今、注目を集めている言葉に、「遺贈寄付(いぞうきふ)」と呼ばれるものがあります。

遺贈寄付とは自分の財産を相続人以外の個人や団体へ寄付する仕組みを指し、相続税の節税目的でも用いられることがあります。

一般社団法人全国レガシーギフト協会の調査によれば、40代以上の男女のうち21%の人が、「相続財産の一部を寄付することに関心がある」と答えており、5人に1人が関心を寄せていることがうかがえます。

死後に寄付をする方法として遺言書が思い浮かびますが、家族信託を利用することも可能です。

家族信託は高齢期に向けた資産管理方法として非常に注目を集めている制度であり、この制度と遺贈寄付を兼用することが可能となります。

ただし、遺贈寄付には税法上の注意点もあるため、遺言書や家族信託での寄付方法や注意点について解説します。

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遺贈寄付とは

自身の相続発生時に寄付する遺贈寄付の寄付先としては、公益的な活動をしている団体(例:ユニセフ、日本財団、あしなが育英会など)や出身地の自治体、出身校、同窓会組織、医療機関、スポーツ団体・部活動関連などさまざまです。

人生を振り返って、自分がお世話になった所、自分を形成してくれた団体に恩返しをしたいという意識から選ばれているようです。

では、遺贈寄付をする方法について順に説明します。

【1】遺言書での遺贈寄付

遺言書を使って遺贈寄付をする場合は、寄付先を「受遺者(じゅいしゃ)」として指定する必要があります。受遺者は遺言書で財産の受取人として指定された人のことを指します。

同時に、遺贈寄付の手続きを行う「遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)」を決めておきましょう。

遺言執行者は遺産を管理したり、相続登記を行うことのできる立場の人物で、遺贈寄付についても指定の寄付先に寄付金を振り込む等の手続きを行うことができます。

遺贈寄付には「遺言執行者」が必要

この遺言執行者は任意の人物に依頼して指定することができますが、遺贈寄付先とのやり取りだけでなく、相続人への対応もあります。

不動産の売却をしてから遺贈寄付する場合には遺言執行者が売却手続きの上で財産の分配手続きを行います。

手続きの多さや、とくに相続人とのトラブルが発生した時の対策を想定すると、専門家に依頼する方法がおすすめです。

【2】家族信託での遺贈寄付

家族信託とは、自分の財産を家族に託す仕組みのことを言い、契約を締結した時点から利用開始できるという利点があります。

高齢になった方は、認知症などを理由にご自身で財産管理が難しくなるケースが多いため、超高齢社会の日本で、急速に注目を集めている仕組みです。

家族信託には財産管理という目的のほかに、財産の承継先の指定や、遺言書としての機能を持たせることができるのです。

家族信託では「受託者」が遺贈寄付を行う

家族信託を利用した際、ご本人が亡くなった後、財産を受け取る人のことを「帰属権利者(きぞくけんりしゃ)」といいます。

この帰属権利者に、寄付をしたい先の団体や法人を指定しておくことで遺贈寄付を行うことができます。

家族信託を利用した場合には、財産の管理や寄付先へ寄付をする手続きは、財産を預かっている「受託者」が行います。

不動産や有価証券等を換金して遺贈寄付する場合は売却手続きも必要ですので、専門家のサポートを受ける方法もお勧めです。

家族信託の組成サポートを依頼する専門家に、そのまま遺贈寄付のサポートも依頼するのがスムーズでしょう。

家族信託で遺贈寄付する場合の注意点

ここからは家族信託を用いて遺贈寄付を行う場合の注意点を解説します。相続人の遺留分や税金に関する注意点です。

税金の注意点は不動産等の現物を寄付する場合に限られますが、内容によって所得税がかかるケースもあるため、とくに注意が必要となります。

[1]遺留分の問題

相続に際しては、全財産を慈善団体に寄付したいと希望していても、相続人が1人でもいる場合は「遺留分(遺留分)」の請求を受ける可能性があります。

遺留分とは、法定相続人が一定割合で遺産を受け取る権利です。

  • 相続人が配偶者や子供である場合…財産の評価額の2分の1の額
  • 相続人が親などの直系尊属のみである場合…財産の評価額の3分の1の額
  • 相続人が兄弟姉妹のみの場合…遺留分なし

