「親が認知症だが、相続は問題なくできるのだろうか…」
「認知症になったら、相続はできるのか…」
このような悩みを抱えられている方も多いのではないでしょうか。
相続人が認知症の場合に起こる大きな問題として「遺産分割協議ができないこと」が挙げられます。
預金口座、金銭、不動産など、どの財産を相続した場合も、相続手続きでは遺産分割協議書の提出を求められる場面が多くあるためです。
そこで本記事では、相続人が認知症の場合に、遺産分割協議ができない理由やその問題点、事前にやっておくべき対策について解説していきます。
要約
- 認知症の相続人がいる場合、遺産分割協議ができない
- 遺産分割協議をしない場合、法定相続分での相続となる
- 遺産は共同相続人で共有となり、不動産の共有問題等が発生する
- 認知症の相続人が遺産分割協議を行うには、成年後見制度の利用が必須
- 成年後見制度は、認知症の本人が亡くなるまで続くため要注意
- 判断能力があるうちに、家族信託などで認知症対策を行うのがおすすめ
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目次
相続人が認知症だとどうなる?
相続人が認知症であり、本人の判断能力が不十分となった場合、遺産分割協議が行えず、財産の名義変更や登記手続きができない可能性があります。
相続人が認知症の場合の問題点について詳しくみていきましょう。
遺産分割協議ができない
遺産分割協議とは、相続が発生した際に、共同相続人全員で遺産の分割について話し合う手続きです。
遺産分割協議が成立するには、共同相続人全員の合意が必要となります(民法907条の1)。
しかし、認知症の本人は遺産分割協議に必要な意思表示ができません。
よって「共同相続人全員が合意する」状態にならないため、遺産分割協議は行えない(正立しない)ことになります。
遺産分割協議は必ずしなければならないと定められているわけではありません。
ただし、相続財産の名義変更や売却・処分などの手続き上「遺産分割協議書」の提出を求められるシーンが多くあるため、遺産分割協議が成立しないまま放置しておくことは、さまざまな不都合を生んでしまいます。
詳しくは本記事後段、遺産分割協議ができないとどうなる?で解説していますので、ご確認ください。
相続放棄や限定承認ができない
相続人が認知症の場合「相続放棄」や「限定承認」などの行為もできません。
これらは、本人の意思能力が必要な法律行為であるためです。
相続放棄
相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がないこと。
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
引用:民法938条、939条
限定承認
相続人が相続財産から被相続人のマイナスの財産(借金など)を清算して、財産が余ればそれを引き継ぐこと。
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
引用:民法922条、923条
参考: 相続の放棄の申述|最高裁判所
認知症だからといって、必ずしも意思能力が無くなり法律行為ができなくなるわけではありませんが、法律行為に関する意思能力の有無は専門家により判断されるため、家族や本人だけで判断することは危険です。
では、相続放棄や限定承認の意思表示、遺産分割協議ができない場合、どのような問題点があるのでしょうか。
さらに掘り下げてみていきましょう。
遺産分割協議ができないとどうなる?
遺産分割協議ができないことによる問題点は以下の通りです。
- 法定相続分での共同相続となる
- 不動産の処分や売却ができなくなる
- 相続した預金の名義変更や引き出しができない
- 相続税の控除や特例が受けられない
それぞれ詳しく解説していきます。
法定相続分での共同相続となる
遺産分割協議を行わない場合は、法定相続人による法定相続分での相続となります。
民法882条では「相続は、死亡によって開始する。」と定められているため、遺産分割協議ができず、遺言もない場合は、法定相続人は被相続人が死亡した時点で、法定相続分を相続します。
参考:
相続人の範囲と法定相続分|国税庁
法定相続分とは?
