成年後見人は、自らが後見をしている本人から報酬を得ることができます。
後見人の報酬は後見人が専門家であると親族であるとを問わず発生しますが、報酬を請求するかは後見人の自由です。
後見人による報酬の請求は1年に1回、家庭裁判所に後見業務に関する報告をする際に同時に行われます。
後見人の報酬額は、家庭裁判所が決定し、後見人が自らその金額を決めることはできません。
その金額は、相場的にどのくらいなのでしょうか。今回は、後見人の報酬について解説します。
成年後見制度とは?については以下の記事でも詳しく解説しています。
【参考記事】
・成年後見制度とは?わかりやすく解説します
・家族・親族は成年後見人になれる?後見人の選び方
・成年後見制度の費用・後見人への毎月の報酬
・成年後見制度の手続きの流れや申立方法
・成年後見制度の5つのデメリットとは?
・家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します
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目次
成年後見制度とは
成年後見制度とは、「法定後見人」「任意後見人」など、成年者の法定代理人として後見業務を行う人を選定して利用する制度です。
多くが認知症や精神疾患などの高齢者のサポートであり、親族や支援施設などからの申し立てで審査が行われます。
家庭裁判所により、法定後見なら「法定後見人」、任意後見は「任意後見人」が選定され、必要に応じて追加で「後見監督人」や「任意後見監督人」が選定されることになります。
後見人には第三者が入る事例が多い
注意点として、本人の親族が後見人になることを希望した場合でも、第三者の専門家等が後見人に選定される可能性がある、という点です。
また、任意後見では、本人の希望に応じて契約(公正証書による契約)をした人物が任意後見人に就きますが、実際に法定代理人として活動するには、家庭裁判所からの「任意後見監督人」が選定された後に限られるという制約があります。
つまり、成年後見制度では、家族以外の第三者が後見に関わることが多く、第三者には規定の報酬を支払わなくてはならないという義務が生じるのです。
成年後見人の報酬の種類
このように、成年後見制度には「法定後見人」と「任意後見人」があり、各後見人の報酬は【基本報酬】と【付加報酬】に分かれています。
基本報酬は後見人が就任している期間、ずっと発生する報酬です。
この額は管理する資産の額に応じて、毎年一定額が家庭裁判所に認められ、その後、支払われることになります。
預貯金と不動産がある場合は、預貯金残高と固定資産税評価額など、その合計額に応じて算出されます。
仮に、入出金などの業務が発生しない時期があったとしても、基本報酬は資産管理のために必須の報酬です。
付加報酬については、後見業務が特別困難な場合や、一定の法律行為等を行った場合などに基本報酬に加算計上される報酬です。
不動産など大きな資産の売買や、裁判行為などが含まれ、活動実績に応じてこれらの報酬を支払う必要があります。
成年後見人報酬の相場
後見人の報酬の相場は下記の通りです。「法定後見人」と「任意後見人」は、管理する資産の額によって以下のような報酬が定められています。
<基本報酬>
- 後見を受ける本人の財産が1000万円以下の場合:月額2万円程度
- 後見を受ける本人の財産が1000万円を越え、5000万円以下の場合:月額3~4万円程度
- 後見を受ける本人の財産が5000万円を越える場合:月額5~6万円程度
<付加報酬>
成年後見人の事務について、特別な行為をした場合には以下の要領で付加報酬が認められます。
① 身上監護等に特別困難な事情があった場合
上基本報酬額の50%の範囲内で、相当額の報酬(家庭裁判所が判断)
② 訴訟の提起
被後見人への不法行為による被害を原因とする1000万円の損害賠償請求を訴訟し、勝訴判決を得た(=当該行為における管理財産額が1000万円増加)場合……80万円~150万円(8%~15%)
③ 遺産分割調停
遺産分割調停を行い、総額約4000万円の遺産のうち、半分の遺産を取得した場合……55万円~100万円(1.375%~2.5%)
④ 不動産の売却
後見を受けている本人の療養看護費用を捻出する目的で、家庭裁判所の許可を経て居住用不動産を3000万円で任意売却した場合……40万円~70万円(1.33%~2.33%)
後見監督人の報酬
後見人報酬として、後見監督人への報酬も追加される可能性があります。
まず、任意後見制度を利用する際には「後見監督人」の選任が必須であり、また、法定後見制度の場合でも「後見監督人」が選定されることがあります。
そのため各後見人の報酬に加えて、後見監督人に対する報酬も発生することになるのです。
後見監督人の報酬の相場は以下の通りです。
- 後見を受ける本人の財産が5000万円以下の場合:月額1万~2万円
- 後見を受ける本人の財産が5000万円を超える場合:月額2.5万~3万円
各後見人の基本報酬より抑えられてはいますが、追加で支払うため、基本報酬だけでも、年間で数十万円の支払いが見込まれます。
後見人が複数いる場合
成年後見人が複数選定されている場合には、成年後見人に対する報酬は各成年後見人の業務量に応じて按分されます。
複数人いても、報酬の合計金額は変わらない、ということになります。
後見人・後見監督人の報酬は資産からの差し引き
成年後見人への報酬の支払い方法については、成年後見自らが被後見人の財産から報酬相当の金銭を引き出して自分のもとのする形で行われます。
親族の手を経ず、後見人が管理する資産からの差し引きです。
後見人の報酬の原資は被後見人の財産であり、親族にとっては、立替え払いが必要になるわけではありませんが、原則、後見人は被後見人の親族に対しても被後見人の財産状況について開示しません。
そのため後見人報酬の引き出し額が分かるのは、被後見人(資産保有者本人)の死亡等で後見が終了し、親族が相続をしたタイミングになる見込みです。
後見人報酬はいつまで払う?
