成年後見制度の利用を考えている方の中には「成年後見制度を利用するにはいくらがかかるのだろう」と費用面の心配をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

成年後見制度を利用するには、申立てにかかる初期費用と後見等をする専門家への報酬である継続費用がかかります。

本記事では、法定後見制度(主に成年後見)を利用する場合の費用に着目して解説していきます。

また、法定後見制度と比較して、「家族信託を利用する場合にはどの程度の費用がかかるのか」についても解説します。

成年後見制度でお悩みの方へ

専門家のイメージ

成年後見制度では、財産の柔軟な管理ができない、家族が後見人になれない、専門家への報酬が高いなど、さまざまな課題があります。

認知症に完全になる前であれば、任意後見や家族信託など、他の制度を選択することもできます。費用や各制度のデメリットなど、専門家と相談し慎重に決めることをおすすめします。

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法定後見制度の申立て費用

法定後見制度には、以下の3つの制度があります。

法定後見制度

  1. 成年後見
  2. 保佐
  3. 補助

1. 成年後見

「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(民法7条)が対象の制度です。

つまり、身体上の障害を除く全ての精神的障害(認知症、知的障害、外傷性脳機能障害など)によって、法律行為の結果が自分にとって有利か不利かを判断することができない程度の判断能力にある方の支援をする制度となります。

2. 保佐

「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」(民法11条)であり、1.成年後見よりも程度が軽い場合が対象です。

3. 補助

「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」(民法15条1項)であり、2.保佐よりもさらに程度が軽い場合が対象です。

これらのうち、対象となる方がどの制度に当てはまるのかは、家庭裁判所が最終的に判断して開始決定を出すことになります。

ただし、申立ての際には、医師の診断書等の資料に基づき、申立てをする人が判断しなければなりません。

成年後見、保佐、補助の違い

成年後見の申立てに必要な費用

ここからは成年後見にかかる費用の内訳や内容を見ていきましょう。

成年後見にかかる費用

  1. 申立手数料(収入印紙):800円
  2. 登記手数料:2,600円
  3. 予納郵便切手:3,270円分(※ 東京家庭裁判所の場合)
  4. 診断書の作成費用:5000円~1万円程度
  5. 鑑定費用:5万円~10万円程度
  6. 戸籍や住民票写し等の書類取得費:1,000円~2,000円程度
  7. 弁護士・司法書士に依頼する場合の費用:10万円~30万円程度

1. 申立手数料(収入印紙) 

申立書に貼る収入印紙代です。

2. 登記手数料 

登記申請手続は、裁判所が法務局に嘱託して行うため、申立人が自分で行う必要はありません。

ただし、申立て時に手数料を収入印紙で納める必要があります。

3. 予納郵便切手  

申立てをする家庭裁判所によって異なります。

4. 診断書の作成費用  

申立て時には、家庭裁判所の書式に従った「診断書(成年後見制度用)」と「診断書付票」を提出する必要があります。

この診断書の作成費用として、各医療機関に応じて5,000円から1万円程度がかかります。

5. 鑑定費用  

上記4. の診断書等から明らかに後見相当と判断できる場合以外は、原則として鑑定が必要とされています(家事事件手続法119条1項)。

現実には、福祉関係者が作成する「本人情報シート」と医師が作成する診断書等の資料を提出することにより、鑑定が実施されないケースが多くあります。

鑑定費用については、「裁判所が認める相当額」とされています(民事訴訟費用等に関する法律26条)。

東京家庭裁判所の場合、上記4.の「診断書付票」の医師への質問項目として
「鑑定料はいくらでお願いできますか」の注釈に、
「一般的に5万円から10万円程度でお引き受けいただいています。主治医の場合はできれば5万円程度でお願いできればと思います。」
との記載があります。

6. 戸籍や住民票写し等の書類取得費  

戸籍や住民票写し等の書類取得費  

  • 本人の戸籍抄本:450円
  • 住民票又は戸籍附票:多くの自治体では300円
  • 本人が登記されていないことの証明書:300円 ※本人の所有不動産がある場合
  • 登記事項証明書:窓口交付の場合1通600円、オンライン請求・送付の場合1通500円
  • 固定資産評価証明書:1筆・1棟当たり200円から400円程度

