家族信託は、高齢者の財産を家族で守る方法として非常に有用な制度です。
しかし、ご相談を頂く事例の中には、家族信託では問題が解決できないケースも存在します。
成年後見制度の解説とともに、成年後見制度の方が適しているケースとして、実際にあったご相談の中から事例を3つご紹介します。
(※ご相談内容を若干変更し仮名でご紹介します。)
【参考記事】
・成年後見制度とは?わかりやすく解説します
・家族・親族は成年後見人になれる?後見人の選び方
・成年後見制度の費用・後見人への毎月の報酬
・成年後見制度の手続きの流れや申立方法
・成年後見制度の5つのデメリットとは?
・家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します
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目次
成年後見制度について
成年後見制度には大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」という2つの制度があります。
任意後見制度とは、本人が認知症などを発症する前に、将来の意思能力の低下に備えてあらかじめ後見人になってもらう人を選んでおく制度です。後見人との契約をするため、本人の意思能力が必要です。
一方、法定後見制度とは、本人が認知症などを理由に財産の管理ができなくなり、支援が必要になった後に家庭裁判所に申し立てて後見人の手続きをする制度となります。
《後見制度の特徴》
- 資産は家庭裁判所による監督の下で運用される
- 一度開始すると、基本的に本人が亡くなるまで中断もできない
- 後見人報酬が長年にわたり続く
成年後見制度は認知症の症状が進行してからでも手続きできるという利点がありますが、いくつかデメリットともいえる特徴がある点に注意が必要です。
【事例1】台風で倒壊寸前!収益物件のオーナーが認知症に
事例の1つ目は、神奈川県にお住いの小森さん(55歳・男性)からのご相談です。
父親が認知症になってしまったので相談したい、というのが最初のお問い合わせでした。
父親が所有しているアパート(1棟)について、木造・築45年ということもあり、次の夏に台風が続いたら一部損壊の恐れがあると判明したようです。
アパートには現在でも入居者がいるため、物件を適切に管理・修繕しておく必要があります。
父親が重度の認知症を患ってしまったため、代わりに手続きができる家族は自分のみ。次の台風の時期までの間に、なんとしても応急処置を済ませておく必要がありました。
修理費用2000万円
修繕には、建築施工会社の見積もりによると約2000万円の費用が見込まれています。
父親の名義物件のため、まず修繕依頼は名義人が行う必要があり、また、不動産収入の修繕費として処理
するため、収入を管理している本人の預金から支出することになります。
もし本人が認知症を発症していても、預金を引き出す意思表示ができる状態であれば手続きも可能だったかもしれません。
しかし、本人の認知症はすでに重度にまで進行していたため、銀行の窓口での引き出しも非常に難しく、不動産の修理手続きも、修繕費用の支出も、止まった状態になっていたのです。
本人の意思能力の観点から手続き不能に
小森さんからのご依頼により、銀行の担当者とともに入所施設へ同行し、現在の症状について確認をさせていただきました。
各種手続きには本人の意思能力が必要です。
しかし、すでに各種手続きの難しい状態であることが分かり、本人名義の預金から修繕費用を引き出すことはできないと判明しました。
また、現状では、家族信託を契約することも難しく、息子さんに財産の管理権限を託す手続きもできないことになります。
預金を引き出す方法は「成年後見制度」のみ
今回の不動産の修理を契約して預金を引き出すには、成年後見制度が唯一の方法となります。また、今後の財産管理のためにも後見人の存在が必要です。
家庭裁判所の監督を受ける後見人が本人の資産を管理する制度ですが、手続きに時間が掛かること、後見人への報酬が必要であること、財産の利用にも制約がかかること、などの特徴があります。
しかし小森様には、成年後見制度を利用する以外の選択肢はありませんでした。
認知症が重症化してから方法を探しても、選択肢が成年後見制度に限られてしまうわけです。
【事例2】会ったことの無い親族の生活費を立て替え続けて5年で総額600万円に!
2爪の事例は、多摩市にお住いの加藤さん(35歳)からのご相談です。
加藤さんは一人っ子で、幼い時にお父様を亡くされているので、家族はお母様お一人でした。ご相談内容は、そのお母様が5年前に亡くなった時にさかのぼります。
入所している親族の生活費を管理していたことが判明
お母様には弟(健治さん)がいて、重度の知的障害を患っているため都内のグループホームで生活しているとのことでした。
健治さんは、障害年金と親から相続した預金で日々生活されていましたが、その預金の管理はすべて、加藤さんのお母様が担当されていました。
加藤様のお母様が亡くなってからしばらくして、健治さんが住んでいるグループホームから加藤様に連絡がありました。
入所先の保証人だった
話を聞いてみると、お母様が亡くなってから健治さんの生活費の支払いが滞っているので、滞納分も含めて支払ってほしいというお話。
実は、加藤さんは、この時初めて健治さんという親戚がいることを知ったのです。
しかもお母様は入所している健治さんの保証人になっていたので、その保証人の義務を相続している加藤さんは、法的にも、グループホームの利用料を支払う義務があるということになります。
加藤さんは、見ず知らずの親戚の生活費を立て替えなければいけない状態になってしまいました。
預金口座はどこに?
