家族信託と任意後見制度はどちらも認知症による資産凍結の対策 ができる制度です。

ただし、両者では「財産管理の柔軟性」や「受託者・任意後見人のできること」などが異なります。

「どちらを利用すれば良いのか」は、本人や家族の状況によって変わります

場合によっては、両者の併用や、他の対策が必要になることもあるでしょう。

そこで本記事では、家族信託と任意後見制度の違いや選び方を解説していきます。

要約

  • 家族信託は「財産管理を家族に託して資産凍結を防ぐ」制度
  • 任意後見制度は「判断能力が低下した人の財産や生活を守る」制度
  • 任意後見制度では家庭裁判所の関与があるが、家族信託では関与がない
  • 家族信託と任意後見制度を併用するという選択肢もある
  • 本人の希望や、実現したいことから逆算して制度を選択するのがおすすめ

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家族信託と任意後見制度の違い

まず、家族信託と任意後見制度では、制度の目的が違います

家族信託の目的は「財産管理を家族に託して資産凍結を防ぐこと」、任意後見制度の目的は「判断能力が低下した人の財産や生活を守ること」です。

制度の目的の違い

目的が違うため、細かい特徴にも多くの違いがありますが、中でも重要なものは「柔軟な財産管理ができるかどうか」と「身上監護が含まれるかどうか」です。

家族信託 は、本人の財産をどうしていくかについては家族間で自由に定められ、任意後見制度と比較すると財産管理の柔軟性が高い制度です。

ただし、財産に関する対策を行う制度なので、本人の日常生活や医療・介護に関する契約や手続きを代理する「身上監護については定められません

身上監護については家族が代わりに手続きできる場合もありますが、家族が海外や遠方に居住しているケースなど、状況によっては身上監護について対策が必要なケースもあります。

一方で、任意後見制度 は、財産管理と身上監護の両方について定められます

ただし、家族信託と比較すると財産管理の柔軟性は低くなります。

そして、裁判所によって選任された任意後見監督人の監督下で実施しなければなりません。

両者の違いをさらに詳しく理解し、ご自身に合ったものを見つけていただくために、まずはそれぞれの制度の仕組みについて解説します。

家族信託の仕組み

家族信託は、判断能力低下による資産凍結の防止 を主な目的とする制度です。

委託者と受託者の間で家族信託契約を締結し、受託者は受益者のために財産の管理・運用・処分を行います。(一般的には委託者=受益者として設計します。)

家族信託の仕組み

一般的な家族信託では、親を委託者=受益者、子を受託者として定め、親の判断能力低下に備えて、子が親の財産管理を行えるよう設計します。

親が認知症になり、判断能力が低下すると、資産凍結(不動産の売却・預金取引などができない状態)に陥るおそれがありますが、家族信託では、財産の所有権を受託者へ移しておくため、資産凍結を回避できます

資産凍結回避

また、家族信託では家庭裁判所や第三者の監督人が関与せず、家族間で財産管理ができる点も大きなメリットです。

家族信託のポイント
家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ仕組みです。本記事では家族信託の詳細や具体的なメリット・デメリット、発生する費用などについて詳しく解説します。将来認知症を発症しても、親子ともに安心できる未来を実現しましょう。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説!

任意後見制度の仕組み

任意後見制度は、認知症や障がいなどにより、判断能力が低下した人の財産や生活を守ること を目的とする制度です。

任意後見制度では、本人が元気なうちに、任意後見人と後見内容を定める任意後見契約」を締結しておきます。

本人の判断能力が低下した後、任意後見人等が家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人による支援が開始されます。

任意後見制度の仕組み

任意後見制度の任意後見人は、本人の「代理人」としての立場をとります。

よって、財産管理に加えて、日常生活や医療・介護など、生活する上で必要な手続き・契約を代理で行う「身上監護」を行えます

あくまで「代理人」のため、財産の所有権は効力発生後も本人のままですが、本人の判断能力低下後でも財産を「動かせる」という部分は家族信託と同じです。

しかし、そもそも制度の目的が、判断能力低下による被害や不利益から本人を守ることであるため、投資などの財産運用は原則認められません

任意後見制度のポイント
任意後見人は、任意後見制度において、判断能力が低下した本人の財産管理や身上監護を行い、本人を守る役割です。特別な資格は不要で、子や兄弟などの家族など、原則誰でもなることができます。任意後見人ができることや、制度の利用における手続きや注意点を詳しく解説していきます。
任意後見制度とは?できること、手続き、成年後見との違いをわかりやすく解説!