※登記されていないことの証明書とは、本人が既に後見・保佐・補助・任意後見を受けていないことを証明するものです。

法務局で申請して交付を受けることができます。

7. 弁護士・司法書士に依頼する場合の費用  

申立人となる本人の親族が、申立てに必要な書類の準備を全部行うのは大変な作業となります。

そのため専門知識を持った弁護士司法書士に依頼するのがおすすめです。

また、弁護士の場合は、申立人の手続代理人となって申立て手続の代理をすることも可能です。

弁護士や司法書士に依頼する場合、各事務所の報酬基準により、個別の事案や仕事内容に応じて、10万円から30万円程度 の費用(報酬)がかかります。

保佐・補助の申立てに必要な費用

保佐・補助の申立てに必要な費用は以下の通りです。

保佐・補助の申立てに必要な費用

  1. 申立手数料(収入印紙):800円~2,400円。申立書に貼る収入印紙は、800円が基本ですが、保佐人に代理権や同意権を付与する申立てもするときは、それぞれ800円が加算されるので、1,600円または2,400円になります。
  2. 登記手数料:2,600円
  3. 予納郵便切手:4,210円分(※ 東京家庭裁判所の場合)
  4. 診断書の作成費用:5,000円~1万円程度
  5. 鑑定費用:5万円~10万円程度
  6. 戸籍や住民票写し等の書類取得費:1,000円~2,000円程度
  7. 弁護士・司法書士に依頼する場合の費用:10万円~30万円程度

申立人の経済状況が厳しい場合

申立人となる本人の親族の経済状況が厳しい場合、日本司法支援センター(法テラス) の民事法律扶助という制度を利用することが可能です。

申立ての際に必要となる上記1.から7.までの費用の立替払を受けることができます。

生活保護受給者である場合を除いては、あくまでも立替払のため、法テラスに対し、少なくとも毎月5,000円は返還していかなければなりません。

また、法テラスを利用する場合でも、後見人の報酬については立替払の対象とはなりません。

そのため、報酬助成制度を利用する場合など例外的な場合を除き、本人の財産が目減りする という問題は残ります。

成年後見人等の報酬

成年後見人の報酬について、基本報酬・付加報酬・報酬助成制度の3つに分けて詳しく解説していきます。

基本報酬

専門家が後見人に選任された場合の費用相場は月額約2~6万円 です。

基本報酬の目安額(運用基準)は、管理財産額(本人の預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)に応じて変わります。

成年後見人の基本報酬

  • 1000万円以下:月額2万円
  • 1000万円を超え5000万円以下の場合:月額3万円~4万円
  • 5000万円を超える場合:月額5万円~6万円

また、成年後見人を監督する「後見監督人」が選任された場合には、後見監督人の報酬として、後見人の報酬の半額程度の月額報酬がさらに必要となります。

成年後見人と後見監督人の報酬は、原則本人(被後見人)の財産から支払われます。

保佐人や補助人の場合も、後見人に準じた報酬が必要となります。

付加報酬

成年後見人等が後見事務を行う上で、身上監護等に特別困難な事情があった場合、基本報酬額の50%の範囲内で、相当額の報酬が付加されます。

また、成年後見人等が特別な行為をした場合にも、相当額の報酬が付加されることがあります。

例えば、訴訟、調停、遺産分割、不動産の任意売却、不動産の賃貸管理などの行為をした場合です。

報酬助成制度

報酬助成制度について「成年後見制度利用支援事業」と「公益信託成年後見助成基金」の2つをご紹介します。

1. 成年後見制度利用支援事業

成年後見制度を利用することが有用と認められる認知症高齢者、知的障害者及び精神障害者で、成年後見制度の利用に要する費用について補助を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められるものに対し、成年後見制度の申立てに要する経費及び後見人等の報酬の全部又は一部を助成する事業です(障害者総合支援法における地域生活支援事業等)。

