認知症による資産凍結を防ぐための「家族信託」。

近年、メディアで取り上げられることも多く、利用を検討している方も多いのではないでしょうか。

家族信託では主に、親が委託者、子が受託者となり、親から子へ財産管理を託すことによって、親が認知症になっても銀行口座や不動産を動かせるようになります。

一方で、現在は銀行が提供する商品・サービスとして「家族信託」と同様の名前が含まれるものも増えているのです。

何を選べば良いのか、どこへ相談すれば良いのか、混乱してしまうという方もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、銀行の家族信託と一般的な家族信託との違い、銀行を活用した家族信託の正しい進め方などをわかりやすく解説していきます。

要約

  • 家族信託に対応している銀行・証券会社は年々増えてきている
  • 商事信託と民事信託(=家族信託)の違いに注意
  • 家族信託をするためには、信託口口座が原則として必要
  • 信託口口座を開設する際は、銀行ごとに取り扱いが異なるので事前確認が必要
  • どの銀行を選べばいいか、家族信託の経験が豊富な専門家に相談ください

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家族信託は銀行でできるの?

ほとんどの場合、銀行では「親から子に財産管理を託し、認知症に備える」という一般的な家族信託はできません。

なぜなら、銀行が提供する家族信託は、上記の一般的な家族信託とは意味合いが異なるためです。

具体的にいうと、銀行が提供する家族信託は、銀行自身が受託者となり、委託者の財産を代わりに管理することで手数料をもらうという「商事信託 」に分類されます。

商事信託は、信託業者として内閣総理大臣の免許を受けた業者のみが行える、営利目的の信託です。

子や配偶者などを受託者として、家族内で完結する家族信託とは異なります。

商事信託であっても、銀行が提供する信託のサービス名として「家族信託」の名が含まれていることもあるため、注意しましょう。

銀行の家族信託サービスとは?

銀行の家族信託サービスは一般的に、高齢となった委託者が銀行へ金銭の管理を託し、 相続発生後、契約時に指定した委託者の家族へ銀行が信託財産の支払いを行う というものです。

銀行の商事信託

相続発生後のご家族への支払い方法は、毎月一定額を分割で支払う年金型や、全額を一括で支払う一括型など、サービスによって異なります。

また、銀行やサービスによっては、信託財産の管理手数料(月額費用) や、契約時の信託報酬(初期費用) が定められているため、利用する際は確認しておかなければなりません。

銀行の家族信託と一般的な家族信託の違いとは?

銀行の家族信託が「商事信託」であるのに対し、一般的な家族信託は民事信託 」にあたります。

一般的な家族信託は、委託者兼受益者=親、受託者=子として設定されることが多く、子は営利を目的とせずに親の財産を管理し、信託事務を行います。

一方で、銀行の家族信託は、銀行が受託者となって営利目的で財産管理を行う「商品・サービス」 として各銀行で提供されているものです。

商事信託と民事信託

参考: 一般的な家族信託と銀行の家族信託との違い|相続・家族信託ガイド

そのため、具体的なサービス内容や手数料、利用要件などは銀行やサービスごとに定められています。

例えば、銀行の商事信託では、信託財産の額に下限が定められていることがありますが、民事信託ではそのような制限はなく、家族の状況や希望に合わせてオーダーメイドでの設計が可能です。

委託者の財産を子に託し、家族間で認知症対策や相続対策を行うのであれば、民事信託としての家族信託を利用するとよいでしょう。

ただし、銀行の家族信託には、銀行のサービスならではの特徴や、民事信託にはないメリットもあります。

銀行の家族信託(商事信託)を利用するメリット3つ

銀行の家族信託サービスを利用するメリットは、主に以下の3つです。

銀行の家族信託サービスを利用するメリット

  1. 相続発生後すぐに資金を引き出せる
  2. 相続発生後の資金の受け取り方を選択できる
  3. 受託者を頼める人がいなくても、銀行が受託者として財産管理を行ってくれる

