成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力が不十分な方の財産管理や手続きなどを、後見人が代わりに行う制度です。

正しい判断が難しい被後見人を不利益から守るための制度ですが、法律的な制限が多いことなどから「成年後見制度はひどい」と言われることも多いようです。

成年後見制度を利用することで守られている方、助けられている方もたくさんいるため、決して制度自体がひどいというわけではありません

ただし「親が高齢になったから」「認知症の疑いがあるから」と安易に成年後見制度を利用すると、思わぬ制限やトラブルを招いてしまう可能性があります。

本記事では、成年後見制度がひどいと言われる理由や、成年後見制度を使ってはいけないケース、成年後見制度の代わりに利用できる制度などについて、詳しく解説していきます。

成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、認知症や知的障害などで判断能力が低下した人の契約や財産管理のサポートを行う制度です。「成年後見人」を家庭裁判所から選任してもらい、本人に代わって様々な手続きを行なってもらいます。この記事では成年後見制度についてわかりやすく説明し、同時に最近注目を浴びている家族信託との比較についても解説します。
【完全版】成年後見制度とは?わかりやすく解説します

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家族信託の「おやとこ」では、認知症による財産管理問題に悩むお客様に、専門家がご家族に寄り添い、真心を込めて丁寧にご対応
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認知症に完全になる前であれば、任意後見や家族信託など、様々な制度を選択することもできます。費用や各制度のデメリットなど、専門家と相談し慎重に決めることをおすすめします。

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成年後見制度がひどいと言われる7つの理由

「成年後見制度がひどい」と言われる7つの理由は以下の通りです。

  1. 後見人による不祥事が多い
  2. 家族でも財産を自由に管理できなくなる
  3. 本人が亡くなるまでやめられない
  4. 申し立てや後見人に支払う費用が高い
  5. 希望した後見人が選ばれないことがある
  6. 申し立て手続きに手間と費用が掛かる
  7. 生前贈与など相続税対策が出来ない

それぞれ詳しく解説していきます。

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後見人による不祥事が多い

成年後見制度がひどいと言われる1つ目の理由は「後見人による不祥事が多い」ことです。

成年後見制度では、後見人(司法書士や弁護士等の専門職含む)による財産の使い込み・流用などの不祥事が多く発生しています

最高裁判所の調査によると「後見人等による不正事例」による被害額は、令和4年時点で総額約7億5千円、専門家による不正事例は約2億1千万円に及びます。

成年後見制度 不正額

引用元: 後見人等による不正事例|最高裁判所事務総局家庭局実情調査

被害額は年々減少してはいるものの、年々の推移を見ると、下げ止まりとなっており、いまだに数億円の被害があるのも事実です。

家族でも財産を自由に管理できなくなる

成年後見制度がひどいと言われる2つ目の理由は「家族でも財産を自由に管理できなくなる」ことです。

成年後見制度では、被後見人の利益のためにあり、被後見人を保護するということが前提となっています。

よって「被後見人の財産を子供に贈与する」「所有不動産を売却して資金を捻出する」などの行為は「被後見人の財産が減り、被後見人の不利益となる 」とみなされ、自由に行うことが認められません。

これは、後見人として家族が選ばれた場合も、専門家が選ばれた場合も同様です。

そのため、成年後見制度を開始すると、家族や親族でも自由に本人の財産を管理・運用することは難しくなります

本人が亡くなるまでやめられない

成年後見制度がひどいと言われる3つ目の理由は「本人が亡くなるまでやめられない」ことです。

成年後見制度は原則、本人が亡くなるまで続き、後見人も、本人が亡くなるまで後見人としての役割を果たす義務があります。

よって、家族が後見人になりたくて申し立てを行い、意に沿わず他の専門家が後見人に選ばれた場合でも、その申し立ては取り下げられない ということです。

申し立てや後見人に支払う費用が高い

成年後見制度がひどいと言われる4つ目の理由は「申し立てや後見人に支払う費用が高い」ことです。

成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に対して「後見開始の申し立て」を行うときや、専門家が後見人に選任された場合は、費用や報酬を支払わなければなりません。

