親御様の将来について考える中で、実際にご本人に将来の話を切り出すのは難しいと考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

今回、高齢者に関する研究をされている有識者の方に「高齢の親と将来について話すにはどうしたら良いのか」をテーマにお話を伺いました。

中村美智代 准教授
龍谷大学 短期大学部
社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員/教員
日本社会福祉学会/日本介護福祉学会/日本社会福祉士会/日本介護福祉士会など

障害者支援施設で支援員として勤務後、高齢者の在宅介護、高齢者福祉施設では介護支援専門員や相談員などを経験して、介護福祉士や社会福祉士養成に携わる。高齢者が生活の場が変わっても自身が主体的に生活できるよう、高齢者の居場所感に着目した支援について研究している。

高齢になった親と家族とのコミュニケーション

ー 高齢になった親にとって家族内のコミュニケーションはどのような影響を与えるのでしょうか?

中村准教授: コミュニケーションというのは、高齢になった親にとっては、子どもとの会話を通して、家族の中の自らの存在を確かめるプロセスといえます。

当たり前のような毎日があるというのがとても大切で、日常的なコミュニケーションがその一つです。

高齢の方との面接で、専門職がお話しすることもコミュニケーションですが、それは意図があってなされるものです。

一方で、日常的な家族内でのコミュニケーションについては、あまり目的や意図を持たない場合も多いものです。

当たり前の毎日の中でのやりとり、そのような家族とのコミュニケーションができている感覚を持てることで、高齢者は、自分は1人じゃない、自分はここに存在しているのだということを確かめられるようになるのです。

逆に、コミュニケーションがあまり取れておらず、不足している場合には、高齢者が家族の中に自らの存在を確かめられず、これが長引くと不安定な状態に陥ってしまいます。

ー では、普段お親御様と会話が少ないと感じている方はどのようにコミュニケーションをとっていけば良いのでしょうか?

中村准教授: 言葉によるコミュニケーションのみにとらわれることなく、非言語的なコミュニケーションもうまく使えるとよいですね。

例えば、表情・態度・行動・仕草、タイミングなども工夫してみてください。

言いかえれば、言葉で伝えなくても、親と子という対面的な位置づけでなく、いつでも横にいるよ、見守っているよ、家族だよということをわかってもらえるようなコミュニケーションです。

会話が少ないと感じられているなら、まずはこういった非言語的なコミュニケーションから、言語的なコミュニケーションを徐々に入れていくとよいと思います。

今後の生活についての話し合い

ー コミュニケーションから一歩踏み込んで、親と老後や将来の話をしておく必要性について教えて下さい。

中村准教授: 親が突然倒れてしまって、その先について本人がどうしたいかということを何も決めていない状態だと、やはりもう少し早くに話しておけばよかったなと悔やむことは多いのではと思います。

ただ、そのときがいつやってくるのかについては、わかりません。

将来をめぐる会話のきっかけとしては、親のメモリアルなこと、つまり、誕生日や1年における行事や催事の機会に、さりげなく将来の話も導入していくというのも一つです。

一方、親の方から家族へ会話がもたらされるきっかけもあるものです。

高齢者は、年齢と共に喪失体験も増えていくのです。

身近な喪失体験の一つとしては、身体が思うように動かなくなったり、親しい人との死別だったりがあります。

このような喪失体験をすると、高齢になった親はこれからのことを自分と重ねて不安になったり、悩んだりするものです。

そのようなとき、ご家族がこの不安や悩みなどを丁寧に聞いたうえで、ご本人が今後どうしていきたいのかとなど、希望を引き出せるようにできると、それまで心の負担になっていた”将来の話”も前向きな対話にでき、親と子が互いに自らの存在を確かめ合うことができてよいですね。

ー ご家族が離れて暮らしていて、ご本人の変化に気づきにくい場合はどうしたらいいのでしょうか?