家族信託と任意後見制度の違いを9の項目で比較

家族信託と任意後見制度の違い を、9つの項目で比較していきます。

家族信託と任意後見制度の違い

  1. 本人を支援する人の権限
  2. 財産の所有権
  3. 財産管理の柔軟性
  4. 効力発生のタイミング
  5. 家庭裁判所の監督を受けるか
  6. 遺言代用機能の有無
  7. 契約内容の変更方法
  8. 契約終了のタイミング
  9. 制度の利用にかかる費用

1つずつ詳しく解説していきます。

違い1. 本人を支援する人の権限

支援する人の権限
家族信託財産の管理・運用・処分の権限
(信託法26条)
任意後見制度財産管理・身上監護に関する一部の代理権
(任意後見契約に関する法律2条の1)

家族信託の受託者は、本人の金銭や不動産等の管理・運用・処分 ができます。

受託者は、家族信託契約で定めた範囲で、財産管理を行います。

一方、任意後見人は、任意後見制度で定められた一部の財産管理・身上監護に関する代理権 を持ちます。

任意後見人は、金銭、預金、不動産などの管理や住環境の整備、介護、医療に必要な契約行為や手続きを行います。

違い2. 財産の所有権

財産の所有権
家族信託受託者                    
任意後見制度本人(被後見人)                     

家族信託では信託財産の所有権が委託者から受託者へ移転します

ただし、信託財産は受託者の固有財産ではありません

なぜなら、受託者は所有権を持つものの、自分のためではなく「受益者のために財産管理を行うためです。

この点で、信託財産は誰の固有財産でもなく、受託者からも受益者からも独立した特殊な性質を持つ財産だといえます。

信託財産とは、委託者から信託された受託者が、一定の目的に従って管理される財産を指します。 信託財産は、通常の固有財産とは異なる性質を持ち、誰の固有財産でもない、特殊な財産です。その特徴や、相続の考え方などを、詳しく解説していきます。
信託財産とは?特徴や信託すべき財産、相続について徹底解説

一方、任意後見制度において、財産の所有権は本人(被後見人)のままです

任意後見人は、本人の財産管理や身上監護に関する代理権を持つ「代理人ですので、本人所有の財産(固有財産)を代わりに管理したり、代わりに契約を結んだりする役割を果たします。

家族信託と任意後見制度の違い

違い3. 財産管理の柔軟性

財産管理の柔軟性
家族信託

任意後見制度と比較して、柔軟性が高い            
任意後見制度

家族信託と比較して、柔軟性は低い             

財産管理の柔軟性が高い ことは、家族信託の代表的な特徴 の1つです。

また、ご利用の金融機関によっては、投資や借入れなども可能な場合があります。

よって、本人が認知症になった後でも、設計次第でできることは多岐にわたります。

一方、任意後見制度は、本人の生活を守るための制度ですので、リスクを伴う運用や、本人の財産を減らすような行為は認められず 、安全確実な方法で財産を守ることが求められます。

違い4. 効力発生のタイミング

効力発生のタイミング
家族信託原則、契約を締結したとき             
任意後見制度任意後見監督人が選任されたとき              

家族信託と任意後見制度はどちらも契約によって成立しますが、その効力が発生するタイミングが異なります。

家族信託の効力が発生するのは原則、契約を締結したとき です。

契約の締結により、委託者が元気なうちから、受託者による財産管理が始まります。

一方、任意後見制度では、本人の判断能力が低下した後 、家庭裁判所へ「任意後見監督人選任の申立て」を行い、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されたとき、効力が発生します。

なぜなら、任意後見制度は「判断能力が低下した人を守り、支援することが目的であるためです。

家族信託と任意後見制度の違い

違い5. 家庭裁判所の監督を受けるか

家庭裁判所の監督の関与
家族信託受けない                           
任意後見制度受ける                           

家族信託では、家庭裁判所や第三者による監督がなく 、当事者同士で定めた内容に沿って取り組めるため、当事者のストレスや負担も比較的小さいといえます。

ただし、受託者の義務など、法律で定められた一定の事項は遵守しなければなりませんので、注意しましょう。

受託者は、年に1度、「貸借対照表」や「損益計算書」のような、信託財産に関する収支がわかるような資料や、信託財産の概況が分かるような資料を作成しておく義務があります。