相続人の範囲や法定相続分は、民法で次のとおり定められています。
相続人の範囲
死亡した人の配偶者は常に相続人となります。
配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。
※相続放棄した人・内縁関係の人は、相続人に含まれません。
<第1順位>
死亡した人の子供
その子供が既に死亡しているときは、その子供の直系卑属(子供や孫など)が相続人となります。子供も孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子供の方を優先します。
<第2順位>
死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)
父母も祖父母もいるときは、死亡した人により近い世代である父母の方を優先します。
第2順位の人は、第1順位の人がいないとき相続人になります。
<第3順位>
死亡した人の兄弟姉妹
その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。
第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になります。
法定相続分
<配偶者と子供が相続人である場合>
配偶者2分の1 子供(2人以上のときは全員で)2分の1
<配偶者と直系尊属が相続人である場合>
配偶者3分の2 直系尊属(2人以上のときは全員で)3分の1
<配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合>
配偶者4分の3 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)4分の1
「法定相続分で共同相続されえるのであれば円満なのでは?」と思う方もいるかもしれません。
ただし、預金口座や不動産など、財産が共同相続人全員によって共有状態になると、財産を動かす場合はその都度共同相続人間での合意が必要となるため、手間が増えたり、トラブルが発生する恐れがあります。
もちろん、財産の共有者全員に意思能力があり、都度合意を得られる場合は問題ないのですが、認知症の方は有効な意思表示ができないため、共有者全員の合意が必要な不動産の変更行為(下記で解説)はできない状態となります。
不動産の処分や売却ができなくなる
相続財産である不動産が、認知症の相続人を含めた共有状態になると、その不動産は売却により現金化したり、大規模改修から賃貸として運用するなどの行為ができません。
なぜなら、民法251条にて、共有者全員の同意がなければ共有物に変更を加えることができないと定められているためです。
共有物の変更とは以下のように、共有物を物理的に変形させる行為をいいます。
- 土地の地目を田畑から宅地へ変更する
- 建物を増改築する
- 売却・処分する など
引用:民法251条
不動産を法定相続分で共同相続し、共有状態になったとしても、認知症の相続人の意思表示は無効となるため(民法3条の2)、売却も増改築もできない「凍結状態」となってしまうのです。
【令和6年4月1日から義務化】不動産の相続登記ができない
相続登記がなされないことにより「所有者不明土地」が増加するという問題を解決するため、令和3年に民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案が決定され、これまで任意だった不動産の相続登記が義務化されることとなりました。
参考:
備えて安心!令和6年4月1日から相続登記が義務化されます!|法務省民事局
相続登記を行う際には、遺産分割協議書の提出が求められるため、相続人が認知症で遺産分割協議ができなければ相続登記ができません。
不動産の相続登記が義務化されるのは令和6年4月1日からですが、相続登記を行わずに不動産の共有状態を放置しておくと、相続人間トラブルに発展したり、上述の通り不動産の売却や処分ができない凍結状態となってしまいます。
相続した預金の名義変更や引き出しができない
相続した預金口座からお金を引き出す際も、銀行から「遺産分割協議書」の提出を求められるケースが多くあります。
前提として、相続は被相続人が亡くなった時点で開始する(民法882条)ため、預金口座も法定相続人が相続分に従って保有する状態のため、それぞれが各持分に応じて預金口座からの払い戻しを請求できるとされています。
参考:
第2章 預金債権の共同相続|全国銀行協会
ただし銀行は実務上、預金口座が本当にその共同相続人へ相続されたのか、どの割合で相続されたのかについて把握する必要があるため、必要書類として「遺産分割協議書」の提出を求めています。
相続人間のトラブルに巻き込まれたり、誰かが相続された預金債権を使い込むことを防止するためです。
よって、遺産分割の内容を確定した遺産分割協議書がなければ、預金口座から相続人が払い戻しを受けることは難しいといえます。
相続税の控除や特例が受けられない
相続税には、課税価格(相続税が課せられる価格)や税額が控除される制度があります。
例えば「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額控除」などです。
これらは適用されると相続税の大幅な減額が期待できますが、申告するには「遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し」が必要なため、遺言書がない限り遺産分割協議を行わなければ特例を受けることはできません。
参考:
相続税の申告の際に提出していただく主な書類|国税庁
認知症の相続人が遺産分割協議を行うには?