それぞれみていきましょう。

1. 相続発生後すぐに資金を引き出せる

銀行の家族信託では、委託者の死亡により相続が発生すると、 信託していた財産をすぐに家族が受け取る ことができます。

商事信託を利用した場合の相続発生後

通常、相続発生時は、遺言書がなければ相続人間で遺産分割協議を行ったり、遺言があってもその有効性を確認したりなど、さまざまな手続きが完了しなければ、被相続人の口座からお金を引き出すことはできません。

しかし、銀行の家族信託サービスであれば、遺産分割協議などの複雑な手続きを経ることなく、契約時に指定した家族へすぐに財産が支払われます。

2. 相続発生後の資金の受け取り方を選択できる

利用する家族信託サービスによっては、相続発生後、一括ではなく分割で資金を受け取れるものもあります。

商事信託の資金の受け取り方

残された家族の生活費として、毎月の必要額に合わせて受け取り方を設定することで、家族の浪費の防止にもなります。

3. 受託者を頼める人がいなくても、銀行が受託者として財産管理を行ってくれる

銀行の商事信託を利用すれば、家族や近親者に受託者を頼める人がいなくても 、委託者の認知症や相続に備えて銀行へ財産管理を託すことができます。

家族と疎遠な方や、独居の高齢者の方だけでなく、子どもが遠方に住んでいて面倒が見れないなどの事情がある場合にも活用できるでしょう。

銀行の家族信託(商事信託)を利用するデメリット5つ

銀行の家族信託サービスを利用するデメリットは、主に以下の5つです。

銀行の家族信託サービスを利用するデメリット

  1. 不動産には対応できない
  2. 少額では利用できない
  3. 銀行が定めたサービス内容の範囲に従う必要がある
  4. 信託内容の設計や契約書の作成には対応していない
  5. 銀行への手数料が発生する

それぞれみていきましょう。

1. 不動産には対応できない

銀行の家族信託サービスで信託できる財産は、基本的に「金銭のみ 」です。

自宅やアパートなどの不動産について「認知症に備えて管理・運用を託したい」「売却行為を子どもに任せたい」 という場合は、銀行の家族信託サービスでは対応できません。

特に、家族信託は不動産を信託し、親が認知症になっても管理・運用や売却などの契約行為ができるように備えておけるということが大きなメリットでもあります。

地主の方や、賃貸経営をされている方などにとっては、銀行の信託サービスだけでは対応できない部分が多いでしょう。

2. 少額では利用できない

また、銀行の家族信託サービスでは、信託できるお金に最低額 (最低預入額)が設定されていることがほとんどです。

最低預入額は、1,000万円や3,000万円など、銀行やサービスによって異なりますので、事前に確認しておきましょう。

3. 銀行が定めたサービス内容の範囲に従う必要がある

銀行の家族信託では、定められたサービス内容の範囲 でしか契約はできません。

例えば、委託者が銀行へ金銭を託し、相続発生後に指定された家族や近親者へ銀行から支払いを行う、というスキームが既に定められています。

一般的な家族信託のように、委託者の財産状況に合わせて信託内容を柔軟に設定することは困難です。

家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ仕組みです。本記事では家族信託の詳細や具体的なメリット・デメリット、発生する費用などについて詳しく解説します。将来認知症を発症しても、親子ともに安心できる未来を実現しましょう。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説!

