信託契約書の作成方法は主に2つです。
- 私文書 :公的な立場でない一般の私人が作成する文書のこと
- 公正証書 :法律の専門家である公証人が作成する公文書のこと
家族信託は、家族内で契約を行う信託契約であるため、信託法のルールに沿って作成します。
信託契約書を公正証書で作成する義務はなく(自己信託を除く)、法的には公正証書で作成しなくても問題はありません。
しかしながら、家族信託において公正証書で信託契約書を作成した方が有効な点が多く、一般的には私文書ではなく公正証書での作成が推奨されています。
この記事では、家族信託の信託契約において、公正証書の作成が有効な理由とメリット・デメリットを解説していきます。
要約
- 家族信託を行う時は、私文書よりも公文書である公正証書の方が安心
- 法的には私文書でも問題ないが、税務上のリスク等が生じる可能性がある
- 信託口口座を作成する際、金融機関で公正証書の提示が必要
- 公正証書の作成を専門家に依頼することで、家庭状況に応じた適切なプランニングをしてもらえる
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目次
家族信託に公正証書の作成は有効
家族信託を公正証書で作成することは有効です。
家族信託は、お亡くなりになったあとの不動産や金銭を家族に託す財産管理方法の一つです。
家族信託の契約内容を公正証書として残しておくことで、信託口口座が作りやすくなったり相続時のトラブルを回避できたりするメリットがあります。
公正証書は「公証人」という法律の専門家のもとで作成されるため、証明力をもった信頼度の高い契約書となります。
しかし家族信託は、家族間で合意のもとに取り交わしていることが明らかであれば、契約書の形式は必ずしも公正証書である必要はありません。
ただ、金融機関で信託口口座を作成する際や、信託財産を動かすときなどに、公正証書の提示を求められることがあり、家族信託の契約を私文書で作成したとしても、後に公正証書が必要になる場面は多々あります。
後から公正証書にしようとしても、公証役場では当事者の意思確認が行われるため、年数が経った時に、契約時点と同じ程度の意思能力が維持されているかどうか分かりません。
家族間の信託契約だからといって、私文書で作成したあとに後悔する可能性もあるため、できるだけ早い段階で公正証書を作成することが重要です。
私文書で作成した場合のリスクや、公正証書を作成する際のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
家族信託の契約書を私文書で作成した場合のリスク
家族信託の契約書では、私文書での作成も可能ではあるもののリスクが高いです。
例えば自分で私文書にて契約書を作成した場合、気付かないうちに税務上のリスク等が生じてしまう可能性もあります。
家族信託は「家族ごとのオーダーメイド」と言われ、ご家族によって検討事項や注意点が異なります。
委託者の資産状況や税務上の課題・10年単位で想定されるリスク・相続の時点で想定される問題点など、気を付けて作成すべき部分は多種多様です。
ネット等で家族信託契約書のひな形やサンプルも公開されていますが、実際はサンプルをそのままテンプレートとして契約書に使用できるケースはほとんどないというのが実状です。
とくに税務の問題は、一般の方にとって複雑な部分も多々あるかと思います。
信託契約書を私文書にする場合は、専門家に依頼し、内容に間違いがないよう作成しましょう。
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家族信託を公正証書で作成するメリット
家族信託を私文書で作成するリスクを理解したあとは、公正証書で作成した場合のメリットをご紹介します。
- 信託口口座の開設ができる
- 契約書を紛失しても再発行ができる
- 相続に関するトラブル防止につながる
公的な効力が発生する公正証書を作成しておくことで、信託管理に必要な口座の開設やトラブル防止が可能です。
それぞれ詳しく解説していきます。
信託口口座の開設ができる
信託口口座とは、家族信託で預けたお金を管理・運用するための口座のことです。
ほとんどの金融機関では、信託口口座を開設する際、信託契約書を公正証書とすることを条件に設けています。
信託口口座では「委託者○○ 受託者△△ 信託口」など、委託者と受託者の連名で記載され、信託口座だと見てすぐわかるようになっています。