これらの書類は、「裁判所」等の第三者に提出する義務はありませんが、原則として受益者に対し報告する必要があります。

また、必要に応じて受益者代理人や信託監督人など、受託者を監督する役割を契約で定めることができます

一方、任意後見制度は、家庭裁判所や任意後見監督人による監督 のもと、厳格に運用されます。

後見の開始時、任意後見人は任意後見監督人へ初回報告として財産目録や収支予定表等の提出が必要です。

また、年に1度の定期報告として、任意後見人は任意後見監督人へ、任意後見事務報告書、財産目録、本人の預金通帳・有価証券取引残高報告書のコピー等の提出が求められます。

任意後見監督人は、一定期間ごとに、任意後見監督事務報告書を裁判所に提出します。

参考: 任意後見人に選任された方へ|千葉家庭裁判所

違い6. 遺言代用機能の有無

遺言代用機能の有無
家族信託ある                            
任意後見制度ない                             

家族信託には「遺言代用機能」があり、委託者(受益者)に相続が発生した際の、信託財産や受益権の承継について定められます

また、家族信託では、受益権の連続的な承継も可能です。

つまり、本人から始めに財産を引き継いだ人(第二受益者)が亡くなった後、その次には誰に引き継がせるという複数世代にわたる相続の指定もできます

家族信託の遺言代用機能

任意後見制度は、本人の生活を守る制度ですので、本人が死亡すると終了し、相続については定められません

任意後見制度を利用し、かつ相続について定めたい場合は、本人の判断能力があるうちに遺言書を作成しておく必要があります。

家族信託を利用している家族で、委託者が亡くなった場合、どのような手続きになるのでしょうか。例えば、父の認知症対策のために家族信託をしていて、息子を受託者・父を委託者兼受益者としていた場合、通常の相続と異なる手続きになるのでしょうか。今回は家族信託を利用中の家族に相続が発生したケースについて解説します。
【家族信託と相続】家族信託をして相続が発生した際の手続きや税金はどうなる?

違い7. 契約内容の変更方法

契約内容変更方法
家族信託原則、当事者(委託者、受託者、受益者)の同意で可能
(信託法149条の1)             
任意後見制度効力発生前:公証人の認証を受けた書面によっていつでも可能
(任意後見法9条の1)

効力発生後:家庭裁判所の許可が必要
(正当な事由がある場合に限り)
(任意後見法9条の2)              

家族信託の契約は、原則、当事者(委託者、受託者、受益者)の同意があれば変更可能 です。

その他、家族信託契約内で定めた方法があれば、その方法に従って契約内容を変更できます。

一方で、任意後見制度において、効力発生後の契約内容変更には、家庭裁判所の許可が必要 です(任意後見契約に関する法律9条の2)。

違い8. 契約終了のタイミング

契約終了のタイミング
家族信託      信託法に沿って、柔軟に定められる           
任意後見制度     本人の死亡による終了が一般的            

家族信託の終了のタイミングは、契約内で柔軟に定められます

ただし、信託の終了事由は信託法での規定があるため、信託法の内容を踏まえた契約内容の検討が必要です。

一般的には、委託者(兼受益者)の死亡により終了し、信託財産は契約で定めた「帰属権利者」に帰属する形となります。

任意後見制度は、本人の死亡により終了する ことが一般的です。

その他、法律で定められる終了事由は、以下の通りです。

任意後見制度の終了事由(民法653条)

  • 本人または任意後見人の死亡
  • 本人または任意後見人が破産手続き開始の決定を受けたこと
  • 任意後見人が後見開始の審判を受けたこと

任意後見制度は家族信託と異なり、当事者(本人と任意後見人)の合意で終了させることはできず、途中で終了するには、正当な理由と家庭裁判所の許可が必要とされています。

参考: 4任意後見契約|日本公証人連合会

違い9. 制度の利用にかかる費用

利用費用
家族信託   初期費用 20〜60万円程度
継続費用 0~数千円/月程度       
任意後見制度  初期費用 15〜20万円程度
継続費用 1〜3万円/月程度       

家族信託では、初期費用としてまとまったお金が必要になりますが、継続費用は比較的抑えられます

一方、任意後見制度では、初期費用は抑えられますが、任意後見監督人への毎月の報酬(継続費用)が必ずかかります

具体的な費用は、本人の希望や財産の状況によって異なります。以下は一例です。

家族信託と任意後見制度の費用の違い

※家族信託にかかる費用は、弊社で対応した場合の目安
参考: 成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所

