認知症によって意思能力が低下するとできなくなる事の代表例として「不動産の売却」が挙げられます。

ゆくゆくは自宅を処分したい、相続対策で不動産の売買をしたい、などと想定している人もいることでしょう。

しかし、資産の売却には所有者である本人の意思能力が必要であり、身内が代理をしようとしても代理人だけですべての不動産の手続きを完了させることはできないのです。

その理由は、不動産取引の手続き にあります。

この記事では、認知症になったらなぜ不動産の売買(売却)はできなくなるのか、またその対策方法はあるのか、などについて詳しく解説していきます。

要約

  • 「代理人」は不動産売買の契約や事務手続きはできるが売却するには本人の「意思確認」が不可欠
  • 認知症で本人の「意思能力」の確認ができなければ「代理人」が不動産を売却することはできない
  • 成年後見制度を利用することで売却は可能だが、費用や手間などデメリットが多い
  • 家族信託では受託者に不動産を売却する権限を与えた場合、売却をすることができる
  • 「意思能力」に不安がある場合には家族信託を活用しましょう

認知症対策をお考えの方へ

専門家のイメージ

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認知症の親は不動産の売買をすることができない

親が認知症になってしまうと、基本的には不動産の売買をすることができません。

認知症が進行していくことによって、親の「意思能力」が損なわれてしまうからです。

不動産の売買契約が無効か有効かは、親に「意思能力」があるか、ないか によって決まります。

「意思能力」とは、民法で定められている法律用語で「自分の行為によってどのような法律的結果が生じるかを判断することができる能力」をさします。

例えば、認知症などによって「意思能力」がない人が不動産の売買契約を結んだ場合、不動産の売買契約は無効になり、不動産の売却はできなくなります。

ただし、認知症には進行具合や症状が様々あります。

認知症が疑われる場合でも「意思能力」があると判断される場合は、通常のように不動産を売却できるケースもあります。

民法第3条2項には以下のように明記されています。

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

このことから、裁判所は個々の意思能力の有無を総合的に判断する必要があります。

裁判所が意思能力の有無を判断するための項目は、主に以下の通りです。

  • 本人の年齢
  • 認知症の程度
  • 契約における動機や背景
  • 内容の重要性や難易度
  • 法律的結果を認識できるかどうか

医学上で「認知症」と診断されていたとしても、裁判所でも「認知症である」という判断がなされるとは限らないのです。

所有者の「代理人」として家族でも不動産売買を行えるのか?

