったら売買契約を締結する
- 買主へ不動産を引渡し、所有権移転登記を行う
- 売却代金を財産管理用の信託口口座へ入金する
ここからは上記の内容について補足していきます。
1.買主を見つける
不動産の売却を検討する際、多くの場合は不動産仲介会社に依頼して媒介契約を結び、買主を探してもらう方法が一般的です。
自身で買主を探すことも可能ですが、物件情報の告知、内覧の手配、価格交渉、契約手続きなど、多岐にわたる業務に時間と労力がかかるため、専門的な知識や経験を持つ不動産仲介会社のサポートがあることで、効率的かつスムーズな売却につながる可能性があります。
2.買主と売買契約を締結する
買い手が見つかったら受託者が売買契約を締結します。
家族内でのトラブル防止のために、事前に委託者や家族へ契約を締結する旨を伝えておきましょう。
3.買主へ不動産を引渡し売却代金の受領、所有権移転登記を行う
買主へ不動産を引き渡すと同時に売却代金を受け取り、司法書士へ所有権移転登記を依頼します。
4. 売却代金は財産管理用の信託口口座へ入金する
不動産の引渡しで受領した売却代金は財産管理用の信託口口座へ入金します。
家族信託した不動産を売却可能か?
家族信託による不動産の売却が可能かどうかは、信託契約書の内容により異なります。
信託契約書の条項に信託した不動産の「売買 」に関する記載があるかどうかです。
それぞれの場合について確認していきましょう。
契約の条項に信託した不動産の「売買」に関する記載がある場合
信託契約書に「不動産の処分」に関する権限の項目が記載されており、不動産登記にも記載内容の反映がされていることが確認できれば、受託者である子が親に代わり不動産を売却することができます。
信託契約によって受託者に不動産の管理・処分権限が与えられ、それが公的に登記されることで、受託者が法律上適正に不動産を売却する権限を持つことが明確になるためです。
契約の条項に家族信託された不動産の「売買」に関する記載がない場合
信託契約書に「不動産の処分」に関する権限の項目が記載されていなかった場合は、原則として家族信託された不動産を売却することはできません。
「売買」に関する記載がない場合に売却をするためには、以下のいずれかの方法を検討する必要があります。
- 信託契約書の内容に「売買による不動産の処分」権限を追加する契約内容の変更を行い、その旨を登記する
- 委託者と受託者間で合意解除をして信託を終了させ、委託者自らが売却を行う
しかし、契約内容を変更するには受託者である子だけでなく、委託者兼受益者である親の関与も必要です。
このとき、親の認知症が進行していて判断能力がないとされる場合には、契約変更や合意解除などはすることが難しくなり、信託が終了するまでは売買をすることが出来ない状態となります。
そのため、契約書を作成する段階で専門家としっかりと調整し決めていく必要があるのです。
不動産に抵当権がついている場合
不動産を家族信託する際に、特に注意する点があります。
それは不動産に抵当権 がついている場合です。
家族信託を組んだ不動産に抵当権がついている場合、売却するには以下のステップを踏む必要があります。
手続きの順番に沿って見ていきましょう。
1. ローンの返済手続き
まず、抵当権を抹消するには、その担保となっているローンを完済する必要があります。
このローンの返済手続きは、原則として債務者ご本人が行わなければなりません。
そのため、信託設定の前に「誰がローンの債務者なのか」を必ず確認しておくことが重要です。
もし債務者が親の場合、将来的に認知症が進行してしまうと、本人が銀行に繰り上げ返済の申し込みをしたり、手続きを進めたりすることが難しくなる可能性があります。
そうなると、不動産の売却自体ができなくなってしまう恐れがあります。
2. 抵当権抹消手続き
ローンを完済し、その証明書が発行されたら、ようやく抵当権の抹消登記手続きを進めることができます。
信託契約書に不動産の処分権限が明確に記載されており、それが法務局で登記されていれば、受託者である子は、信託財産である不動産に付随する抵当権の抹消登記手続きを単独で行うことが可能です。
家族信託した不動産を売却するには?
