親御様が認知症になった時の対策をご検討されている方の中で、
「認知症と物忘れの違いはなんだろう?」
「認知症かもと思ったら、どのようにしたらいい?」
などとお考えの方も多いのではないでしょうか。
今回、高齢者に関する研究をされている有識者の方に「親御様の認知症に気づくためにはどのようにしたら良いか」をテーマにお話を伺いました。
藤尾 祐子 教授
順天堂大学 保健看護学部 在宅看護学
看護師/介護支援専門員
Asian Society of Human Services, 日本看護科学学会, 日本老年看護学会, 日本在宅看護学会
1986年看護師免許を取得し高度急性期病院の救命救急看護に従事。1996年より訪問看護師、介護支援専門員として介護保険サービスに従事。
2003年より介護老人保健施設の管理者を経て、2012年より順天堂大学保健看護学部 在宅看護学の教員となり現在に至る。博士(医療福祉学)。
目次
認知症と物忘れの違い
ー 藤尾教授の研究で「フレイル(介護が必要になる心身の機能低下)」という言葉を拝見したのですが、「フレイル」とはどのようなものでしょうか?
藤尾教授: 「フレイル」は最近出てきた言葉です。
ただし、生活の中で何かが起きたから、それが「フレイル」だ、と言えるものではないんです。
「フレイル」の種類には、転びやすくなったというような「身体的フレイル」や、社会参加をあまりしなくなるといった「社会的フレイル」、他にも「オーラルフレイル(口の機能の衰え)」や「アイフレイル(目の機能の衰え)」などもあります。
本日のテーマである認知機能についても、「認知的フレイル」というものがあるのですが、何かがあったから「フレイル」ということではありません。
認知機能が低下していきながら、それに伴って、例えば社会活動をしなくなり、運動機能も落ちてしまうことで介護が必要となる機能低下、「フレイル」が生じます。
私が行なっている研究では、どの機能が1番最初に落ちることで、「フレイル」になるのか、というアルゴリズムを見つけようとしています。
いずれ「フレイル検診」というようなものを開発したいと考えています。
ー 認知症と認知機能の低下は異なるものなのでしょうか?
藤尾教授: はい。
認知症と認知機能の低下はイコールではないんです。
単なる物忘れであれば、私たちでも「昨日の夜ご飯、何を食べたっけ?」ということはありますよね。
しかし、「ご飯を食べたかどうか」などの出来事を丸々忘れてしまう場合は、認知症の可能性があります。
そして、一般的に、認知症の場合は、脳血管性やレビー小体型というように、原因があると考えられています。
一方で、認知機能の低下は、脳細胞の活性化がされていないことによって、一時的に起こることもあります。
例えば、水分不足で熱中症のような状態であると、脳細胞が活性化されず、意識レベルが落ちてしまいます。
そのような場合、水分を多めに摂取していただくと、意識がはっきりされることが多くあります。
水分や栄養が不足していないかどうか、はご家族でもチェックできる部分かと思います。
認知症のサインに気づくためには
ー ご家族が認知症のサインに気づくためには、どのような点に注意すればよいでしょうか?
藤尾教授: 日常生活の変化に注目することが大切です。
例えば、友人との交流や外出の機会など、社会参加が減っていくことで、認知機能は低下しやすくなります。
また、体を動かす機会が減っていないかということもチェックできると良いですね。
そして、先ほど申し上げた通り、物事を丸々忘れている状態であれば、認知症を疑っても良いかもしれません。
他にも、レビー小体型認知症であれば、幻覚の症状があったり、脳血管性の認知症であれば、麻痺や言語障害があったりします。
ー では、認知症が疑われる場合、どのように対応すればよいでしょうか?
藤尾教授: まずは、脳神経内科の受診をおすすめします。
脳神経内科では、脳の画像や認知症診断のためのスケールをもとに診てもらえます。
ー ご家族としては、病院にいった方が良さそうだけれども、ご本人が病院に行くことを望んでいない場合はどのようにしたらよいでしょうか?
藤尾教授: 「脳の病院」というと抵抗があるかもしれないので、「体の健康チェックの一環」として一緒に病院に行ってみることを勧めてはどうでしょうか。
また、ご本人が「認知症かもしれない」ということを、自覚されていることも少なくありません。
「鍋を焦がしてしまった」など、失敗したことや、できないことが増えてきたことに気づいて、不安な気持ちを抱えています。
できないことに対し、取り繕おうとしたり、自分自身を責めてしまったりすることがあるので、ご本人が不安を吐き出された時、ご家族が話を聞くことが大切です。
その時、不安ごとの解決策やサポートしてもらえる場所があることを伝えられると、良いコミュニケーションになると思います。
親と子の関わりにおいてできること
ー 離れて暮らしている場合、親御様の変化に気づきにくいかと思うのですが、どの様な対処法がありますか?
藤尾教授: 地域には民生委員さんがいます。
民生委員さんは、1人暮らしの高齢者のご自宅に定期的に訪問し、変化に気付いた際には、然るべき機関に繋げてくれます。
可能であれば、帰省された時に、民生委員さんに「何かあったらご連絡ください」と一言伝えておけると安心です。
しかし、「民生委員って誰なんだろう」と思われる方も少なくないと思います。
その場合は、市町村の役所や地域包括支援センターに相談や情報収集に行かれるのが良いのではないでしょうか。
また、ご近所さんに「何かあった場合に連絡して欲しい」とお願いされている方も多くいます。
「インフォーマルサービス」というのですが、法的なサービスだけでは支えられない部分もあるので、地域の社会資源をうまく活用できたら良いですね。
ー また、認知機能の低下を防ぐにあたって、社会参加の意欲が低下している場合、ご家族はどの様な働きかけができるのでしょうか?
藤尾教授: 要介護状態であれば、介護保険サービスを使うことができます。
もし、介護認定を受けていないのであれば、その方のお住まいの市町村が独自に行なっているイベントに参加するのが良いのではないでしょうか。
介護予防の授業や、編み物教室のような同じ趣味の方が集まる場所を企画運営している市町村もあります。
また、地域包括支援センターが主に中学校区に1箇所設置されています。
地域包括支援センターの窓口にご相談されると、市町村や民間団体が行っている地域コミュニティなどを紹介してもらえます。
ただし、慣れない場所は、なかなか行きにくいものですので、ご本人の趣味ができるような場所を見つけたいですね。
ー 親と子で普段からとっておけると良いコミュニケーションはどの様なものでしょうか?
藤尾教授: もちろん、それぞれのご家族の関係性もありますが、顔を見たコミュニケーションが取れると良いですね。
表情や顔色などからも、ご本人の状況の変化に気づくことができます。
今は、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器を使える方もかなり多いです。
画面を通じて、顔を見ながら話す機会を作れると良いかと思います。
今後さらにオンラインでのコミュニケーションは進んでいくのではないでしょうか。
そのような意味では、遠く離れて住む親御様との距離をあまり感じなくなる時代がやってくるのではないかと思います。
以上、「認知症と物忘れの違い」や「認知症のサインに気づいた時にできること」などをお話しいただきました。
藤尾教授、本日はインタビューに応じてくださり、ありがとうございました。