お母様が管理していた預金口座を探したのですが、どれだけ探しても、通帳もキャッシュカードも出てきません。
入所先の費用は、健治さんが受け取っている障害年金や、親から相続した資産を元に振り込まれているようです。
しかし、いろいろな銀行や関係先に問い合わせてみても、個人情報保護の関係で、健治さんの預金がどの銀行に預けられているのかはついに分からずじまいになってしまいました。
納得のできない立替え払い
それから最終的に5年間、加藤さんは自分の給料から健治さんの生活費を立て替える生活が始まったのです。その総額は600万円にも上りました。
加藤さんも生活がだんだん苦しくなってきてしまい、意を決して私にご相談を頂いた、という状況でした。
後見人なら預金口座も調査できる
私はすぐに、成年後見人の申立てをお勧めしました。
家庭裁判所に候補者を立てずに成年後見人の申立て手続きを行った場合、弁護士や司法書士、社会福祉士の方が後見人に選ばれます。
選ばれた後見人には本人の財産状況を調査する権限があるので、健治さんの預金がどこにあるのかを正式に調査することができるのです。
成年後見は、本人の財産・債務を管理する仕事も行いますので、本人の預金のありかを見つけた後は、今まで加藤さんが立て替えた分の生活費を清算する手続きも行ってくれます。
立て替えが不要となり、既払い分が戻ってきた
こうして、加藤さんは5年間で立て替えた生活費600万円を清算し、以後、支出の必要はなくなりました。
加藤さんのように、支援が必要なご本人(健治さん)の財産管理を第三者に任せたい場合にも、成年後見制度を利用するのが最も良い方法となります。
【事例3】自分が他界した後、重度障害の子のことが心配
山本さん(65歳・女性)からご相談を頂いたのは、重度の知的障害をお持ちのお子様(崇さん・35歳)の将来についてのお話でした。
山本さんは、ご相談の前年、ご主人を亡くされており、今は崇さんと二人で暮らしているとのこと。
今は崇さんの障害年金や、夫が遺してくれた遺族年金などの財産で生活ができているのですが、自分が他界した後、子どもの生活の支援を誰が行ってくれるのかという心配をされていました。
家族信託の前提条件
障害を持った方を支援する仕組みとして、家族信託が利用されることがありますが、家族信託を利用するには次の要件を満たす必要があります。
① 信託する財産
家族信託は財産を管理するための制度ですが、管理をしてもらいたい崇さんの障害年金はまだ預金口座に振り込まれていない「年金を受け取る権利」です。
この「年金受給権」は信託財産に含めることができないため、家族信託を行うのは適切とは言えないことになります。
② 信託する相手(受託者)
家族信託は、家族に財産を託す制度ですので、財産を託す(信託する)人物が必要です。
必ずしも家族である必要はなく、信頼できる友人などに受託者になってもらうことも可能ですが、少なくとも適任者の存在が前提となります。
山本さんのケースでは受託者に適した人物がいなかったため、信託財産の件とともに家族信託の前提をクリアできず、他の方法をご案内いたしました。
障害のある子を支える「成年後見制度」
そこで代替案となるのが、崇さんの成年後見人の選任の申立てです。
成年後見人は、精神上の障害によってご自身で財産管理などができない方の支援をするための制度ですので、今回の支援にも利用することができます。
崇さんに対して成年後見人を申し立てれば、以後、崇さんの財産管理を成年後見人が行うこととなります。
成年後見制度の方が適している理由
現状としては、とくに問題なく山本さんが管理できていますが、仮に対策をしないまま山本さんが亡くなってしまった場合、支援の引き継ぎはどうなるのでしょうか。
山本さんが行っていた支援をスムーズに引き継ぐ準備をしておく必要があります。
そのため、崇さんの成年後見人の選任を申し立てておくことは、非常に重要な備えとなるのです。
将来に備えて支援の引継ぎと「身上監護」の機能が必須
成年後見人の手続きを行うメリットとして、家族信託の受託者にはできない行為でも、成年後見人なら可能となる点があります。
将来、崇さんの持つ財産が不足してしまったような場合には、生活保護の申請手続きを成年後見人が行うこともできます。
また、今回の事例のように本人を支える家族がいない場合、「身上監護」ができる人物も必要です。
家族や後見人以外の人は、「身上監護」を行うことはできません。
例えば家族信託の「受託者(家族以外の人でも就任できる)」は財産管理はできるものの、「身上監護」行為はできないのです。
そのため今回のケースでは、将来の継続的な支援を想定すると、成年後見制度の利用が適していることになります。
まとめ
このように財産管理の悩みによっては成年後見人制度の方が適している場合があります。
- 本人の意思能力が低下している場合
- 支援が必要な方の財産管理や身上監護を含めて第三者に任せたい場合
- 託す財産や、安心して依頼できる人物(受託者)がいない場合
家族信託では実現できない部分も可能とする成年後見制度のメリットが活かせる見込みです。また、家族信託と成年後見人の「任意後見」を併用する方法もあります。
どのような選択をすると良いのか、また、どのように制度を組み合わせると良いのか、家族信託や相続についてはぜひ専門家にご相談ください。
早めに対策をすることでより安心度の高い構成にすることも可能となります。
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