家族信託した不動産を売却するには、以下の2つの方法があります。
- 不動産自体を売却する
- 受益権を売却する
それぞれ当事者と法律効果が異なるため、委託者兼受益者を親、受託者を子としたケースで解説をします。
不動産自体を売却する
不動産自体を売却する場合、売主は「受託者である子 」です。
子は不動産を処分した対価として売却代金を得て、受益権(財産権)を持つ親のために介護費や生活費・医療費として使うことが可能です。
受益権を売却する
受益権(不動産にかかる財産権)を売却する場合、売主は「受益者である父親 」です。
父親は受益権(財産権)の対価として不動産の売買代金に相当する金銭を得ます。
この時、受託者である子が引き続き管理し、信託不動産から得た収益を財産権(受益権)の買主に渡していくのです。
父親の認知症対策が目的である家族信託では、2つ目の方法はあまり使われません。
ほとんどが1つ目の「不動産自体を売却」する方法です。
不動産を家族信託する際の税金
家族信託で不動産を信託財産とする場合、どのような税金がかかるのでしょうか。
ここでは、受益者・受託者の順に、課税される可能性のある税金について記載します。
【受益者】課税される可能性のある税金
受益者に課税される可能性のある税金として以下の4種類があります。
「委託者=受益者」の場合は、委託者は受益者として税金がかかることになります。
課税の可能性は事例により異なりますので、参考としてご覧ください。
1. 贈与税
受益者と委託者が同一人である場合には、一般的には贈与税はかかりません。
しかし、受益者と委託者が別の人の場合には、委託者から受益者への贈与があったとみなされ、贈与税が課税される可能性があります。
また、受益者と委託者が同一人である場合でも、ケースによっては贈与税が課税されるおそれがあります。
そのため実際に家族信託を行うときは、税務上の問題がないか詳しい専門家に確認しておきましょう。
2. 相続税
信託契約の際、多くの場合、委託者兼受益者が死亡したときの受益者の地位を相続する相続人を決めておきます。
相続が発生すると、受益者の地位を引き継ぐ新たな受益者に対して相続税がかかります。
3. 譲渡所得税
信託受益権(信託財産から利益を受ける受益者の権利)は売買することが可能です。
受益者が信託受益権を売却した場合、売却したことにより発生した利益に対して受益者に譲渡所得税がかかります。
4. 所得税・住民税
信託財産の不動産を賃貸している場合、賃貸収入(家賃)が不動産所得となり、それに対する所得税・住民税が受益者にかかります。

【受託者】課税される可能性のある税金
次に、受託者に課税される税金についてご紹介します。
信託財産に不動産が含まれる場合において、
- 登録免許税
- 固定資産税
以上の2つが、受託者が支払うべき税金となります。
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 登録免許税
登録免許税とは、登記手続きの際に収める税金のことです。
信託財産に不動産が含まれている場合、その不動産について信託による所有権移転及び信託の登記を行う必要が生じます。
ただし、信託の登記については受託者に登録免許税がかかります。
また、信託を終了する場合にも、信託不動産を受託者から引き継ぐ人への所有権移転登記が必要となり、登録免許税がかかります。(通常、この登録免許税は不動産を引き継ぐ人が負担します)
なお、信託の終了などで委託者兼受益者に所有権を「戻す」場合には、登録免許税はかかりません。
2. 固定資産税
不動産を所有している人には毎年固定資産税が課税されます。
信託財産に不動産が含まれる場合、形式的であっても受託者が所有者となるため、受託者に対し固定資産税がかかります 。
なお、この固定資産税は受託者が個人で負担するのではなく、信託によって預かっている金銭の中から固定資産税を支払うことができます。
【委託者】基本的に課税されない
家族信託は、不動産などの所有権を「財産権」と「名義」の2つに分けます。
「名義」のみ受託者(子)に変えておくことで、不動産の管理・処分などの権限だけを先に渡すことができる仕組みです。
「名義」は変わります、「財産権」は所有者である委託者(親)に残ることで、委託者は贈与税や不動産取得税などを課税されることなく利用できることになります。