任意後見制度では初期費用を抑えられますが、原則本人が亡くなるまで、任意後見監督任への報酬が発生します。

例えば、10年間継続して利用した場合、トータルの費用は100万円を超えることが予測されます。

家族信託や任意後見制度の費用を見て検討する場合、長期間利用した場合にかかる具体的な費用に関してもシミュレーションしておきましょう。

以下の記事では、それぞれの制度の「費用」の詳細を確認できます。

家族信託の費用は信託する財産の額によって異なります。専門家に依頼すると実費に加えてコンサルティング費用かかりますが、費用削減だけを考えて自分でやるとトラブルが発生する可能性も高まります。家族信託の費用や自分でやる際の注意点をみていきましょう。
【家族信託の費用・相場】安く抑えるためのポイントとは?わかりやすく解説します
任意後見制度の費用や報酬に関しての相場、制度のしくみや手続きの流れなどが複雑で理解できず悩んでいませんか? この記事では、任意後見制度にかかる費用や報酬の相場、メリット・デメリット、手続きの流れなどについてわかりやすく解説します。
任意後見制度にかかる費用はいくらくらい?報酬の相場や手続きなどを詳しく解説
家族信託と任意後見制度の違い

家族信託と任意後見制度の違いについて、9つの項目で比較してきました。

これらの違いを踏まえ、我が家にはどちらが最適なのか、もしくは両方利用する選択肢もあるのか適切に判断できるよう、具体的な状況別に選び方を解説していきます。

家族信託or任意後見制度の選び方6選

家族信託と任意後見制度のどちらを優先的に検討すれば良いかについて、6つの選び方を解説します。

家族信託or任意後見制度の選び方

  1. 柔軟な財産管理を重視したい→家族信託
  2. 身上監護の必要がある→任意後見制度
  3. 複数世代にわたる相続を指定したい→家族信託
  4. 継続費用を抑えたい→家族信託
  5. 裁判所や第三者の関与が負担になる→家族信託
  6. 近くに頼れる親族がいない→任意後見制度

それぞれ詳しくみていきましょう。

選び方1. 柔軟な財産管理を重視したい→家族信託

柔軟な財産管理を重視したい場合 は、家族信託に取り組むことをおすすめします。

なぜなら、家族信託では家庭裁判所の監督を受けず、家族信託契約の中で財産管理の方法を定められるためです。

任意後見制度では本人の財産が減る行為は原則認められず、できることが限られてしまいます。

特に、今後以下を検討している場合は、家族信託をすることによるメリットは大きいでしょう。

将来的に検討していること

  • 自宅不動産の売却
  • 不動産の買い替え
  • 借入れや不動産の購入
  • 将来を見据えた資産の組み替え

※金融機関により、借入れの可否は異なります。

金銭、不動産、有価証券など、さまざまな財産について、柔軟な管理を進めていきたい場合は、家族信託が適しているといえるでしょう。

自宅や収益用の不動産を所有している場合、自分でいつまで不動産の管理ができるのか、いざというときには、滞りなく売却して現金化することができるのか、など不安を感じることもあるのではないでしょうか。不動産所有者の場合、家族信託を活用してどのような対策を講じることができるのか、事例を含めて解説します。
【完全版】不動産を家族信託する方法・税金・メリット・デメリットなどを解説

選び方2. 身上監護の必要がある→任意後見制度

本人の身上監護が必要な場合 は、任意後見制度の利用をおすすめします。

任意後見制度では任意後見人に財産管理と身上監護に関する代理権がありますが、家族信託は財産管理に関する制度であり、受託者に身上監護権はありません

身上監護の具体例には、以下が挙げられます。

身上監護の具体例

  • 介護サービスの契約
  • 入院手続き、医療費支払い
  • 要介護認定の申請
  • 施設入所手続き、介護費用の支払い
  • 住居の賃貸借契約の締結         など