申し立てにかかる費用は数万円〜10万円以上に及ぶこともあります。

後見開始の申し立てにかかる具体的な費用は、以下の通りです。

成年後見人選任の申し立てにかかる費用

  • 申立手数料及び後見登記手数料:3400円(収入印紙)
  • 書類の送達や送付にかかる郵便切手:3270円
  • 鑑定費用:10 万〜20万円程度 ※鑑定:本人の判断能力がどの程度あるかについて裁判所が医師に依頼して判断する手続き
  • 医師の診断書作成費用:数千円程度(病院ごとに異なる)
  • 住民票・戸籍抄本発行費用:1部につき数百円(自治体により異なる)
  • 後見登記されていないことの証明書発行手数料:300円(収入印紙)

参考: 申立てにかかる費用・後見人等の報酬について 東京家庭裁判所後見センター

後見人となる専門家への報酬は、本人の財産の額によっても異なりますが、月額数万円程度かかり、被後見人が亡くなるまで払い続けなければなりません

被後見人の財産の額が5,000万円を超える場合は、月額5万〜6万円程度とされることもあるようです。

参考: 成年後見人等の報酬額について|裁判所

希望した後見人が選ばれないことがある

成年後見制度がひどいと言われる5つ目の理由は「希望した後見人が選ばれないことがある」ことです。

法定後見では、家庭裁判所への申し立ての際、希望する成年後見人を記載する「候補者欄」があります。

家族が成年後見人になりたい場合は「候補者欄」に名前を記載しますが、この希望は決して通るとは限りません。

最高裁判所の調査によると、成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)として、本人の親族が選任されたケースは全体の約20%にとどまっており 、その他の約80%は親族以外(司法書士や弁護士など)が選任されています。

参考: 成年後見関係事件の概況 ―令和3年1月~12月―|最高裁判所事務総局家庭局

後見開始の申し立ては、一度提出すれば基本的に取り下げできません。

そのため、希望した後見人が選ばれなくとも、後見制度は本人が亡くなるまで続き、親族にとって大きな負担やストレスとなる可能性もあります。

申し立て手続きに手間と費用が掛かる

成年後見制度がひどいと言われる6つ目の理由は「申し立て手続きに手間と費用がかかる」ことです。

後見開始の申し立てから審判までは、約1ヶ月〜3ヶ月程度かかります。

また、申し立てにおいては、申立書以外にも、親族関係図・財産目録・相続財産目録・医師の診断書など、たくさんの書類を準備しなければなりません。

参考: 申立てをお考えの方へ(成年後見・保佐・補助)東京家庭裁判所後見センター

それらの準備期間も含めると、かなり長い時間がかかり、その分手間や精神的な負担もかかるでしょう。

さらには、これらの手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合は、報酬の支払いも必要となり、金銭的にも大きな負担となります。

生前贈与など相続税対策が出来ない

成年後見制度がひどいと言われる7つ目の理由は「生前贈与など相続対策ができない」ことです。

先述の通り、成年後見制度では、被後見人の不利益となることは認められず、家庭裁判所から、日常生活・介護・医療において必要だと認められたことにのみ、本人のお金を使うことができます。

よって、本人の財産が減ってしまう「生前贈与」などの積極的な相続税対策はできなくなります

本人の所有不動産を売却する際も、家庭裁判所の指示や許可のもと進めなければならず、その売却益の使用用途についても報告が必要なため、積極的な運用や相続税対策はできません。

これらの理由により「成年後見制度はひどい」と言われているのです。

では実際に、成年後見制度を利用すると、どのようなトラブルが起こるのでしょうか。

実際にあった成年後見制度のトラブル事例

実際にあった成年後見制度のトラブル事例をご紹介します。

後見人が勝手にお金を使いこんでいた

母1人子1人のご家庭のお話です。

Aさん(母)の判断能力は正常です。しかし、最近健康を害し入院しなければならなくなりました。娘のBさんは海外留学中なので頼れる家族が近くにいない状況でした。
そこで出てきたのがAさんの兄Cさんでした。

Aさんが自分で入院費等の支払いができない状態なので、任意後見契約を締結し、CさんがAさんの財産を預かることになりました。

財産管理の報酬は月10万円で、その上Aさんの病状が悪化すると、ほとんどの財産を受け取れるような遺言を書かせました。

娘のBさんは母親が入院したことは知っていましたが、重い病状であることや、任意後見契約まで締結しなければならないということまでは知らされていませんでした。

間もなくAさんが亡くなり、Bさんが帰国して、遺産を確認してみるとほとんどなくなっていました。

ここまで、成年後見制度がひどいと言われる理由やトラブルを解説してきました。

ですが、決して成年後見制度そのものが、ひどい制度であるというわけではありません。

成年後見制度に助けられている方、成年後見制度に守られている方もたくさんいらっしゃいます。

そこで、以下では、成年後見制度のメリットについてお伝えします。

財産の使い込みを隠すために成年後見制度を利用しようとした

認知症と診断されたAさんには2人の子(Bさん・Cさん)がおり、これまではCさん夫婦が財産管理を行ってきました。相談者はこのCさんです。

ご相談内容は、BさんがCさんが財産管理することに反対しており、Aさんの財産を狙っているので、専門家に保佐人(財産管理などをする役目)となってもらって対応したいとのことでした。