認知症の相続人がいて、判断能力が不十分な場合に遺産分割協議を行うには「成年後見制度」を利用する必要があります。
成年後見制度を利用すれば、家庭裁判所が選任した成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が認知症の相続人に代わって遺産分割協議を行うことが可能です。
ただし、成年後見制度は、その性質上、遺産分割に関する制限も大きくなってしまいます。
知識がないまま自分たちで進めてしまうと、相続人間や成年後見人とのトラブルに発展する可能性もあるため、まずは法律の知識や実務経験を持つ専門家に相談のうえ、成年後見制度を利用することがおすすめです。
法律の専門家(司法書士・弁護士)に相談する
成年後見制度を利用する場合や、相続人の中に認知症の方がいて困っている場合、まずは法律の専門家(司法書士・弁護士)に相談しましょう。
成年後見制度を利用するには、定められた必要書類を揃え、家庭裁判所に対して後見開始の申立てを行います。
後見開始の申立てに必要な書類は全て、最高裁判所のHPからダウンロード可能ですが、分量もかなり多く内容も煩雑です。
また、後見等開始の申立てから後見開始までは、1〜2ヶ月かかるケースが多い(約7割)ですが、必要書類に不備があればさらに時間がかかり、遺産分割協議を開始できる時期が遅れてしまいます。
参考:
成年後見関係事件の概況−令和4年1月〜12月-|最高裁判所事務総局家庭局
親族のストレスや負担なく相続手続きをスムーズに進めていくためにも、成年後見制度のプロである司法書士や弁護士に相談し、一緒に申立て準備、手続きを進めていくようにしましょう。
成年後見制度を利用する
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
法定後見制度
本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度
任意後見制度
本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度
相続発生時に既に相続人が認知症であれば、法定後見制度を利用します。
法定後見制度では、家庭裁判所が成年後見人等を選任し、後見内容を決定します。
後見開始の審判が下り、所定の手続きを経ると、成年後見人による本人の財産や日常生活の支援・保護が開始され、遺産分割協議も行えるようになります。
一方で、成年後見制度の利用については、以下のように押さえておくべき問題点やポイントがあります。
- 申立てから後見開始までに手間や時間がかかる
- 法定相続分で遺産分割される
- 被後見人が亡くなるまで続く
- 後見人への報酬が発生する
- リスクのある資産運用はできない
それぞれの問題点について詳しくみていきましょう。
申立てから後見開始までに手間や時間がかかる
後見開始の申立てから家庭裁判所の審判が下り、実際に後見が開始されるまでには、通常約1〜2ヶ月程度かかります。
また、状況によっては、3〜4ヶ月、それ以上かかるケースもあるため、遺産分割協議が開始できる時期も後ろ倒しになることを覚えておきましょう。
また、相続税の申告は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」に行う必要があるため、早めの手続きが必須です。
法定相続分で遺産分割される
通常、遺産分割協議では相続人全員の合意があれば「配偶者が全て取得する」「長男が全て取得する」などの協議も可能です。
ただし、成年後見人が相続人の代わりに遺産分割協議に参加する場合は、少し事情が異なります。
原則、成年後見人は、本人の財産や権利を保護する義務があるため、法定相続分を必ず確保しなければなりません。
相続税の節税や二次相続などを考慮すると、法定相続分による相続が的策ではないケースも多いはずです。
ただし、成年後見人はあくまでも本人の財産を確保するために動く必要があります。
遺産分割協議において、相続人それぞれの事情を考慮した柔軟な分割はできない可能性が高いのです。
被後見人が亡くなるまで続く
遺産分割協議を行うことが目的で成年後見制度を利用したとしても、成年後見制度は原則被後見人が亡くなるまで続きます。
つまり、一度後見が開始されると、後見人は遺産分割協議に限らず、本人の日常生活や契約行為に関する代理権を持ち、本人の預金口座などの財産は後見人によって管理されることとなります。
被後見人や家族が自由に財産を使うことはできなくなるため、注意しましょう。
後見人への報酬が発生する
後見人に司法書士や弁護士などの専門家が選任された場合は、後見人に対して毎月2万〜6万円の報酬を支払わなければなりません。
報酬額は後見人が管理する対象となる財産の種類や額によっても異なりますが、管理財産額が高額になる程高額になる傾向にあるようです。
リスクのある資産運用はできない
繰り返しますが、成年後見人には本人の財産が減少する、またはそのリスクがあるような行為は認められません。
例えば遺産分割協議において本人が相続した不動産について、大規模改修を行い賃貸物件として貸し出したり、相続した預貯金で投資を行うことは認められません。
特別代理人を選任する
成年後見制度では、司法書士や弁護士などの専門家が選任されることが約8割ですが、申立ての際に候補を子や兄弟などの親族として提出した場合は、その親族が成年後見人に選任されることがあります。
ただし、成年後見人である親族が共同相続人である場合、その親族は成年後見人として本人に代わって遺産分割協議を行うことはできません。
成年後見人である立場と、自らが相続人である立場とが重複し、成年被後見人であるご本人の財産権を守る役割が果たせない可能性があるためです。
このような状態、取引のことを「利益相反(りえきそうはん)」といい、利益の相反しない第三者である「特別代理人」を選任する必要があります(民法第860条、826条)。
このように、認知症の相続人がいる場合は、成年後見制度を利用し、家族が成年後見人として選任された場合は、特別代理人を選任して遺産分割協議を行います。
法律の知識や実務の経験があればあるほど、後見開始の申立て手続きや遺産分割協議もトラブルを回避してスムーズに進められるため、特別代理人についても、まずは司法書士や弁護士などの専門家に相談してみましょう。
認知症に備えて事前に行うべき相続対策とは?