ただし、原則家族であれば、上記手続きを行うことができます。

選び方3. 相続に関しても定めたい→家族信託

本人の生前の財産管理だけでなく、その財産の相続についても定めたい場合 は、家族信託をおすすめします。

なぜなら家族信託は、信託財産の相続について定められる「遺言代用機能を備えているためです。

任意後見制度は、本人の生活や財産を保護するための制度であり、本人の死亡により終了するため、相続については定められません

家族信託では、本人が亡くなった後の相続のみを定めることも、その後の複数世代にわたる相続を指定することもできます。

後者は「受益者連続型信託」と呼ばれ、例えば以下のような希望を実現するために活用されます。

受益者連続型信託の目的(例)

  • 財産を他の家系に流したくない
  • 自社の事業継承を孫世代まで定めたい
受益者連続型信託

ただし、家族信託契約で定められるのは、あくまでも信託した財産に関する承継方法のみです。

本人が他にも財産を所有している場合、それらの相続については、別途遺言書や遺産分割協議が必要となることを把握しておきましょう。

選び方4. 継続費用を抑えたい→家族信託

継続費用を抑えたい場合 は、家族信託がおすすめです。

上述の通り、家族信託では受託者に対する報酬を定めない限り、報酬は発生しないためです。

弊社のように信託契約後も継続的なサポートを提供している場合は月数千円ほど、継続費用が発生する可能性もあります。

任意後見制度では、本人の財産額に合わせて、任意後見監督人への報酬(1〜3万円/月)が必ず発生するため、初期費用は抑えられても、トータルでかかる費用は大きくなる傾向にあります。

参考: 成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所

選び方5. 裁判所や第三者の関与が負担になる→家族信託

家庭裁判所や第三者の関与が負担であり、身内だけで取り組みたい場合 は、家族信託がおすすめです。

任意後見制度では、家族を任意後見人に定められたとしても、必ず弁護士や司法書士などの専門家が任意後見監督人に就任し、監督を受けることになります。

家族信託では、このような家庭裁判所や第三者の関与がないため、信頼できる家族内だけで、ストレスや負担を最小限にできます。

選び方6. 近くに頼れる親族がいない→任意後見制度

子どもや兄弟などの家族・親族が遠方に住んでいる方 や、身寄りがない方 には、任意後見制度をおすすめします。

任意後見制度では、家族だけでなく、司法書士などの専門家を任意後見人と定めて契約を締結することもできるためです。

また、近くに親族がいたとしても、信託事務を行う余裕や自信がないなど、さまざまな事情が考えられます。

このような場合にも、任意後見制度を利用すれば本人の財産・生活を守れるため、家族や親族の安心にもつながるでしょう。

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家族信託と任意後見制度の併用について

家族信託と任意後見制度は、それぞれ異なるメリットやデメリットを持っているため、併用することで、抜け目のない認知症対策や相続対策 を行えます。

では、家族信託と任意後見制度の併用が適するケース、そして、併用する際の注意点について解説していきます。

家族信託と任意後見制度の併用が適するケース

家族信託と任意後見制度の併用が適するのは以下のケースです。

家族信託と任意後見制度の併用が適するケース

  • 柔軟な財産管理に加えて、身上監護についても定めたい
  • 財産管理についてもれなく対策をしておきたい

それぞれみていきましょう。

柔軟な財産管理に加えて、身上監護についても定めたい

財産管理に関しては柔軟で積極的な対策を行いたい身上監護についても定めておきたい場合 は、家族信託と任意後見制度の併用がおすすめです。

この場合、財産管理については家族信託で定め、身上監護については任意後見性制度で定める形をとります。

任意後見契約では、任意後見人がどんな行為に関する代理権を持つかを定める「代理権目録」を作成することが一般的です。

代理権目録に、必要な身上監護の項目(医療契約、入院契約、介護契約に関する事項、要介護認定の申請など)を記載すれば、身上監護についてのみ任意後見制度を利用することができます。