Aさんは、マンション等の経営を行っており、月100万円近い収入があります。
しかしながら、その収入が全て残っていないことから、Cさんに詳しく聞いたところ、実はCさん夫婦が使ってしまったということが発覚しました。

これまで6年間も財産を預かってきたことを考えると、その額は数千万円に膨れ上がります。

おそらく、その辺のところをBさんにも攻められ、思い立ったのが成年後見制度の利用だったのでしょう。
成年後見制度を利用すると使い込みをうまくごまかせるとでも思ったのでしょうか。

引用元: 成年後見の失敗事例1|東京大阪相続相談所

成年後見制度のメリット

成年後見制度を適切に利用すれば、以下のようなメリットがあります。

  • 本人の代わりに預金や不動産などの財産を動かせる
  • 本人の代わりに介護サービスの契約や医療に関する手続きができる
  • 不必要な契約の取り消しができる
  • 身近な人による財産の使い込みや不正を防げる

それぞれについて、解説していきます。

本人の代わりに預金や不動産などの財産を動かせる

成年後見制度では、原則としてすべての財産管理を、本人の代わりに後見人が行えます。

認知症などで「判断能力がない」とみなされ、一度資産凍結の状態になった本人の預金や不動産などの財産を動かすことができるのです。

よって、本人の生活費・入院費用・介護施設の入居費用などが、本人の預金から引き出せるようになります。

本人の代わりに介護サービスの契約や医療に関する手続きができる

成年後見制度では、本人の代理人として契約行為を行えます。

例えば、本人が介護サービスを利用したり、老人ホームに入所したり、または入院したりする際、それらの手続きは本人の代わりに後見人が全て行えるということです。

不必要な契約の取消ができる

法定後見制度では、後見人に対して「契約の取消権」が認められています。

認知症などで判断能力が低下した被後見人は、悪徳な業者などにつけこまれて詐欺に遭ったり、不必要な契約を結んでしまうリスクも高まります。

そこで、成年後見制度を利用すれば、仮に不当な契約・不必要な契約を本人が結んでしまった場合でも、成年後見人が契約を取り消し、本人や家族を守ることができるのです。

身近な人による財産の使い込みや不正を防げる

成年後見制度では、預金の引き出しなどの財産管理については「後見人」として選任された人以外できなくなります。

よって、それ以外の親族など、身近な人による使い込みや横領などの不正行為を防ぐことができます。

成年後見制度を使うべき人とは?

成年後見制度を使うべき人とは、以下のような人です。

本人の認知症がすでに進行している

認知症がすでに進行し「判断能力がない」とみなされた場合、本人の代わりに財産管理や契約行為を行うには、成年後見制度を利用する必要があります。

凍結された本人の預金口座からお金を引き出したい

本人の判断能力がなくなり、預金口座が凍結された場合は、家族でもお金を引き出せなくなります。
→成年後見制度を使えば、後見人が本人の代理人として預金を動かせるようになります。

本人の代わりに介護サービスの契約や入院に関する手続きを行いたい、または専門家に任せたい

介護施設の入居に関する契約や、入院手続きなどは、契約行為(法律行為)にあたるため、本人の判断能力がない場合、本人自身が行うことは不可能です。
→成年後見制度を使えば、後見人が本人の代わりに介護サービスの契約などを行えるようになります。

本人が所有する不動産の管理を専門家に任せたい

認知症の親が遠方に住んでいる場合、本人が所有する不動産の管理を子どもが行うのも難しいでしょう。
→成年後見制度を使えば、後見人に選任された弁護士などの専門家が不動産を含めた財産の管理を代わりに行ってくれます。

認知症になった本人が詐欺被害などに遭わないかが心配

本人の判断能力が低下している場合、悪徳な業者にも不審感を抱かず詐欺被害に遭いやすくなります。
→成年後見制度を使えば、本人が結んだ契約を後見人が取り消せるため、詐欺被害の心配もなくなります。

家族や身近な人が本人の財産を使い込んでいないかが心配

本人の身近にいる家族が、本人名義の財産を勝手に私用に使い込んでいるケースもあります。
→成年後見制度を使えば、家庭裁判所の監督のもと適切な財産管理が行われるため、身近な人による本人の財産の使い込みを防げます。

成年後見制度を使わない方が良い人とは?