ここで算出された金額を各々の法定相続分で按分した額が各遺留分として請求できる額となります。

もし配偶者と子が相続人であれば、配偶者が相続財産の4分の1、子(全員で)4分の1、などのように定められています。

遺留分請求されたら現金での返却が必要

遺留分制度には次のようなルールもあります。

  • 遺留分が認められている相続人がその権利を主張しない場合は、財産の返還は不要
  • 遺留分の権利の主張があった場合には、受け取ったものが不動産等の現物であったとしても、お金で返さなければいけない

このため、相続人の遺留分を請求された場合、寄付を受けた側は現金で返さなければならないことになります。

また、不動産や有価証券などは価額の変動があるため、実際の相続の時点で寄付額が遺留分を侵害するような配分になるケースも起こり得ます。

資産の内容により、遺留分の請求が起こされる可能性もあることを充分検討しておきましょう。

[2]寄付する遺産は具体的に指定する

寄付額や寄付する物について、遺産分割のトラブルを防ぐため、寄付予定の遺産は具体的に指定して記載する必要があります。

「全体の何割」などの割合を指定する(包括遺贈)方法では相続人との協議が必要となるため、寄付予定の遺産は額や物などを具体的に指定(特定遺贈)しましょう。

信託組成の段階から相続トラブル対策を

家族信託は委託者・受託者という2者間で成立するため比較的利用しやすい制度です。

契約内容も家族内で自由に組み立てることができ、遺言の内容も含めることができるという自由度の高さがあります。

しかし親と子1名との合意で財産の管理を引き受ける(「受託者」になる)ことができるからこそ、他の兄弟や親族との間のトラブルに注意が必要です。

もし全財産の中から大きな額の寄付を考えている場合は、親族の同意が前提になります。

遺留分はあるものの、相続人にとっては最低限度の権利です。

信託契約の内容についての同意はもちろん、遺贈寄付について相続人(予定者)から同意を得ておくことが大切だといえます。

[3]現物寄付は「相続人が課税される」可能性も

不動産での遺贈寄付を検討する場合、課税関係での注意点があります。

遺言で不動産を慈善団体に寄付した場合、不動産の時価が購入時から値上がりしていればその値上がり分相当に、譲渡所得税が課税されます。

これは、現物のまま譲渡した場合に適用されますが、寄付でも無償(あるいは低価格)での譲渡とみなされます。

また、譲渡時には時価(売却額)で評価をされるため、古くから保有している不動産のほとんどは値上がりしていることから課税リスクが高くなります。

取得時より価値が上がった寄付物を現物のまま譲渡した場合は、値上がりした部分の譲渡があったもの(「みなし譲渡」)として課税されるのです。

課税されるのは「相続人」

さらに重要なのは、この譲渡所得税は、寄付を受け取る団体が負担するのではなく、贈る側が課税されるという点です。

不動産や株式等を遺贈するようなケースで、それらに含み益があって現物を寄付する場合、相続人が課税されます。

相続人の方から見ると、自分は財産を受け取れないのに、譲渡所得税だけ支払わなければいけないという何とも理不尽な状況になってしまうのです。

現物資産は変動があるため一概にベストな方法だとは言い切れませんが、こうしたトラブルを防ぐため、できるだけ売却し、その売却益から寄付金に充てる方法がよいといえるでしょう。

売却から遺贈寄付までの流れ

不動産などの現金以外の資産を遺贈寄付するには、自分の死後に財産の売却と遺贈寄付までの一連の流れを依頼することになります。

① 遺言書で売却と遺贈寄付を指示

遺言書により遺贈寄付を行う場合は、前述の通り「遺言執行者」を選任しておく方法があります。

遺言執行者には、遺言書に書いてある手続きを行う権限がありますので、遺贈寄付の対象となる財産を売却し、お金に換える手続きを行うことができます。

② 家族信託で売却と遺贈寄付を指示

家族信託を使って遺贈寄付をする場合は、財産を預かる「受託者」が相続時の手続きを行います。

受託者の権限については、各信託契約の内容で定めることができ、不動産等の非現金資産を売却する権限を付与することが可能です。

その際、信託契約書の受託者の権限についての条項に、「受託者が信託財産を売却する権限がある」旨を明記して契約することになります。

まとめ

このように、遺贈寄付には押さえておくべきポイントがあるものの、相続税対策になるケースもあり、また、遺言書や家族信託契約に追加で盛り込むことで実現が可能です。

寄付を予定している場合、寄付先にも寄付の条件等を事前に確認をしておきましょう。企業など統合や定款変更により変更が生じている場合もあります。

人生の最後に希望を叶える方法にもなりますので、遺贈寄付をご検討の際は相続や生前対策の専門家にぜひご相談ください。

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