信託口口座を開設することで、受託者(財産を管理する者)の財産と、信託口口座内にある財産を完全に分けて管理することが可能です。
また信託口口座は、受託者が委託者よりも先にお亡くなりになっても、受託者の相続資産とはなりません。
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信託財産を担保に借入を行う場合には必須となることが多いことから、公正証書での作成をおすすめします。
契約書を紛失しても再発行ができる
公正証書を作成した際、正本は契約した当事者に渡され、公正証書の原本は公正役場(公証人等がその事務を執り行う機関)にて厳重に保管されます。
このため、万が一正本を紛失しても、原本を保管している公正役場に伝えれば再発行が可能です。
家族信託は、数年〜長期間に渡って財産管理を行う制度です。
その設計によっては、何世代にもわたり資産の承継先を定める「数次相続における遺言機能」を持ちます。
長期間の保存が必要な信託契約書を私文書で作成し、万が一紛失した場合、信託契約に基づく資産承継の実現ができなくなる可能性があります。
このような点からも、公正役場の保管が可能な公正証書による信託契約書の作成が有効だといえます。
契約の有効性を主張できる
将来、家族信託をめぐり親族間で抗争が発生した際に、第三者のもとで作成された公正証書であれば、契約の有効性を主張でき、相続トラブル防止につながります。
当事者同士の意思を法律の専門家である公証人が確認をしたうえで作成する公正証書は、 「委託者の意思にもとづいて信託契約が結ばれた」 という証拠となりえるのです。
また、委託者の判断能力が低下したあとでも、契約時点で本人の意思に基づいて交わされた公正証書であれば、効力を持った信託契約として認められます。
しかし、私文書での信託契約の場合、第三者を交えずに家族間で行われるため、契約時点において委託者の意思があったのか証明できず、のちに訴訟や相続争いの原因になる可能性があるでしょう。
家族信託を公正証書で作成するデメリット
家族信託を公正証書で作成するデメリットは以下の2点です。
- 作成に費用がかかる
- 契約までの手間と時間がかかる
公正証書で作成する際のデメリットを理解し、家族信託の検討をしてください。
作成に費用がかかる
公正証書は、一般的な役場ではない「公証役場」で公文書の作成をするため、費用が発生するデメリットがあります。
信託財産の評価額によって、公正証書の作成費用は異なります。
例えば、信託財産の評価額が5,000万円の場合、公正証書の作成費用は3〜5万円程度です。
私文書で作成すると費用はかかりませんが、自力で作成するには法律や税務の知識を身に着けなければならず、一般の方にとっては負担が大きいでしょう。
公正証書作成に必要な詳しい費用については後述しますので、ぜひそちらもご覧ください。
契約までに時間と手間がかかる
公正証書の作成には、公証人との面談や、公正証書を作成のために公正役場に出向く必要があります。
公正役場へ行く前には予約が必要であり、作成したいタイミングですぐに取り掛かれるとは限りません。
公正役場の混雑状況にもよりますが、公正証書作成から完成までに1カ月ほどかかる場合もあります。
当事者たちだけで自由に作成できる私文書と比較すると公正証書の作成には手間と時間がかかるといえます。
事前に行う公証人との面談については、専門家に依頼すると代行してもらえることも可能です。
その際に、専門家への報酬はかかるため、よく検討する必要があります。
公正証書の作成が必要なケース

一般的にも公正証書の作成が推奨されていますが、金融機関が関連する場合や、ご兄弟が多いご家族であれば、とくに公正証書の作成の必要性が高まります。
不動産や株式を信託する場合
例えば信託財産に不動産がある場合など、金融機関とのやり取りが想定されているケースでは公正証書での信託契約書が求められるケースが多いです。
公証人を通して作成された公正証書は信用力が高い公文書として認められており、金融機関が関連してくる場合は、金融機関から公正証書で信託契約書を作成することを義務づけられるケースがほとんどです。
具体的には、不動産に抵当権等の担保が設定されている場合や、受託者が信託不動産を担保に借入を行う予定がある場合などが該当します。
これは株式を信託する場合の証券会社の対応も同様で、公正証書で作成した契約書でないと金融機関の規定上、手続きは行えないことが多いです。
信託財産に不動産や株式があるケースでの信託契約では、公正証書での契約書の作成が安心です。
家族信託と成年後見の違いは?どちらを使うべき?