4. 信託内容の設計や契約書の作成には対応していない

銀行の家族信託サービスは、銀行が受託者となって財産を管理するサービスです。

家族信託の設計内容の考案や、契約書の作成のサポート には対応していません。

また、銀行は受託者としての金銭管理や運用は可能ですが、法律の専門家ではないため、法的な内容を考慮した信託の設計業務については、専門分野から少し外れてしまいます。

ただし近年では、民事信託としての家族信託をサポートするため、家族信託の専門家の紹介を含めたコンサルティングサービスを提供する銀行も出てきています。

詳しくは後段でも解説しているので、ぜひご覧ください。

5. 銀行への手数料が発生する

銀行の家族信託サービスを利用する場合、契約時の初期費用(信託報酬) や、サービス開始後の月々の管理手数料がかかります。

手数料の額は銀行やサービスによって異なりますが、商事信託では家族信託(民事信託)に比べて高額になる可能性が高いでしょう。

一部の銀行では民事信託の取り扱いを開始している

ここまで解説した通り、銀行の家族信託サービスといえば、銀行が受託者となる営利目的の「商事信託」 が一般的でした(厳密には「家族信託」ではありません)。

しかし近年、家族内で完結する「民事信託」としての家族信託が急速に注目を集めています。

このことから、一部の銀行では銀行が受託者になる商事信託ではなく、家族が受託者になる本来の家族信託のサポート も提供され始めています。

銀行側から専門家を紹介してくれる場合もあり、家族信託の契約書作成や税務など、専門知識が必要な分野のサポートにも対応可能です。

銀行の民事信託サポート

一般的な「家族信託」は家族信託の専門家への相談がおすすめ

銀行の民事信託サポートにおいても、法律や税金などの専門的な分野に関することは基本的に、専門家の紹介で対応しています。

よって、民事信託としての家族信託を行うのであれば、家族信託の専門家へ直接相談 した方が、費用も抑えられ、スムーズに信託の組成を進められるでしょう。

ただし、新しい制度である家族信託については、経験豊富な専門家もまだまだ少なく、専門家の見極めが重要となります。

また、家族信託は、信託内容の設計、契約の締結を行い、受託者による財産管理が始まってからが本当のスタートです。

当初設計した通りに認知症対策や相続対策を実現し、信託の目的を達成するには、専門家の継続的なサポートが必要となります。

家族信託の専門家を見極める時は、以下の点を確認するようにしましょう。

家族信託の専門家を選ぶポイント

  • 家族信託の実績がHPやSNSなどに明記されているか
  • 家族信託に関する発信が盛んに行われているか
  • 家族信託に関する質問に対して明確な回答をしてくれるか
家族信託の相談先は、司法書士がおすすめです。司法書士は主に登記手続きを専門分野としていますが、業務上、生前対策や相続、成年後見制度の知見も豊富です。 その他の士業との違いや、相談先を選ぶときのポイントについて、詳しく解説していきます。
家族信託はどこに相談すべき?専門家の選び方や相談事例を徹底解説!

一般的な家族信託で利用する「信託口口座」とは?

一般的な家族信託は、委託者の家族(子など)が受託者に就任して財産管理を行い、家族間で組成する信託です。

ただし、銀行の力を全く借りなくて良いかというと、そうではありません。

家族信託で受託者が金銭を管理する際は「信託口口座 」が必要です。

信託口口座とは、受託者が信託金銭を管理するための家族信託専用の口座で、受託者個人の財産と信託財産を明確に分けて管理するために開設します。

なぜなら、受託者には「分別管理義務(信託法34条)」という、法律で定められた義務があるためです。

分別管理義務

厳密には、受託者は信託財産(金銭)について、その収支の計算や履歴を明らかにしていれば、信託口口座を開設することは必須ではありません(信託法34条1の2のロ)。

ただし、信託口口座を開設することで、家族信託の運用が安定し、委託者・受託者・受益者ともに得られるメリットが多いため、弊社でも信託口口座の開設を推奨しています。

家族信託を利用する場合、信託法で受託者は「分別管理義務」を負い、信託された財産と個人の財産とを分別して管理しなければならないとされています。この記事では信託口口座の特徴や口座の開設方法などについてご紹介しますので参考にして下さい。
家族信託の口座(信託口口座)のつくり方について解説