認知症の相続人がいる場合は、成年後見制度を利用し、後見人を立てれば、遺産分割協議を行えます。
一方で、成年後見制度では上述のように「法定相続分の相続が原則である」「本人が亡くなるまで続く」などの問題点が伴うのも事実です。
そこで、最も得策なのは「認知症になる前のできる限り早い段階で対策しておくこと」だといえます。
元気なうちに以下のような対策をしておくことで、成年後見制度の問題点をクリアし、より本人や親族の希望に沿った柔軟な相続対策が実現できるでしょう。
- 家族信託を組成する
- 遺言書を作成しておく
- 任意後見契約を結んでおく
それぞれの対策について詳しく解説していきます。
家族信託を組成する
家族信託とは、本人が元気なうちに財産の管理・運用・処分を信頼できる家族に託しておく制度です。
財産の管理を託す「委託者(親)」、財産を託される「受託者(子)」、財産からの利益を受け取る「受益者(親)」の3人で構成されます。
家族信託では委託者(親)や家族の財産管理・相続に関する希望をもとに、受託者(子)が財産を動かせるように、委託者と受託者間で信託契約を結びます。
「本人の財産を保護する」ことを前提とする成年後見制度とは異なり、不動産の売却や収益物件としての運用、余剰資金での投資など、積極的な相続対策や資産運用が可能で、家庭裁判所の関与もありません。
親が認知症となり、意思能力がなくなったとしても、信託した財産を管理する権限は受託者(子)にあります。
よって、親が認知症になったり、どちらかの親が亡くなり、遺された親が認知症だったとしても、家族信託契約に基づいて受託者が引き続き管理を行えるため、遺産分割協議のトラブルや資産の凍結を防ぐことができるのです。
ただし、柔軟な財産管理ができるといっても、家族信託は信託法に定められた法的な制度であるため、法律に関する知識をもとに設計しなければ無効になってしまうおそれもあります。
家族信託を検討している方は、ぜひ司法書士や弁護士などの法律の専門家に一度ご相談いただくことをおすすめします。
弊社では、家族信託のサポート経験と専門知識を豊富に備えた専門家がご家族の状況に応じた家族信託を提案させていただきます。
初回のご相談は無料ですので、ご検討されている方はぜひ一度お気軽にお問い合わせください。
家族信託については、以下の記事でも詳細に解説しておりますので、ぜひご確認ください。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説!
家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ仕組みです。本記事では家族信託の詳細や具体的なメリット・デメリット、発生する費用などについて詳しく解説します。将来認知症を発症しても、親子ともに安心できる未来を実現しましょう。遺言書を作成しておく
遺言書を作成し、本人が亡き後に遺産を誰がどのように相続するのかについて指定しておけば、遺産分割協議を行う必要はありません。
遺産分割協議を行う必要がなければ、相続人に認知症の方がいたとしても、相続人トラブルなどが起こらない限り、遺言書に記載の通りにスムーズに財産を承継できます。
ただし、遺言は法律行為であり、適切な方法で遺言を残さなければ、無効となってしまう可能性もあります。
遺言には「自筆遺言」「自筆遺言(公証役場保管制度利用)」「公正証書遺言」の3種類がありますが、遺言内容を確実に実行するためには、信頼性と証明力最もが高い公正証書遺言での作成がおすすめです。
公正証書遺言は、遺言者本人が、公証人と証人2名の前で、遺言の内容を口頭で告げ、公証人が文章にまとめ、再度遺言者本人と証人2名による確認のうえで作成されます。
家庭裁判所での検認手続きを経る必要もない(自筆証書遺言は検認手続きが必要)ので、相続の開始後速やかに遺言の内容を実現することができます。
ただし、法的な証明力が高い分必要な資料を提出したり、公証人と遺言内容を打ち合わせたり、手続きに時間と手間がかかります。
公正証書遺言を作成する際は、法律の専門家である司法書士や弁護士に相談すれば、公証役場との日程調整や手続きを円滑に進められるでしょう。
また、家族信託と遺言書の作成を併せて行うケースもあります。
家族信託の契約書では、信託する財産の承継については定められるものの、相続財産全てを網羅できるとは限らないためです。
公正証書遺言を併用して信託財産以外の財産についても定めておくことで、抜け目のない相続対策が可能です。
任意後見契約を結んでおく
任意後見契約では、委任者が元気なうちに財産管理・身上監護(医療・介護の手続きや契約ごとなど)に関する代理権を受任者へ与えておきます。
そして、委任者の判断能力が不十分となった際に、家庭裁判所に対して「任意後見監督人選任の申立て」を行い、任意後見監督人が選任されることにより効力が発生し、受任者が任意後見人として後見事務を開始します(任意後見契約に関する法律2条)。
任意後見契約では、任意後見人の代理権について、法律に定められている範囲内で自由に規定することが可能です。