財産管理についてもれなく対策をしておきたい

柔軟な財産管理を行いたいが、信託財産以外の財産についてももれなく対策をしておきたい場合 でも、家族信託と任意後見制度の併用がおすすめです。

家族信託で、受託者が管理できるのは、家族信託契約で定めた財産のみとなります。

そこで任意後見制度を利用し、信託財産以外の財産管理について任意後見人に代理権を与えておくことで、本人がもつ全ての財産に関する資産凍結対策が可能です。

財産の管理

家族信託と任意後見制度を併用する際の注意点

家族信託と任意後見制度の併用では、両者の「良いとこ取り」ができる反面、注意すべき点 もいくつかあります。

家族信託と任意後見制度を併用する際の注意点

  • 受託者と任意後見人を同一人物には原則できない
  • 手続きが複雑になる
  • 費用がかさむ

それぞれみていきましょう。

受託者と任意後見人を同一人物には原則できない

家族信託の受託者と任意後見人を同一人物にすることは、原則できない ため注意しましょう。

家族信託の受益者は、信託財産からの利益を受ける権利に加えて、適切に利益を受けるために、受託者の信託業務を監督したり、報告の請求を行ったりする権利を持ちます。

さらに、任意後見制度を併用した場合、任意後見人は受益者の代理人として、受託者の信託業務を監督し、受益者の利益を守る役割を持ちます。

よって、受託者=任意後見人とすると、自分を自分で監督する立場になり、受託者自身の利益を求めた行為も容易に行えるようになってしまいます。

これでは、受益者のために財産管理をする受託者の役割が果たせません

利益相反

そこで、利益相反の問題に関しては、家族信託で、受益者の代わりに受託者を監督する「受益者代理人」を別の人物に定めることで対策が可能です。

地主さんのご家庭などでは、先祖代々引き継いできた土地を直系の人物に承継させたいという意思が強く、「将来的には(まだ生まれていない)孫に財産を承継させたい!」という話をうかがうことがあります。では、まだ生まれていない子を受益者とする家族信託の契約を作ることは可能なのでしょうか?
家族信託でまだ生まれていない子供を受益者とすることはできるか

ただし、受益者代理人をお願いできる第三者がいるのであれば、その人物を任意後見人に設定した方が、設計はシンプルになり問題を根本から取り除くことができます。

よって、家族信託と任意後見制度を併用する場合は、受託者と任意後見人を別の人物に設定し、やむを得ない場合は、専門家に相談して対処することがおすすめです。

手続きが複雑

家族信託と任意後見制度を併用すると、両者に関する手続きを行わなければならず、手間や時間がかかります

家族信託では、家族会議から始まり、契約書案の作成、公正証書の作成、信託登記などの手続きが発生します。

任意後見制度では、まず任意後見契約を作成し、公正証書で締結、さらに効力発生時には家庭裁判所への申立て、毎年の報告などが必要です。

どちらの制度も、法律で定められているものですので、勝手な判断で必要な手続きを省くということはできません

また、両者の契約の内容に齟齬が生まれたり、手続きに不備があったりすることを防ぐためにも、家族信託の専門家に相談し、うまく併用できるようにサポートしてもらうことをおすすめします。

費用がかさむ

家族信託と任意後見制度を併用すると、両方の費用がかかるため、金銭的な負担が大きくなります

家族信託も任意後見制度も、一般的には数年以上にわたる期間、利用することになります。

よって、老後の資金繰りを安心して進めていくためにも、トータルでかかる費用を事前にシミュレーションしておくことが重要です。

生前対策で検討すべきその他の制度

家族信託や任意後見制度のように、元気なうちに契約や手続きを行い、老後や相続の対策を行うことをまとめて、生前対策 と表現します。

生前対策には、家族信託や任意後見制度だけでなく、他にも以下のようなものがあります。

生前対策の例

  • 財産管理委任契約
  • 遺言書
  • 死後事務委任契約
  • 尊厳死宣言書

生前対策で重要なのは、制度の良し悪しを判断するのではなく、本人や家族がどのような希望を持ち、どんな対策をしていきたいかを整理し、それに最適な制度を選んで設計していくことです。

状況によっては、家族信託や任意後見制度以外に取り組んでおくべきものや、本人の希望にぴったりと当てはまるものがあるかもしれません。

財産管理等委任契約

財産管理等委任契約は、委任者が受任者に、財産管理と身上監護の一部または全部を委任する契約 です。

判断能力が低下しているわけではないものの、体力の衰えや財産管理に不安がある場合などに活用されます。

任意後見契約と似ていますが、違いは主に以下の2つです。

任意後見契約との違い

  • 委任者の判断能力があるときに財産管理権限を委任する
  • 家庭裁判所や監督人が関与しないこと

また、財産管理等委任契約は多くの場合、任意後見制度とセットで利用されます。

具体的には、本人の判断能力が低下する前の段階から、財産管理等委任契約で受任者へ財産管理や身上監護の代理権を与えておき、本人の判断能力が低下した後は、任意後見契約の効力が発生し、任意後見制度へと移行します。