信託口口座を開設するメリット

信託口口座を開設する主なメリットは、以下の3つです。

信託口口座を開設するメリット

  • 信託財産の分別管理がしやすくなる
  • 委託者・受託者の債務に関する差押えを受けない
  • 委託者や受託者の死亡により凍結しない

詳しく解説していきます。

信託財産の分別管理がしやすくなる

信託口口座は、委託者や受託者の固有財産から独立した財産として、信託法に沿った性質を持つ口座です。

固有財産とは分離された信託財産であることが明確化されるため、受託者の義務である「分別管理 (信託法第34条)」がしやすくなります。

家族信託に関する収支を信託口口座にまとめて、受託者の義務である「帳簿等の作成等(信託法第37条)」もよりスムーズに行えるようになります。

分別管理義務と帳簿の作成

一般的に、信託口口座の名義は「委託者〇〇 受託者△△ 信託口」のように、連名で記載されるため、委託者(=受益者)の安心にも繋がります。

委託者・受託者の債務に関する差押えを受けない

信託口口座は、委託者や受託者個人が破産した場合でも差し押さえを受けません

信託口口座にある金銭は「信託財産」であり、信託財産は委託者・受託者から独立した財産として、債権の引き当てにはできないと定められているためです(信託法23条、25条)。

これは「信託財産」特有の性質で、家族信託の「倒産隔離機能」 とも表現します。

委託者・受託者の死亡により凍結しない

信託口口座は、委託者や受託者が死亡したとしても「口座が凍結 してお金が引き出せなくなる」ということはありません。

信託口口座にある金銭は「信託財産」であることが明確であり、委託者のものでも受託者のものでもないためです。

家族信託の契約において、受託者の万が一に備えて第二・第三受託者といった後継の受託者を定めていれば、受託者が死亡した場合でも第二受託者がスムーズに信託口口座の管理を引き継ぐことができます。

もし、信託口口座を開設せず、受託者名義の口座で信託財産を管理していた場合は、受託者が死亡すると口座が凍結してしまいます。

凍結を解除するためには、受託者の相続手続きを完了させなければなりません。

受託者名義の信託口口座

その場合、遺産分割協議などの複雑な手続きが発生し、親族間の揉め事に発展するおそれもあるため、リスク回避という意味でも信託口口座での管理がおすすめです。

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家族信託に対応している銀行・証券会社一覧

ここでは、家族信託での信託口口座の開設に対応している銀行・証券会社をご紹介します。

数年前まで、は信託口口座の開設に対応している銀行・証券会社は非常に少なかったのですが、家族信託の普及により年々増えてきています。

家族信託に対応している銀行一覧

家族信託に対応している銀行一覧(主なエリア別)

<北海道・東北地方>
秋田銀行、仙台銀行、七十七銀行、山形銀行、岩手銀行

<北陸地方>
第四北越銀行

<関東地方>
三井住友信託銀行、オリックス銀行、京葉銀行、常陽銀行、千葉銀行、千葉興業銀行、横浜銀行、東和銀行、栃木銀行、武蔵野銀行、横浜信用金庫、栃木銀行、浜松いわた信用金庫、多摩信用金庫、飯能信用金庫、平塚信用金庫

<中部地方>
長野銀行、十六銀行、八十二銀行、百五銀行、

<近畿地方>
京都銀行、紀陽銀行、三重銀行、三十三銀行、池田泉州銀行

<中国・四国地方>
広島銀行、四国銀行、中国銀行、山口銀行、阿波銀行、愛媛銀行、広島信用金庫、百十四銀行

<九州・沖縄地方>
沖縄銀行、琉球銀行、福岡銀行、熊本銀行、佐賀銀行、宮崎銀行、肥後銀行

参考:一部抜粋・発表当時の資料から引用

  • 2016年
三井住友信託銀行が、信託口口座開設に対応開始
広島銀行が、民事信託に対応したローン商品の取り扱い開始
千葉銀行が、ちばぎんファミリートラストサポートサービスの取り扱い開始