家族信託登場人物別の課税の種類
家族信託の登場人物別に課税されうる税金を整理しておきましょう。

課税される(可能性がある)税金
- 委託者:基本的になし
- 受託者:登録免許税、固定資産税
- 受益者:贈与税、相続税、譲渡所得税、所得税・住民税
なお、上記は一般的な場合であり、ケースによって異なる可能性があります。
そのため、組成時に専門家に確認しておくと安心でしょう。
以下の記事でも、家族信託にかかる税金の種類、課税のタイミングや税率などについて詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
家族信託にかかる税金の種類とは?課税のタイミングや税率などを解説
家族信託という制度を最近知ったけど、どんな種類の税金がいつ誰にかかるのかなどがわかりにくくて不安に感じていませんか? この記事では、家族信託にかかる税金や費用の相場、誰が課税されるのか、節税対策になるのかなどについてわかりやすく解説します。
家族信託した不動産の損益通算について
「損益通算」とは、黒字の所得から赤字の所得を差し引くこと です。
信託不動産の赤字部分(損失) は、受益者の他の所得(給与所得や事業所得など)や、信託されていない受益者自身の他の不動産所得とは損益通算できません。
家族信託で信託された不動産から生じた不動産所得の損失は、税法上「なかったもの」とみなされます(租税特別措置法第41条の4の2)。
特に大規模修繕などで一時的に大きな赤字が見込まれる不動産を家族信託する場合、その損失が損益通算できないため、結果的に税金負担が増える可能性があります。
ただし、1つの家族信託の契約で、複数の不動産を信託している場合、その不動産間で損益通算ができます。
つまり、同じ家族信託契約の中であれば損益通算できる ということです。
赤字の不動産がある場合、他の黒字の不動産と一緒に組むべきかなど、家族信託の設計の際にはよく確認・検討する必要があるでしょう。
信託不動産の売却手続き時に受託者が行うべき3つのポイント
信託不動産の売却手続き時に受託者が行うべきポイントは、主に以下の3つとなります。
- 自分が売却権限のある「受託者」である旨を説明する
- 通常の不動産売買の場合と同じ売却手続きを受託者が行う
- 受託者が行う記名には「委託者◯◯受託者◯◯」と記載する
ここからは詳しく解説していきます。
1. 自分が売却権限のある「受託者」である旨を説明する
家族信託はまだまだ普及し始めたばかりの制度であるため、不動産業者が家族信託制度の詳細や手続きについて慣れていない場合もあります。
そのため、時には不動産業者より「不動産の名義を元の所有者(委託者)に戻して下さい」と言われることもあるかもしれません。
そのため、不動産業者に売却の相談をする際には、次のことを伝えるようにしましょう。
- 自分が委託者から不動産の信託を受けていること
- 不動産を売却する権限があること
また、相談をする際に売却予定の不動産の登記簿謄本を持参するのも効果的です。
信託をした不動産の登記簿謄本には「信託目録」という事項が記載されており、その部分に信託契約の詳細などが記載されているため、契約内容を説明する手間を省くことができます。
2. 通常の不動産売買の場合と同じ売却手続きを受託者が行う
信託不動産を売却する場合でも、売却の手続き自体は通常の不動産を売却する場合と同様です。
具体的な不動産売却手続きの流れは「5.家族信託された不動産を売却する手順」で解説した通りですが、不動産の信託をした場合には、この一連の手続きは全て受託者が行うことができます。
3. 受託者が行う記名には「受託者○○」と記載する
不動産を売却する際には、売買契約書をはじめ多くの書類に記名が必要となります。
その際のポイントとして、売却に関する書類には「受託者○○」と記名するようにしましょう。
単に受託者の名前だけを記載してしまうと、信託契約上の行為をしているのか、受託者個人としての行為なのかが不明確になってしまいます。
信託の受託者として手続きを行っていることを明確にするためにも、関係書類には「受託者○○」という記名が適しています。
よくある質問
Q1.自宅を家族信託する(信託財産にする)ことはできますか?