高齢者の財産を本人以外が管理するには、家族信託と成年後見制度があります。家族信託と成年後見制度は特徴が異なるため違いについてしっかり理解することが重要です。家族信託と成年後見制度の違いや、どちらを使うべきか?について解説します。
推定相続人が複数名いる場合
公正証書の作成が必要なケースとして、推定相続人が複数名いる場合があげられます。
例えば父を委託者、長男を受託者、父の死亡後に受益権は長男に承継される信託契約で、他の推定相続人(次男、三男など)が存在するケースを考えましょう。
このケースで、信託契約書を私文書で作成した場合、信託契約に納得をしていない推定相続人の兄弟から、「信託契約は無効」「当時、既に認知症になっていて、契約ができる程の意思能力はなかったはずだ」という主張をされたときに、信託契約の有効性(契約時点で意思能力を有していたこと)の証明が難しくなり、契約が無効になってしまう可能性が考えられます。
このような状況に備えて、公正証書で信託契約書を作成しておくと安心です。
公正証書であれば、公証人という第三者が、委託者の本人確認・意思確認をするため、契約当時も父が意思能力を有していたという客観的な証拠になり、相続トラブルにも対処できます。
自身で公正役場に依頼する場合の流れ
公正役場に自身で出向き、公正証書作成を依頼する流れは以下のとおりです。
- 家族で契約内容を決める
- 最寄りの公正役場で面談の予約をする
- 公正役場で公証人と面談
- 必要書類を提出する
- 公正証書の作成をする
- 公正証書の正本・謄本を受け取る
公正役場に提出する必要書類も紹介します。 これから家族信託で公正証書の作成を検討している方はぜひ参考にしてください。
1.家族で契約内容を決める
公正証書での作成を決めたら、家族信託で設定したい内容や希望、財産状況などを踏まえて家族で契約内容を固めていきましょう。
信託契約には、以下のような内容を含めます。
項目 | 解説 | 雛形上で該当する条文等 |
---|---|---|
契約の趣旨 | この契約書で締結する契約が、信託契約であるということを明らかにするためのものです。 | 第1条 |
信託の目的 | どういうことを目指して信託契約を締結するのかという、信託をする目的を指します。 | 第2条 |
委託者 | 財産を預ける人(現在の財産の所有者)のことです。 | 冒頭 |
受託者 | 財産を預かって管理する人のことです。 | 冒頭、第5条 |
受益者 | 信託した財産(「信託財産」といいます。)から経済的な利益(「受益権」といいます。)を受ける人のことです。 | 第6条 |
信託財産 | 信託契約によって預ける財産(不動産や預貯金や株式など)のことです。 | 第3条 |
契約書に記載する内容はご家族のケースに応じて異なりますが、この表にある項目は家族信託において外せない項目ですので、必ず記載するようにしてください。
2.最寄りの公正役場で面談の予約をする
契約内容が決まったあとは、最寄りの公証役場を探し、電話などで初回の面談日時を予約しましょう。
なお、公証役場は全国の市区町村にあるわけではないので、ご注意ください。
公証人からは、事前に内容を確認するために資料や契約書案の提出を求められます。
面談時には、家族で決めた信託契約内容を示す資料を面談前に準備しておくと良いでしょう。
3.公正役場で公証人と面談する
まずは面談予約をした日時に、公証役場へ行きましょう。
公証人に契約内容を伝え、問題がないかなどの確認・面談を行います。
公証人との面談後、別日に公正証書作成を行います。
公正証書作成のための日時を再度公正役場に予約しましょう。
4.必要書類を提出する
公証役場で公正証書を依頼するときに必要な書類は以下のとおりです。
- 本人確認書類
- 印鑑
- 信託する不動産の登記事項証明書
- 信託する不動産の固定資産税評価証明書
以下の有効な本人確認書類いずれかを持参してください。
- 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)と実印
- 運転免許証と認印
- マイナンバーカードと認印
- 住民基本台帳カード(顔写真付き)と認印
- パスポート・身体障害者手帳又は在留カードと認印
5.公正証書の作成をする
予約をした日時に、公証役場へ行き公正証書を作成しましょう。
公証役場では、公証人が証人の前で本人確認を行い、公正証書の原案を読み上げます。
内容に問題がなければ、本人たちが公正証書の原案に署名・押印をし、続いて公証人も署名・押印をします。
最後に公正証書の作成費用を支払い、手続きは終了です。
なお、公正証書の作成までには2週間程度かかることもあります。
6.公正証書の正本・謄本を受け取る
作成された公正証書の原本は公証役場に保管され、本人たちは正本や謄本を受け取ります。