  • 2017年
栃木銀行が、民事信託に対応した預金口座の取り扱いを開始
武蔵野銀行が、家族信託サポートの取り扱いを開始
琉球銀行が家族信託サービスの取り扱いを開始
四国銀行が民事信託コンサルティング業務の取り扱い開始
横浜信用金庫が家族信託の取り扱いを開始
中国銀行が、民事信託契約支援業務の取り扱いを開始

  • 2018年
オリックス銀行が家族信託サポートサービスを開始
七十七銀行が、民事信託契約に基づく預金口座の取り扱い開始
山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行が、民事信託サポートサービスの取り扱い開始
沖縄銀行が、家族信託サポートサービスの取り扱い開始
池田泉州銀行が民事信託コンサルティング業務の取扱を開始
秋田銀行が、民事信託コンサルティング業務の取り扱い開始

  • 2019年
京葉銀行が家族信託の取り扱い開始
千葉興業銀行が民事信託コンサルティング業務の取扱を開始
十六銀行が受託者向け信託口口座の取扱を開始
紀陽銀行が、民事信託受託者向けサービスの取り扱い開始
仙台銀行が、民事信託口預金口座の取り扱い開始
広島信用金庫が民事信託コンサルティング業務を開始
東和銀行が、民事信託サービスの取り扱い開始
三重銀行、第三銀行が、信託口口座の開設に対応開始
京都銀行が、民事信託サービス(取次ぎサービス、口座開設サービス)開始
宮崎銀行が、家族信託サービスの取り扱い開始
百五銀行が、民事信託業務・サービスの取扱開始

  • 2020年
長野銀行が、家族信託の取り扱い開始
第四銀行が、家族信託の利用支援業務開始
福岡銀行が、民事信託コンサルティングサービスの取り扱い開始
山形銀行が、やまぎん家族信託サポート~Family
常陽銀行が、家族信託の取り組み強化

  • 2021年
平塚信用金庫が、民事信託業務の取り扱い開始
愛媛銀行で『民事信託』の顧客紹介業務の取扱を開始

  • 2022年
横浜銀行とトリニティ・テクノロジーが家族信託に関する業務提携を発表
広島銀行が民事信託マネジメントサービスの新商品導入を発表
肥後銀行が民事信託関連サービスの取扱を開始
常陽銀行とトリニティ・テクノロジーが家族信託に関する業務提携を発表
福岡銀行とトリニティ・テクノロジーが業務提携

  • 2023年
トリニティ・テクノロジーが七十七銀行と業務提携
百十四銀行が、民事信託簡易パッケージ「託して安心」の取扱開始

家族信託に対応している証券会社一覧

上場株式や投資信託などの有価証券を信託する場合においても、証券会社で家族信託の信託口口座が開設できるかどうか確認する必要があります。

まだ、銀行と比較すると少数ですが、信託口口座を開設できる証券会社も徐々に増加しています。

家族信託に対応している証券会社一覧

野村証券、廣田証券、大和証券、楽天証券、東海東京フィナンシャルホールディングス、SBI証券、めぶき証券、長野証券

参考:一部抜粋・発表当時の資料から引用

銀行で信託口口座を開設する方法・手続きの流れ

家族信託の普及に伴い、信託口口座に対応している銀行は日々増えています。

金銭を信託する際は、ぜひ信託口口座を開設しましょう。

ここからは、信託口口座の開設手続きについて、具体的に解説していきます。

信託口口座の解説手順

1. 銀行が信託口口座に対応しているか確認する

まずは、取引予定の銀行が信託口口座に対応しているか確認しましょう。

銀行のHPを確認するか、不明な場合は電話で問い合わせるとよいでしょう。

本記事内にある一覧も、ぜひ参考にしてください。

2. 信託口口座の開設要件を確認する

信託口口座を開設するには、銀行が定める開設要件を満たす必要があります。

例えば「口座への預入金額が〇〇円以上でなければならない」「ネットバンキングのサービスは利用できない」など、銀行によって異なります。

その他の開設要件の例は、以下の通りです。

信託口口座の開設要件の例

  • 預入金額の下限・上限
  • 利用可能サービスの制限
    (キャッシュカード、口座振替、ネットバンキングなど)
  • 信託内融資への対応可否
  • 利用可能な居住エリア