A1.自宅を家族信託する(信託財産にする)こともできます。
例えば、認知症などで判断能力が低下した場合や、身体的な理由などで自宅での生活が難しくなり、「施設に入所する」という選択肢もあるでしょう。
施設に入所する際には、初期費用として多額の入居一時金が必要な場合があります。
しかし、もし家族信託などの事前の対策をしていなかった場合、認知症などで判断能力が低下してしまうと、原則として自宅を売却できません。
つまり、住まなくなった自宅の売却代金で、施設の入居一時金を賄えないという事態になりかねなません。
そのため、自宅を家族信託しておき、必要時に売却できるようにしておくと安心でしょう。
以下の記事でも、認知症が進行したあとの売却方法や、認知症が進行する前に考えておきたいことについて解説していますので、併せてご覧ください。
認知症になったら不動産売買はできない?利用できる制度や売却時の注意点を解説
親が認知症になると不動産の売却はできないとお悩みではありませんか?認知症でも不動産売買ができる場合とできない場合があります。この記事では、認知症の親でも売却ができるケース、成年後見制度、制度利用時の流れや費用について詳しく解説します。
Q2.信託財産が不動産だけの場合、不動産を売却したら家族信託は終了しますか?
A2.信託財産の不動産を全て売却した場合でも、原則、家族信託は終了しません。
不動産を売却しても、信託財産の形態が不動産から金銭へと変化するだけだからです。
ただし、信託契約の内容で「信託財産の不動産の売却により信託が終了する」旨の定めがある場合、家族信託は終了となることもあります。
大事なことは、家族信託の組成前に、家族信託を行う目的を考えておくことです。
後々トラブルにならないように専門家に相談し、リスクはないか、そもそも家族信託が必要かどうかも含めて検討したうえで、家族信託を組成するとよいでしょう。
以下の記事では、家族信託が不要な4つのケースについて解説していますので、併せてご覧ください。
自分には家族信託は必要ない?家族信託が不要な4つのケース
今回は、家族信託が必要ないケース、家族信託が必要なケースについて解説していきます。家族信託制度を使うべきか、判断材料として活用してみてください。同時に家族信託やその他の制度を知ることで、ご自身と家族にとって最適な方法を選択していきましょう。
Q3.不動産を信託財産にする家族信託の契約書で、気を付ける点はありますか?
A3.すべての家族信託の契約において言えることですが、契約内容に記載漏れがないか、誤りがないかどうかは気をつけた方がよいでしょう。
特に、「不動産の運用や売却」、「受託者が行使できる権限の範囲」などが挙げられます。
また、契約内容が法的に問題ないかどうか、専門家に確認してもらうことも重要です。
例えば、相続における遺留分に抵触する場合、後々相続人とのトラブルを引き起こす可能性もあります。
ネット上の契約書のひな形には個別事情への対応が難しい場合があるため、専門家への依頼をおすすめします。
以下の記事では、家族信託の手続きで後悔しないための注意点などについて解説していますので併せてご覧ください。
家族信託の手続きで後悔しないためには|流れや費用、注意点などを解説
家族信託の手続きは、家族会議→家族信託契約書の作成→信託口口座開設など信託の準備、という流れで進めていきます。本記事では、家族会議から信託開始までの全体の流れと、信託財産ごとに必要な詳細の手続きについてわかりやすく解説していきます。
注意点を押さえた上で不動産における家族信託の活用を
不動産を家族信託財産とする場合、自分で不動産の管理ができなくなった時の不安を軽減することができるなど、様々なメリットが考えられます。
親が高齢で、かつ将来空き家になる可能性のある自宅、収益不動産を持っている場合 などは、家族信託も有効な選択肢の一つとなるでしょう。
一方、家族信託には設計次第によっては思わぬ落とし穴もあります。
家族信託には登記も必要となるため、家族信託事例に関して経験豊富な専門家に相談をしながら、万全の対策をとっておくことをおすすめします。
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