家族信託をするうえでの悩みどころの一つに、家族信託の開始時期があります。
「認知症対策と言っても自分はまだまだ元気だよ」
「今すぐに受託者に財産を移転するのもちょっとな・・」
そのように家族信託を躊躇される委託者の方もいらっしゃると思います。
こんなときには、家族信託の開始時期を、委託者が納得しやすい時期に設定するように検討をしてはいかがでしょうか。
今回は、家族信託の開始時期を調整する方法について解説していきます。
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目次
開始時期を遅らせる2つの条件
信託法によれば「委託者となるべき者と受託者のなるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる」と規定されています。
つまり信託契約をしたときに家族信託がスタートすることになりますが、信託契約には「停止条件」や「始期」をつけることもできます。
この場合には開始時期を契約時から遅らせることが可能です。
[1]停止条件とは?
「停止条件」という法律用語は、ある条件が成就するまで効力を停止しておくことを指します。
つまり、ある条件が成就すると、同時にその効力が発生するわけです。
例えば、「テストで100点を取ったらお菓子を買ってあげる」という場合、100点を取るまではお菓子を買うという効力が停止されていますが、100点を取ったらお菓子を買ってあげるという効力が発生します。
条件成就と共に効力が発生するのが「停止条件」です。
[2]始期とは?
契約における「始期」とは、将来、確実に到来する時期のことです。
例えば、「12月31日の到来」というように確定された時期もあれば、「次に雨が降ったとき」などの不確定な時期もあります。
雨がいつ降るか不確定ですが、いつかは必ず降ることが分かっている条件であるため、[1]停止条件とは異なり、必ず生じる事実に基づいています。
「停止条件」の場合は、成就しない可能性のある事柄も含みます。「テストで100点」は、ずっと取れない可能性も考えられるため、契約の「始期」の設定についても提案してみ手はいかがでしょうか。
家族信託では双方が合意すれば契約が成立するため、認知症の程度や一定の日付など、複数の条件を満たす時に信託を開始する、といった契約にすることも可能です。
条件に該当した場合は特定の日付を記載した書面をもって信託を開始する手続きにすると良いでしょう。
開始時期を遅らせる契約の注意点
家族信託の開始時期を遅らせたい場合は、上記のように停止条件や始期付きで信託契約をする方法が提案しやすい方法となるでしょう。
ただし以下で説明しますが、押さえておくべき注意点もあります。
信託契約を開始するためには、委託者の認知症等の状況によっては、やり直しのきかない状況に陥るケースも想定されます。
そのため注意点をしっかり押さえた上で開始時期の設定をご活用ください。
【1】「停止条件付き」家族信託
例えば「認知症になったら家族信託の効力を発生させる」という方法を選ぶ場合、「まだまだ元気だし…」と思っていて家族信託を躊躇している委託者さんも、手続きを進めやすくなる面があると思います。
この内容で契約した場合は、委託者が認知症になるまでは家族信託の効力は発生しないので、信託契約後も信託財産を受託者に移転させる手続きは必要なく、信託が開始してから手続きをすることになります。
ただし、「停止条件」が付く信託契約のため、その条件の付け方には注意が必要です。
【停止条件の客観性と明確性について】
例えば、「認知症になったら」という具体的な段階です。どのような症状になった時に「認知症になった」という条件に該当するのでしょうか。
初期の「軽度認知症」の状態でとどまることもあれば、他の症病により要介護状態になる可能性もあります。
契約の始まりを決めるには、客観的で明確な条件成就=効力の発生時期が必要です。
そのため、停止条件付き家族信託をする場合は、条件の客観性と明確性に注意して契約を設計しましょう。
この場合、例えば、
- 医師の診断書において「後見相当」であるとされたとき
- 要介護認定において「要介護5」と認定されたとき
などの具体的な条件にすれば、客観性も明確性も明らかになります。医療機関や介護事業所の書類が条件に該当したことを証明する書類にもなります。
このように停止条件付き家族信託をする場合は、上記のような客観的かつ明確な条件になるように注意しましょう。
【2】「始期付き」家族信託
契約において、例えば「始期(開始時期)を2031年の1月1日」とした場合には、その日が来たら効力が発生します。
始期の定め方も、「確定期日(2031年1月1日など)」と「不確定期日(次、雨が降ったときなど)」があり、定め方によっては客観性・明確性の点で問題になる可能性もあります。
家族信託の開始時期を工夫するには
- 確定期日を定めたい場合には「始期付」で契約
- 症状などでスタートしたい場合には「停止条件付(条件の客観性・明確性に留意したうえで)」で契約
- 複数の条件に該当したらスタートする契約
など、複数の方法があります。委託者の意向を踏まえ、合理性と納得感の組み合わせで信託契約を組成してみましょう。
【3】もしもに備えて「任意後見契約」も
ただし、停止条件や始期を付して家族信託を決めたとしても、家族信託の効力が発生するときに本人が判断能力を急速に失う可能性もあります。
家族信託契約の効力が失われるわけではありませんが、信託財産に不動産がある場合には効力発生時に登記が必要ですし、金銭の場合でも預貯金口座を移し替えるなどの手続きが必要です。
委託者の意思が失われた場合は手続きが止まってしまいます。
(1)信託登記が必要な場合
登記をする際には、通常、司法書士が関与し、司法書士は依頼者の本人確認を行います。そのときに本人の意思が確認できなければ司法書士は登記をすることができません。
登記は司法書士に頼まずに行うこともできますが、いずれにしろ登記申請行為には意思能力が求められますので、手続きはできない、ということになります。
(2)預貯金の信託移管をする場合
信託財産に金銭がある場合も同様です。信託契約書に基づいて預金を信託口座に移す場合に、本人の意思が確認できなければ銀行側も対応が出来なくなります。
(3)もしもに備えて「任意後見契約」
実際の信託開始時点でのトラブルを避けるため、もしもに備えて家族信託契約と一緒に「任意後見契約」を結んでおくことをおすすめします。
任意後見契約をあらかじめ締結し、任意後見人が登記や銀行の手続きを代理できるようにしておけば、家族信託の効力発生時に本人が判断能力を失っていても、任意後見人(家族信託の受託者と同じ人がベストです)が、登記や金銭の信託口座への移し替えなどの手続きも行えるようになります。
任意後見制度についてはこちらの記事『任意後見制度とは?』にて解説しています。
(4)開始時点での意思能力を想定し条件を緩める
上記のように「任意後見契約」をして備える方法もありますが、ここまでの内容を委託者に理解してもらい、そのうえで開始条件を緩める方向で検討しておくことも重要でしょう。
例えば「要介護度」についても、重度の「5」相当などに至る前、軽度の「1」や「2」の段階で開始する条件も検討してみましょう。
要介護度については、意思能力の面だけでなく、身体機能の不自由さの面でも判定が行われます。
将来、身体・意思能力どちらを起因として日常生活を送ることが難しくなるかは分からないのです。また、進行性の認知症の場合、想定よりも急速に意思能力を失っていく可能性もあります。
もしもに備えて、早めに手を打てるように設計しておきましょう。
始期を遅らせる契約では注意点を踏まえて
以上のとおり、家族信託のスタート時期は「停止条件」や「始期」を付けることで遅らせることも可能です。
委託者の意向を尊重できるため役立つ方法だといえますが、停止条件や始期をつける場合には、条件などの付し方に注意しましょう。
効力発生時期に備えて、任意後見契約を結んだり、あえて条件を緩めることも検討しましょう。
このように、家族信託は早めに設計して実際の利用は少し先、という設定にすることが可能です。
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