HPの記載だけで判断することが難しい場合もありますので、電話口や窓口で直接確認することをおすすめします。

専門家にサポートを依頼している場合は専門家が、開設要件を満たしているかチェックしてくれるでしょう。

3. 信託契約の内容について、銀行のチェックを受ける

信託口口座を開設するには、信託契約の内容について、銀行のチェックを受ける必要があるため、注意しましょう。

銀行によっては、規定の条文の追加を求められたり、銀行が指定する専門家のチェックを受けなければならなかったりするケースもあります。

銀行に確認を取る前に契約書を締結してしまうと、もしも修正指示があれば、契約書作成の手続きが二度手間になってしまうため、必ず締結前の早い段階から相談するようにしましょう。

4. 必要書類を揃える

信託口口座の開設に必要な書類として、代表的なものは以下の通りです。

信託口口座の開設に必要な書類

  • 信託契約書(公正証書)
  • 受託者の本人確認書類(委託者・受益者の本人確認書類も求められる場合あり)
  • 届出印
  • 委託者と受託者の関係がわかる資料(相続関係図など)

特に、信託契約書はほとんどの場合、公正証書でなければなりません。

公正証書の作成には、公証役場との打ち合わせや手続きなどで、かなり時間がかかりますので、早めに着手しましょう。

家族信託も信託契約になりますので信託法のルールに沿って作成することになるのですが、法的には公正証書で作成しなくても問題はない、という解釈になります。今回は「公正証書化」が必要なケースについてご紹介します。信託契約書を公正証書で作成した方が良いケース、公正証書での作成にすべきケースについても説明していきます。
家族信託に公正証書が必要?私文書では危険?メリット・デメリット、必要書類や手続きの流れ、費用を解説

5. 信託口口座開設手続きを行う

信託契約の内容について銀行の内諾をとり、公正証書で信託契約書を締結したら、必要書類を揃えて口座開設手続きを行います。

開設手続きでは、委託者と受託者両方の出席を求められる場合もあるため、スケジュールについて確認しておきましょう。

6. 信託財産を信託口口座へ入金(送金)する

信託する金銭を信託口口座へ入金すると、受託者による管理が開始します。

管理は基本的に通帳やネットバンキングなどで行えますが、利用可能なサービスは銀行によってさまざまです。

受託者は、信託財産の収支を記録したり、領収書を保存したりという義務(信託法37条)があるため、他に不動産や株式などの信託財産があったり、金銭の動きが激しかったりすると、受託者の負担にもなりかねません。

そこで、弊社が提供する 「おやとこ」アプリでは、銀行と連携して信託口口座の出入金履歴をアプリ上で管理できる機能があります。

効率的に、かつアプリを通して委託者・受益者もすぐに状況を確認できるクリアな財産管理が可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