成年後見制度を使わない方が良い人は、以下のような人です。

本人がまだ元気である・本人に判断能力がある

本人に判断能力があれば、成年後見制度を使わずとも、家族信託や生前贈与など、他の柔軟な財産管理や相続対策を行える可能性が高いです。

ランニングコストを抑えたい

成年後見制度では、司法書士や弁護士などの後見人に対して、本人が亡くなるまで毎月数万円の報酬を払わなければならなりません。

積極的な相続対策(生前贈与や所有不動産の活用など)を行いたい

成年後見制度では、贈与や不動産の積極的な運用などは、基本的には認められません。本人が亡くなるギリギリまで相続対策を行いたい場合は、使わない方がよいでしょう。

成年後見制度に代わる他の制度

成年後見制度に変わる他の制度には、主に以下の3つが挙げられます。

  • 家族信託
  • 生前贈与
  • 任意後見制度

それぞれの制度についてご紹介します。

家族信託

家族信託とは「財産を信頼できる家族に託す」仕組みです。

自分や親が高齢になり、本人自身で財産を管理できなくなったときに備えて、財産の管理や運用を行う権利を家族に委託する「信託契約」を結びます。

家族信託において、本人は信託契約の当事者として、家族と相談しながら財産の管理・運用方法を柔軟に定めることができます。

よって、成年後見制度では難しい「生前贈与」や「所有不動産の活用」などの積極的な相続対策を柔軟に行えるのが大きなメリットです

家族信託では、本人が元気なうちに信託契約を結んでおけば、本人が認知症になった後でもそのまま契約内容に従って子が親の利益のために財産を管理・運用・処分ができるため「認知症による資産凍結対策」として近年大きく注目されています。

家族信託について、詳しくは以下の記事でも解説しています。ぜひご確認ください。

家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ仕組みです。本記事では家族信託の詳細や具体的なメリット・デメリット、発生する費用などについて詳しく解説します。将来認知症を発症しても、親子ともに安心できる未来を実現しましょう。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説!

生前贈与

生前贈与とは「生きているうちに財産を贈与(無償で渡す)こと」です。

贈与では、年間110万円以下の贈与であれば贈与税がかからない「暦年課税」という基礎控除を利用できるため「相続税の節税対策」として利用されます。

暦年課税を利用し、本人の財産を非課税で生前贈与しておくことで、本人が亡くなった後の相続財産を減らし、相続税の節税につながるのです。

ただし、贈与契約も法律行為であり、本人の判断能力がなければ成立しません

本人の認知症が進行しているケースなどでは、生前贈与を行えない可能性があるため、専門家に相談することをおすすめします。

任意後見制度

任意後見制度とは、成年後見制度のうちの1つで、本人の判断能力がなくなった時に備えて、事前に「任意後見人」や「後見の内容」を決めておく制度です。

本人が元気なうちに、本人の希望に合わせて後見に関する内容を定められるため、本記事で解説している「法定後見制度」と比較して、柔軟な制度だといえます。

ただし、任意後見制度も、法定後見制度と同様に、本人の保護・利益のために適用されるため、家族信託のような積極的な相続対策は難しくなります。

また、後見人は任意で定められますが、家庭裁判所への報告・後見監督人の設置が必須です。

後見監督人に専門家が選任されれば、報酬の支払いも必要なため、慎重に検討しましょう。

成年後見制度のご利用は経験豊富な専門家へ相談を

成年後見制度は、認知症や知的障害などで判断能力が低下した方を守るための制度です。

成年後見制度を利用することで守られている方、助けられている方もたくさんいるため、決して制度自体がひどいというわけではありません。

ただし、「親が高齢になったから」「認知症の疑いがあるから」と安易に成年後見制度を利用すると、思わぬ制限やトラブルを招いてしまうかもしれません。

成年後見制度を利用するには、法律関連の知識も必要なため、まずは認知症対策の専門家への相談をおすすめします。

当社では、経験豊富な専門家が相続に関するお悩み、家族信託のご提案等をさせていただきます。

ぜひお気軽にお問い合わせください。

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