助成の対象が市区村長申立ての場合に限定されている自治体もあります。

利用を検討する際には、各自治体に問い合わせるなどして必ず確認しましょう。

2. 公益信託成年後見助成基金

公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが創設した助成基金です。

この助成基金は、成年後見制度利用のための費用を負担することができない場合の成年後見人等(後見監督人や任意後見人等も含む)の報酬に当てられます。

司法書士その他の第三者後見人が助成の対象となります。

任意後見にかかる費用

任意後見は、あらかじめ本人が、親族等を「任意後見受任者」として、公正証書により「任意後見契約 」を結んでおくという制度です。

本人に十分な判断能力がある段階で契約を結ぶ必要があります。

「任意後見受任者」が「任意後見人」となって任意後見契約がスタートするのは、本人の判断能力が低下した段階で「任意後見監督人」を選任するための審判の申立てがされ、家庭裁判所によって 「任意後見監督人」が選任された時からです。

任意後見にかかる費用

  1. 公正証書作成の基本手数料:11,000円
  2. 登記嘱託手数料:1,400円
  3. 法務局に納付する収入印紙代:2,600円
  4. 任意後見監督人選任申立ての費用
    ・申立手数料:収入印紙 800円、送達・送付費用(郵便切手) 各家庭裁判所が定める額
    ・後見登記手数料:収入印紙 1,400円
  5. その他
    ・任意後見契約書作成等の専門家(弁護士、司法書士等)の報酬:各事務所の報酬基準によります(数万円以上)。
    ・任意後見人の報酬:任意後見契約で定められた報酬額
    ・任意後見監督人の報酬:裁判所が定める相当額(月額1万円~2万円程度が目安)

家族信託にかかる費用

家族信託は、本人(委託者)が、認知症などによって判断能力を失う前に、信頼できる家族(受託者)との間で信託契約 を締結し、自らの資産の管理・処分を任せておく制度です。

家族信託にかかる費用

1. コンサルティング費用:信託財産の総額の1.1%程度
専門家に相談する際のコンサルティング費用は、信託財産の総額の1.1%程度が相場です。

2.信託契約書の作成費用:5万円~15万円程度
専門家が信託契約書を作成する費用は、各事務所の報酬基準や個別の事案によっても異なりますが、5万円から15万円程度が目安額です。

3.公正証書作成手数料
家族信託においては、信託契約の法的効力を確実なものとするため、公正証書により契約書を作成するのが通常です。

公証役場における証書作成手数料については、次のとおり定められています(公証人手数料令第9条別表)。

目的の価額手数料
100万円以下5,000円
100万円を超え200万円以下7,000円
200万円を超え500万円以下11,000円
500万円を超え1000万円以下17,000円
1000万円を超え3000万円以下23,000円
3000万円を超え5000万円以下29,000円
5000万円を超え1億円以下43,000円
1億円を超え3億円以下4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1,000円を加算した額
10億円を超える場合24万9000円に超過額5000万円までごとに8,000円を加算した額

4. 登記手続の費用
信託財産の中に不動産が含まれている場合、信託登記の申請手続きが必要となります。

信託登記の申請手続きを専門家に依頼する場合、5万円から15万円程度の費用が必要となります。

また、信託登記の登録免許税は、次のとおりとなっています。

信託登記の登録免除税

  • 土地:固定資産評価額の0.3%
    (租税特別措置法による令和8年3月31日までの減税措置)
  • 建物:固定資産評価額の0.4%

成年後見制度と家族信託の費用比較

以上をもとに、成年後見制度を利用する場合と家族信託を利用する場合とで、費用面でどのくらいの違いが生じるかを、一例を挙げて説明します。

本人が以下の財産(合計3000万円)を所有しており、成年後見制度を利用する場合と、家族信託を利用する場合とで、どのくらいの費用の差が生じるでしょうか。

  • 現金1000万円
  • 土地1筆(固定資産評価額1000万円)
  • 建物1棟(固定資産評価額1000万円)

1. 成年後見の場合

  • 申立費用 約20万円~30万円
  • 成年後見人報酬 月額2万円(年間24万円)