財産管理委任契約から任意後見制度、移行型

このような流れを一般的に、財産管理委任契約から任意後見制度の「移行型」と呼び、任意後見制度ではよく利用されるスキームです。

遺言書

遺言書 は、自身の所有する財産を、誰に、どのように引き継いで欲しいかという意思表示をするための書面 です。

遺言書を残すことは、本人の意思や想いを相続に反映できるとともに、相続人同士のトラブルを防ぐことにもつながるため、積極的に作成しましょう。

遺言には、主に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」があります。

公正証書遺言 は、公証役場で作成・保管される最も法的拘束力が高い遺言で、遺言内容が実現される確実性が保て、裁判所による検認も不要です。

自筆証書遺言 は、遺言者自身が自筆で作成する遺言で、その内容の法的有効性は確実ではなく、裁判所による検認も必要となります。

(法務局に遺言書を保管してもらう「自筆証書遺言書保管制度」を利用すると、裁判所による検認は不要です。)

参考: 自筆証書遺言保管制度|法務省

よって、確実に遺言を残したい場合は、公正証書遺言の作成がおすすめです。

また、上述の家族信託任意後見制度、どちらを利用する場合でも、遺言書の作成は併用することをおすすめします。

なぜなら、家族信託では、信託した財産の相続についてしか定められず、任意後見制度では相続の指定は一切できないためです。

遺言は法律行為であり、本人の判断能力がなくなってからでは行えないため、早めに意思を整理し、作成しておくことをおすすめします。

死後事務委任契約

死後事務には、以下のような手続き・事務が含まれます。

死後事務内容

  • 本人が希望する方への訃報連絡
  • 葬儀の手配、費用支払い
  • 納骨、埋葬に関する手続き
  • 医療機関、介護施設等の手続き
  • 公共サービス等の解約・精算手続き
  • 納税手続き
  • 遺品整理
  • 相続財産管理人の選任      など

一般的に、死後事務を行うのは亡くなった方の親族ですが「親族に負担をかけたくない」「親族と考え方が違う」「特定の親族に死後事務をやって欲しい」など、さまざまな事情がある方もいらっしゃいます。

その場合は、死後事務委任契約を締結しておくと、本人が亡くなった後も確実に希望を叶えられるよう、対策が可能です。

尊厳死宣言書

尊厳死宣言書 とは、回復の見込みがないにも関わらず、単に死期を引き延ばすだけの延命治療を差し控え、人間としての尊厳を保ちつつ死を迎える「尊厳死」を望むことを意思表示する書面です。

近年では、日本の医学界でも尊厳死が積極的に容認されるようになり、過剰な延命治療により家族や親族に負担を与えたくないという考えをもち、自ら「尊厳死宣言書」の作成を公正証書で行う人もいます。

参考: Q3. 「尊厳死宣言公正証書」について、説明してください。|日本公証人連合会

特に、家族や親族が近くにいない、または疎遠となっているケースでは、事前の家族との意思疎通が難しい場合も多いため、終末期医療の意思表示についても、積極的に検討しておきましょう。

家族信託や任意後見制度の相談は生前対策の専門家がおすすめ

家族信託や任意後見制度、さらに他の生前対策など「認知症発症後や老後に備えたい」「何か対策をしておきたい」という方は、生前対策の専門への相談をおすすめします。

家族信託や任意後見制度は法的な制度ですので、知識や経験がなければ希望が実現できなかったり、余計な費用や税金がかかったりするおそれがあるためです。

ただし、特に家族信託は、本格的に普及し始めて間もない制度ですので、相談する際は実績数や事例、発信内容などを吟味することをおすすめします。

弊社では、現在、年間数千件もの相談をいただいています。

また、相続、不動産、保険などに精通するさまざまな専門家によるトータルサポートも可能です。

家族信託の検討や、認知症対策について、疑問や不安がございましたら、些細なことでもお気軽にお問い合わせください。

まとめ

家族信託と任意後見制度の仕組み、両者の違いについて解説してきました。

本人や家族がどのような状況で、何を実現したいかによって、どちらに取り組むべきなのか、または併用するべきなのかが異なります。

また、家族信託や任意後見制度以外の生前対策に取り組むことが有効な場合もあるかもしれません。

認知症対策や相続対策は、専門的な分野ですので、どの制度が最適かということも含めて、まずは専門家に相談してみることをおすすめします。

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