よって、委任者が認知症で判断能力が不十分になり、本人の意思では遺産分割協議に参加できない状態になったとしても、事前に指定しておいた任意後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加し、遺産分割協議書への署名も行えます。
ただし、任意後見人が子や兄弟など、共同相続人となる場合には、任意後見人の立場と相続人としての立場が重複し、利益相反の状態となり、利害関係のない第三者である「特別代理人」を選任しなければならないため、注意しましょう。
また、任意後見契約では、成年後見制度(法定後見)と比較して、任意後見人や後見内容を柔軟に定められる契約ではあるものの、法定後見制度と同様の問題点も持ち合わせています。
判断能力の低下した本人を保護・支援するために、事前に対策できる有用な制度ですが、前述の家族信託と比較すると財産管理に関する制限が多いことも事実です。
ただし、任意後見契約には、財産管理だけでなく、入院や介護施設入所の手続き・日常生活に必要な契約や手続きの支援など、身上監護に関する代理権を任意後見人に与えられるという家族信託にはないメリットもあります。(家族信託と任意後見契約を併用することも可能です。)
それぞれの制度のメリットと問題点を検討し、本人の状況や家族の意向などを総合的に考えた上で、専門家とともに相続対策を進めていくことをおすすめします。
相続人が認知症の場合の注意点
ここでは、相続人が認知症の場合に注意していただきたい点をご紹介します。
- 遺産分割協議書の代筆はNG
- 相続税の申告には期限がある
- 相続後の財産管理も見据えて対策する
それぞれみていきましょう。
遺産分割協議書の代筆はNG
被相続人が亡くなることで相続は開始されますが、相続財産を預金口座から引き落としたり、不動産の相続登記をする際、真に相続人であることを証明するために「遺産分割協議書」が必要となります。
そこで、認知症の相続人がいたとしても、遺産分割協議書への署名を代筆して遺産分割協議書を作成してもバレないのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれません。
ただし、署名の代筆は刑法159条の私文書偽造罪違反により3年以上5年以下の懲役に処せられる可能性があるため、絶対にNGです。
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
引用:刑法159条
また、偽造した遺産分割協議書を使って法務局で不動産の相続登記をした場合には公正証書原本不実記載罪にあたる可能性があります。
相続税の申告には期限がある
相続税を納める必要がある場合は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を税務署へ提出する必要があります。
相続人が認知症で、成年後見制度を利用する場合は、申立てから後見開始の審判が下るまで約1〜2ヶ月、長ければ3〜4ヶ月かかるケースもあるようです。
相続税の税額控除や特例の適用を受ける場合は、相続税の申告が必須となりますので、成年後見制度の手続きの期間等も含めて余裕を持って進める必要があります。
相続に関する問題や悩みがあれば早めに専門家へ相談しましょう。
###相続後の財産管理も見据えて対策する
相続人が認知症になったときに遺産分割協議ができないという事態を防ぐには、家族信託・遺言・任意後見制度などを活用して元気なうちに対策することが重要です。
ただし、対策を考える際は遺産分割協議のことだけでなく、認知症になることで起こる他のリスクも想定し、対策を取る必要があります。
例えば、無事遺産分割協議が成立し、相続により遺産の名義人になったとしても、認知症で判断能力がなければその後の預金の引き出しや不動産の売却は自分だけで行うことは不可能です。
相続後、相続した財産を使用、運用することも見据えて後見制度の利用や家族信託をあらかじめ組んでおくことが重要となります。
ただし、ご本人や家族の状況を踏まえて希望を確実に実現できるような対策を行うことは、法律の知識がなければ難しい部分も多いでしょう。
相続や認知症に関する対策について検討する場合は、まずは認知症対策の専門家へ相談することをおすすめします。
認知症対策・相続対策のお悩みは経験豊富な専門家へ
認知症の相続人がいる場合、遺産分割協議を行うには成年後見制度の利用が必須となります。
成年後見制度は、本人の財産を保護することが目的ですので、遺産分割協議では本人の法定相続分を確保できるように遺産分割を行わなければなりません。
よって、二次相続以降の相続税対策を考えた自由な遺産分割は行えず、また成年後見制度は遺産分割協議成立後も本人が亡くなるまで続きます。
認知症になったとしても、将来の相続税や柔軟な財産承継を考えるのであればできる限り早段階で対策を施しておく必要があります。
特に、家族信託は、成年後見制度では、家庭裁判所の関与もなく、少しリスクが伴うような資産運用も受任者へ任せることが可能です。
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