中村准教授: お手紙なども一つの手段かもしれませんが、現在ではメールやSNSのコミュニケーションツールでやり取りをする高齢者も多いようです。

テレビ電話やチャットができるツールを、「こうやって使うんだよ」と家族が親に紹介することでコミュニケーションの一つになります。

今後、このようなツールを使った対面による会話の機会もさらに増えるのではないでしょうか。

ー では、ご家族がコミュニケーションを望んでいてもご本人があまり望まない場合はどうしたらいいのでしょうか?

中村准教授: 離れていて積極的なコミュニケーションを望まない高齢者の変化に気づくためには、親のお住まいの地域や周囲で支援してくれる人たちとの関係をつくっておくということが大切になると思います。

ご近所さんなどの知り合いの方から、親の最近の様子を聞いたり、心配な時には様子を見に行ってもらったりができます。

さらに、高齢者に関する公的なサービスの入口として、最寄りの地域包括支援センターを頼るのもよいです。

ここは基本的には、なんでも相談を受けてくださるので、困ったら、いえ、困る前から把握しておくことが大切です。

ー 普段の会話はできているけれど、将来の話は「まだ大丈夫」と言われた場合はどうしたらいいのでしょうか?

中村准教授: 高齢者の「まだ大丈夫」という表現は、不安の裏返しの言葉でもあると思います。

例えば、加齢によって体力や筋力が落ちているのを自覚していらっしゃっても、「まだ頑張れる」「まだ頑張りたい」という気持をあらわしているのだと思えます。

この「頑張れる・頑張りたい」は、高齢者の希望の言葉です。

尊重することが必要ですね。

将来の話=介護の話と切り出すのではなく、高齢の自らが今後どのような暮らしをしたいか、などポジティブな会話を続けていくのがよいでしょう。

例えば、「趣味のお裁縫を続けていくためには視力は良くいたいよね」 「最近、裁縫で見えにくいなど困りごとはない?」「趣味を長く楽しむためには」など、前向きな会話の機会を持てるようにしておきましょう。

親の居場所と役割

ー 親御様の将来のことを考え始めた時、今からご家族ができることは何でしょうか?

中村准教授: ご家族は、高齢化に関する様々な情報収集をしておけるとよいですね。

まず、直接的な介護に関することについて、前述の地域包括支援センターのように、何かあった時に頼れる場所や、認知症の症状が疑われたときに家族は何をどのようにすればよいのかなどの介護に関すること、また、年をとること、高齢化にともなう心理的な変容についても知識を持っておくことが必要です。

次に、これらへの対応の実際とし、家族のうち誰がキーパーソンになるのかなどを実際的に決めておくことです。

いざというときの対応の主になれる人を、ご家族みなさんで決めておくことは必要になります。

あわせて、キーパーソンを中心とするご家族がどのように役割分担し、親をどうのように支えていくかのかという具体を考えておくことが大切ですね。

ー 最後に、ご本人が望む将来にするために心がけるといいことはありますか?

中村准教授: 今までの家族内での親の役割を果たすことは、少し難しくなると思います。

しかし、これらは変化しても、親の「役割が持てる」ということを家族で考えることが、居場所となるためには必要です。

例えば、これまで、家族の生計を立ててきた・家事の一切を行ってきたなど外形的な役割から、できる範囲であったとしても高齢になった親ならではの家事の継続や家族に対する思いやりの言葉をもらう機会など家族に対する内容的な役割を持ってもらうなどです。

高齢者は「自分で考えて何かをする」という役割を与えられることで、「自分は自分である」という存在感を確かめられるのです。

やはり、自らの存在感を感じ取ることができる場所、すなわち、家庭に自分の居場所があると思っていただけるような環境をつくることを心がけておくとよいのではないでしょうか。

以上、高齢になった親とご家族が将来の生活について話し合いをするためのヒントとアドバイスを得る機会を頂くことができました。

キーワードは、高齢者の「希望」「居場所」「役割」であることがわかりました。

中村准教授、本日はインタビューに応じてくださりありがとうございました。