後見制度はその要因が無くなれば終了できる制度ではあるものの、実際には認知症の症状が後見不要となるまで回復するケースは難しいといえます。
そのため、高齢者の認知症などを原因として申し立てをした場合、基本的にその方が亡くなるまで後見制度は継続することになります。
つまり、後見制度は一時的な利用はできず、後見人への報酬は本人の生涯を通して支払うことになるのです。
後見人報酬はトータルでいくら必要?
後見人報酬はトータルでどのくらい必要になるのでしょうか。
認知症が進行した高齢期の方の「余命」を参考にすると、通常5年〜10年と言われています。
ここで仮に5年間、成年後見制度を利用したと想定して報酬を計算してみましょう。基本報酬と付加報酬の加算になります。
預貯金1000万円の方で、後見期間中に特段、付加報酬が発生しなかった場合
月額2万円×5年(×12ヵ月)=120万円
預貯金1000万円の方で、後見期間中に自宅不動産を2000万円で売却した場合
月額2万円×5年(×12ヵ月)+40万円=160万円
預貯金5000万円の方で、後見期間中に特段、付加報酬が発生しなかった場合
月額6万円×5年(×12ヵ月)=360万円
預貯金5000万円の方で、後見期間中に不動産を5000万円で売却した場合
月額6万円×5年(×12ヵ月)+100万円=460万円
これらの額だけでもかなり大きな額になります。加えて、各「後見監督人」の報酬も発生する点に注意が必要です。
成年後見制度の申し立てを専門家に依頼した場合
成年後見の申立て手続きについては、司法書士や弁護士に依頼することもできます。
その場合の費用は15万円〜30万円程度の見込みですが、緊急での申し立てには専門家を利用すると早いケースもあります。
後見制度は改善される?
このように、認知症を原因とする成年後見は、申し立てにも費用や時間が掛かり、一度、利用を開始すると本人が亡くなるまで止めることができないという特徴があります。
その間、後見人への報酬は継続して発生します。
認知症が想定よりも早く進行してしまった場合など、やむを得ず申し立てを要するケースもあると思いますが、全体的なコストは数百万円単位に上る可能性があるようです。
成年後見制度は認知症対策の最終手段という制度ですが、その費用面等の特徴について知っておく必要があるといえるでしょう。
また、成年後見制度については今後、制度が改正されたとしても、施行はまだまだ先になります。
そのため現状としては、家族信託など、今、利用できる制度を活用して自身の資産対策を取ることになります。
まとめ
以上、成年後見人の報酬相場について解説をしてきました。予期しない事態に対応せざるを得ない時、成年後見制度は最後の砦になっています。
ただし後見人制度については、そのコストなども含めて特徴を知っておきましょう。
やむを得ず成年後見制度を利用する一番の理由は「預貯金の管理」です。
もし、資産保有者本人に意思能力や契約能力がある段階で対策をすることができれば、「家族信託」などの家族内契約で資産管理を引き継ぐことも可能です。
資産対策には複数の制度があり、なかでも家族信託については内容を工夫することで希望を取り入れながら組み立てることもできます。
高齢期になった場合は、とくに資産管理について事前にしっかりとした対策の検討をお勧めしたいと思います。できるだけ早期に家族で検討しておきましょう。
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