これで、公正証書の作成手続きはすべて完了です。
自身で公正証書を作成する際のメリットと注意点

自身で公正証書を作成する場合のメリットとしては、専門家に依頼する場合にかかる費用が発生しない点があげられます。
公証人との面談の際、公証人から信託契約の内容についてアドバイスやサポートは受けられないため、注意してください。
契約書を作成するときは、家族信託の内容を家族間でしっかりと話し合い、適切にプランニングしましょう。
専門家に公正証書の作成を依頼する場合
専門家に公正証書の作成を依頼する場合の流れは以下のとおりです。
- 契約内容を専門家と話し合う
- 専門家が公証人と面談を行う
- 公正証書の草案を確認する
- 専門家とともに公正証書を作成する
- 公正証書の正本・謄本を受け取る
専門家への依頼により、信託プランの作成や公証人との事前相談などの負担を軽減することができます。
「公正証書を家族だけで作成するには不安がある」という方は、参考にしてください。
1.契約内容を専門家と話し合う
まずは相談する専門家を探し相談しましょう。
専門家を探す際は、家族信託の経験が豊富で、精通している人かどうか確認することが重要です。
初回の相談料は無料の場合が多いので、いくつかの事務所を比較して決めるのも良いでしょう。
相談時には、家族信託で設定したい内容や財産状況などを専門家に共有し、適切な信託プランを提案してもらうようにしましょう。
2.専門家が公証人と面談を行う
納得のいく信託内容がまとまれば、専門家から公証人へ資料の共有や、面談を行います。
その際、本人たちは公証役場へ行く必要はありません。
3.公正証書の草案を確認する
専門家が作成し、公証人も確認をした公正証書の草案をご家族で確認します。
変更点や問題点、気になることや不明点は遠慮せずに確認し、クリアにしておくと安心でしょう。
4.専門家とともに公正証書を作成する
公正証書の草案に問題がなければ、公正証書の作成日を決め、専門家が公正役場に予約をします。
予約した日時に専門家と共に公証役場へ行きます。
公証役場では、公証人が証人の前で本人確認を行い、公正証書の原案を読み上げます。
内容に問題がなければ、本人たちが公正証書の原案に署名・押印をし、続いて公証人も署名・押印をします。
最後に専門家へ公正証書の作成費用を支払い、手続きは終了です。
5.公正証書の正本・謄本を受け取る
作成された公正証書の原本は公証役場に保管され、本人たちは正本や謄本を受け取ります。
これで、公正証書の作成手続きはすべて完了です。
専門家に依頼する場合のメリットと注意店

専門家に依頼することで、難しい信託契約の内容も、法律の専門家の立場から適切な提案やアドバイスをもらえます。
また、公証人との面談も専門家が代行するため、手間と時間の負担を軽減できるしょう。
ただし、専門家へ依頼する前に、専門家を探す手間があったり依頼料が発生したりする点には注意してください。
家族信託の公正証書作成でかかる費用
公正証書の作成にかかる費用は以下の通りです。
信託財産の評価額 | 費用 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4.3万円+超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9.5万円+超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24.9万円+超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
参考: 日本公証人連合会
その他、謄本費用や出張を依頼する場合は出張日当等の加算項目により手数料が増額します。
家族信託の公正証書作成でお困りなら専門家へ相談を
今回は信託契約書を公正証書で作成する有効性や、詳しい流れと費用について解説しました。
家族信託における契約書は、公正証書で作成しなければならないという決まりはなく、私文書で作成したとしても問題はありません。
しかし関連する様々な手続きを進めるうえで、 公正証書の提示を求められる 場合があるので注意が必要です。
また契約の無効や、予期せぬ課税を受けることを避けるため、私文書で信託契約書を作成できる場合であっても、できるだけ 専門家に信託契約書の作成を依頼した方が良い でしょう。
家族信託を行う上での詳しい流れや費用面については、こちらの記事でもご紹介していますのでぜひ参考にしてみてください。
家族信託の手続きで後悔しないためには|流れや費用、注意点などを解説
家族信託の手続きは、家族会議→家族信託契約書の作成→信託口口座開設など信託の準備、という流れで進めていきます。本記事では、家族会議から信託開始までの全体の流れと、信託財産ごとに必要な詳細の手続きについてわかりやすく解説していきます。