銀行での信託口口座の開設が難しい場合の対処法

家族信託では、一般的に3つの口座の作成方法があります。

家族信託の口座作成方法

  1. 信託口口座
  2. 信託屋号口座
  3. 受託者の個人名義口座

最も推奨しているのは信託口口座ですが、事情があり難しい場合は、上記2、3のような方法で作成するケースもあります。

信託屋号口座

信託屋号口座は、口座名義人の表記に「信託の受託者である旨」が明記されている口座です。

名義上は、受託者個人の口座と区別されますが、実質的には受託者の固有財産 に属します。

信託屋号口座

よって、受託者の債権者から差押えを受けたり、受託者の認知症や死亡により凍結したりするリスクは残されています。

また、銀行のサービスの中にも「信託口」という名前は含まれるものの、実際には信託法に則った管理がされない「屋号口座」の可能性もあるため、注意が必要です。

自分だけで判断ができない場合は、必ず専門家と一緒に確認することをおすすめします。

受託者の個人名義口座

新たに受託者の個人名義口座を開設して、それを信託財産専用とする方法もあります。取扱いは通常の個人名義口座と同様です。

開設手続きは3つの中でも最もスムーズですが、凍結や差押えを回避する機能はないため、注意しましょう。

この場合、外見上は受託者の個人口座であるため、真の個人口座と信託用の口座を明確に区別できるように 「口座指定書」の作成をおすすめします。

口座指定書の内容

  • 信託口口座として扱う口座の「金融機関名」「支店名」「種類」「口座番号」「口座名義人」などの情報
  • 上記の口座を信託口口座として扱う旨

口座開設の際には、銀行窓口において「信託用に開設する」という旨を伝えるようにしましょう。

証券会社で家族信託をする方法・手続きの流れ

主に家族信託の対象になる財産は、「金銭」「不動産」「有価証券(株式等)」です。

金銭の他に、上場株式や投資信託などの有価証券も、証券会社で信託口口座を開設 して管理する必要があります。

信信託口口座の解説手順(証券会社)

※不動産の家族信託については、下記の記事にて解説しています。

自宅や収益用の不動産を所有している場合、自分でいつまで不動産の管理ができるのか、いざというときには、滞りなく売却して現金化することができるのか、など不安を感じることもあるのではないでしょうか。不動産所有者の場合、家族信託を活用してどのような対策を講じることができるのか、事例を含めて解説します。
【完全版】不動産を家族信託する方法・税金・メリット・デメリットなどを解説

1. 現状の証券会社が信託口口座に対応しているか確認する

委託者(親)が利用している証券会社が家族信託に対応しているなら、同じ証券会社内で信託口口座を作成し、スムーズに手続きを進めることができます。

ただし、信託口口座に対応している証券会社は多くはありません。

利用中の証券会社が家族信託に対応していない場合は、家族信託に対応している別の証券会社にて信託口口座の作成について相談しなければなりません。

2. 信託口口座の開設要件を確認する

証券会社によって、信託口口座の開設要件が定められているため、事前に確認する必要があります。

また、信託口口座が開設できたとしても、株式や投資信託ごとに移管できるかどうかは異なります。

また、証券会社で信託口口座を開設するには 「後継受託者を定める」「本人の死亡で終了する遺言代用型信託とする」 など、家族信託の内容に関する制限が定められていることがあります。

信託内容を確定してしまう前に、早めに相談・確認しておきましょう。

信託内容の制限(一例)

  • 後継受託者を定めること
  • 本人の死亡により信託契約が終了すること
  • 専門家が作成に関与した信託契約書であること
  • 信託口口座の他に、同一支店で受益者の個人口座、受託者の個人口座を開設すること

3. 信託契約の内容について、証券会社のチェックを受ける

銀行での信託口口座開設手続きと同様、証券会社を利用する場合も、家族信託契約の内容について事前にチェックを受ける必要があります。

4. 必要書類を揃える

信託口口座の開設に必要な書類として、代表的なものは以下の通りです。

信託口口座の開設に必要な書類

  • 信託契約書(公正証書)
  • 受託者の本人確認書類(委託者・受益者の本人確認書類も求められる場合あり)
  • 届出印
  • 振込先金融機関の口座番号
  • 委託者と受託者の関係がわかる資料(相続関係図など)