まず、家庭裁判所での申立ての際に、前述の「成年後見の申立てに必要な費用」で説明した20万円から30万円程度の費用がかかります。

次に、成年後見人の基本報酬が、本人の財産から支出されることになります。

上記の例では、流動資産の額は1000万円(現金)ですので、成年後見人の基本報酬は、月額2万円(年間24万円)程度となることが予想されます。

成年後見制度は、後見開始の原因が無くなれば終了することができますが、高齢者の認知症などを原因として申立てをした場合、基本的に本人の死亡時まで成年後見人が就いている状態になります。

したがって、成年後見人への基本報酬も、本人が亡くなるまで支払うことになります。

認知症を発症した高齢者の平均余命に照らし、5年から10年程度の期間は成年後見制度を利用することになると見込まれます※。

よって、上記の例では、総額で120万円(=24万円×5年)から240万円(24万円×10年) が本人の財産から支出されるのが原則となります。

また、成年後見人の付加報酬が付与される場合には、さらに数十万円単位の費用がかかります。

成年後見の場合の費用

筆者が経験した一例として、遺産分割調停の事件を受任した際に、被相続人の生前、その配偶者が死亡してから約20年間にわたって成年後見人による後見を受けていたという事案がありました。

仮に、上記の事例のように、後見人の報酬が月額2万円(年間24万円)程度だとしても、20年間なら総額約480万円の報酬が発生することになります。

本人が有料老人ホームや特別養護老人ホーム等の施設に入所している場合、その施設利用料等の経費も必然的に発生しますので、総合的な見通しを立て、成年後見を利用するかどうかを検討する必要があるでしょう。

2. 家族信託の場合  

初期費用合計:約50~60万円

初期費用の内訳

  1. コンサルティング費用:約30万円
    信託財産の総額の1.1%程度が目安となりますので、信託財産の総額が3000万円である上記の【事例】では約33万円です。
  2. 信託契約書の作成費用:約5万円
  3. 公正証書作成手数料:約3万円
  4. 登記手続の費用
    司法書士等の報酬:約5万円程度
    登録免許税:土地分3万円、建物分4万円

家族信託は、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に資産の管理・処分を任せる制度です。

成年後見や銀行の信託商品などとは異なり、原則として毎月の報酬が発生することはありません。

そのため、基本的には上記の例で示したような初期費用のみで足ります。

ただし、例外的に、弁護士や司法書士などの専門家に「信託監督人」を依頼する場合には、毎月数万円の報酬を信託監督人に支払うことになります。

例えば、委託者兼受益者である親が認知症で判断能力が無くなり、受託者である子を適切に監督することができなくなるような場合です。

このような場合に、受託者の財産管理方法は適切か、きちんと契約内容を遵守しているのかを監視・監督する役割を担うのが、信託監督人です。

家族信託の場合の費用

3. まとめ

ここまで成年後見制度と家族信託を費用面で比較してきました。

トータルコストを見ると、家族信託よりも成年後見のほうが費用負担が生じる場合があります。

成年後見制度に多額の費用がかかる理由は、成年後見人に支払う報酬にありますが、それなら親族が成年後見人になればよいのでは、と思われるかもしれません。

しかし、実務では、圧倒的に多くのケースで親族以外の専門家が成年後見人に就任しています。

令和4年の統計では、親族が成年後見人に選任された割合が19.1% であったのに対し、親族以外が成年後見人に選任された割合は80.9%となっています。

参考: 成年後見関係事件の概要-令和4年1月~12月-〔最高裁判所事務総局家庭局〕10頁

成年後見制度と家族信託は、単に費用面の比較だけでどちらを選択すべきかを決定するものではありません。

本人が認知症を発症する前であれば、家族信託のほか、本記事でも費用について解説した任意後見という選択肢もあります。

ご家族の大切な財産を守るためにも、それぞれの制度目的やメリット・デメリットを十分検討し、家族信託の経験と実績が豊富な専門家に相談することをおすすめします。

成年後見制度でお悩みの方へ

専門家のイメージ

成年後見制度では、財産の柔軟な管理ができない、家族が後見人になれない、専門家への報酬が高いなど、さまざまな課題があります。

認知症に完全になる前であれば、任意後見や家族信託など、他の制度を選択することもできます。費用や各制度のデメリットなど、専門家と相談し慎重に決めることをおすすめします。

家族信託の「おやとこ」
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