特に、信託契約書はほとんどの場合、公正証書でなければなりません。

公正証書の作成には、公証役場との打ち合わせや手続きなど、時間がかかりますので、早めに着手する必要があります。

5. 信託口口座の開設手続きを行う

証券会社のチェック完了後、公正証書で信託契約書を締結し、必要書類を揃えたら、信託口口座の開設手続きを行いましょう。

6. 有価証券を信託口口座へ移管する

口座開設後、信託口口座へ有価証券を移管すれば、受託者が信託財産として管理・運用できるようになります。

証券会社での信託口口座の開設が難しい場合の対処法

家族信託に対応している証券会社は、まだまだ少ないのが現状です。

投資信託や株式が移管に対応しているかどうかは、証券会社や商品ごとに異なります。

また、利用中または利用予定の証券会社がそもそも家族信託に対応していなければ、実務上信託は難しいでしょう。

移管できない有価証券は、以下の手段を取ることをおすすめします。

移管できない有価証券に取りうる手段

  • 信託財産から除外して管理する
  • 早めに売却して現金化し、他の運用方法を考える

ただしこの場合でも、現状の有価証券の保有量や価額、課税面など、さまざまな観点から方針を検討する必要があるため、専門家へ相談することを強くおすすめします。

家族信託における金融機関の活用方法

家族信託では、信託口口座を作成する以外にも、金融機関の力を活用できる場面があります。

その代表的な例が「信託内借入 」です。

信託内借入とは、家族信託の信託契約の範囲内で金融機関から融資を受けることをいいます。

また、信託契約の内容に一定の条項を定めておけば、信託財産を融資の担保として設定することも可能です。

信託内借入

実際の活用例をみてみましょう。

信託内借入の活用例

信託内借入の事例

収益用不動産を保有しているAさん(80歳)は、将来的に長男であるBさんに当該不動産を相続させたいと思っています。

また、約1年後に銀行から借入をして、不動産の大規模修繕を行う予定です。

しかしAさんは最近、体力も衰えてきており、軽度の認知症の診断も受けている状態で、1年後、借入の手続きや工事の契約などを全て自分で行えるか不安になりました。

そこで、AさんはBさんに不動産を家族信託し、信託した不動産を担保にして信託の範囲内で借入 ができるように設計しました。

これでAさんは、銀行での借入手続きや不動産の大規模修繕に関する手続きをBさんに任せることができます。

ただし、金融機関が信託内借入に対応しているかどうかや、信託内借入に際して盛り込まなければならない条項があるかについては、事前に確認しておかなければなりません。

まとめ

銀行が提供する家族信託サービスは、銀行が受託者となって委託者の金銭を管理する「商事信託 に該当します。

これは、家族間で財産管理を行う家族信託(民事信託)とは異なるものです。

民事信託としての家族信託を検討する場合は、家族信託の経験が豊富な専門家に相談することが重要です。

経験豊富な専門家に相談することで、家族信託だけでなく、遺言書や成年後見人制度なども踏まえた上で、ご本人やそのご家族にとって最適な選択をすることができます。

金銭や有価証券の信託では、信託法に沿った信託口口座での管理が必須です。

信託口口座の開設や、信託内借入に対応している金融機関はまだまだ限られていますが、家族信託の普及に伴い、年々増加傾向にあります。

家族信託を利用する場合は、お住まいのエリアでどの銀行・証券会社を利用するのと良いのか、家族信託の専門家にご相談ください。

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よくある質問
銀行も家族信託をやっているの?

主に銀行が扱っている信託は「商事信託」と呼ばれるものが一般的です。

商事信託は家族信託とは異なり、銀行が受託者となって財産を管理・運用するため一般に費用が高くなりがちです。

銀行の家族信託サービスについて詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶家族信託は銀行で出来る?対応している銀行一覧をまとめました

家族信託は銀行と司法書士どちらに相談すべき?

家族信託を最も多く取り扱っているのは司法書士になります。

ご相談の内容にもよりますが、銀行に相談に行っても司法書士を紹介されるなどすることも多いため、始めから司法書士など家族信託の専門家に相談することが良いと言えるでしょう。

専門家の選び方について詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶家族信託は銀行で出来る?対応している銀行一覧をまとめました