本人の意思能力に問題がない場合に限り家族などが「所有者の代理人」として不動産売買を行うことができます。

例えば、意思能力は問題がないが、本人が入院中などの理由で、所有者本人による不動産売買の手続きが困難な場合もあるでしょう。

その場合は、委任状を作成することで本人の代わりに不動産売買の契約をすることが可能です。

これに対し、認知症により本人の意思能力が低下している場合は、委任状を作成しても代理人が本人の代わりに不動産売買の契約をすることはできません。

「意思能力がない」とされる人の委任状は、たとえ代理人が家族や親族であっても法的に有効な委任状として認められないからです。

代理人を立てるには 「この人を代理人に任命します」と示す意思能力があると判断できる状態であることが重要です。

「親と同居しているから」といった理由も認められないため、注意が必要です。

所有者の「代理人」として不動産売買を行えるケース

不動産売買の取引において代理が可能な手続きの例

では、不動産売買の取引において家族が代理人になった場合、本人に代わってどのような手続きをすることができるのでしょうか。

どの範囲まで代理権を与えるかは本人の判断となりますが「一部の例外を除いて」、不動産取引にかかる全ての手続きを行うことが可能となります。

代理が可能な手続き

売買契約の段階:売買契約
決済(引渡し)の段階:不動産の引渡し、売買代金の受領、領収書の発行など

この「一部の例外」とは、決済(引渡し)の段階で司法書士が行う所有者本人への「本人確認・意思確認」です。

この「一部の例外 」がとても重要なポイントとなるのです。

所有者本人への「本人確認・意思確認」については、後の章で詳しく解説をします。

親が認知症になると発生する不動産売買に関するトラブル

この章では、親が認知症になると親族間を中心として発生するケースが多い「不動産売買に関するトラブル」について2つ紹介致します。

介護費用を確保するために認知症の親の不動産を勝手に売却してしまう

介護施設への入居費用や介護費用を確保するためであっても、親名義の不動産を子が勝手に売却してしまうことはできません。

不動産を売却することができるのは所有権がある親だけですので、親以外の人が勝手に売却をしてしまうと、大きなトラブルとなります。

やむを得ず親の不動産を売却しないといけない場合には、遺産を相続する予定の親族としっかりと話し合い、許可を得た上で、成年後見制度などの法的な手続きを経て売却を行う必要があります。

また、その場合には、売却で得たお金の使い道がわかるように、資料や領収書などを全て保管しておく必要があります。

認知症の親名義で不動産を購入させる

親の介護目的であったとしても、認知症である親の名義やお金で不動産物件を購入させる、バリアフリー機能が充実した介護リフォームなどを勝手に実施することは、大きなトラブルの原因となりますので避けましょう。

しかし、どうしても介護リフォームや新しい物件などが必要で、認知症である親のお金や名義で行わざるを得ない場合などもあるかと思います。

その場合には、あらかじめ遺産を相続する予定の親族としっかりと話し合い、許可を得た上で、成年後見制度などの法的手続きを経て実施するようにしましょう。

親が重度の認知症となった場合でも、不動産を売却できる方法とは?

親が認知症になったら介護費用や医療費、そのほか生活費用等を捻出するために不動産を売却したいと考える人も多いでしょう。

認知症になった親の不動産を売却するためには次の方法が考えられます。

成年後見制度を利用する

成年後見制度とは、家庭裁判所によって選ばれた後見人が、認知症(意思能力がない)と判断された本人の代わりに契約締結や財産管理を支援・保護する制度です。

成年後見制度は、親が認知症に完全になってしまった後に、所有する不動産を売却したいという場合などで役に立ちます。

成年後見制度には 「任意後見制度」と「法定後見制度」 の2種類があります。

それぞれの特徴を見ていきましょう。

任意後見制度

任意後見制度は、まだ認知症ではないけれど、認知症になった場合や今後の老後生活・介護が必要になった場合などの将来に備えて、認知症になる前に本人が信頼できる任意後見人を定めて、契約をしておく制度です。

家族信託と同様に、任意後見制度も本人が認知症などによって完全に意思能力がなくなる前の元気なうちに設定しておく必要があります。

本人が信頼する人を後見人に指名したい場合は、この任意後見契約の締結をしておく必要があり、公証役場において法務省令で定める様式の公正証書によって、締結しなければならないと定められています。

法律の趣旨に反しない限り、双方の合意により自由に締結内容を決めることが可能です。

今回は、重度の認知症になった後に不動産を売却する方法として、法定後見制度について重点をおき解説します。

法定後見制度

法定後見制度は、認知症により既に意思能力がないと判断された場合に、家庭裁判所が法定後見人を選ぶ、認知症になった後でも利用できる制度です。

法定後見制度では、意思能力の程度に応じて後見人の権限が異なる「後見」「補佐」「補助」のいずれかを選任します。

法定後見制度の3類型

「後見」=意思能力なし
「補佐」=意思能力が著しく不十分
「補助」=意思能力が不十分

法定後見制度を利用して成年後見人が不動産の売買を行う場合は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に後見等の開始申立てを行う必要があります。

法定後見制度と任意後見制度

法定後見人の職務内容とは?

成年後見人の職務内容は「財産管理」と「身上監護」の2種類があります。

財産管理

法定後見人は本人に代わって下記の財産管理を行います。

【財産管理の具体的な例】

  • 不動産の管理・保全・処分(売却を含む)
  • 預貯金口座からの引き出し
  • 生活費、公共料金、税金の支払いなどの支出に関する管理
  • 預貯金、年金の受領、家賃収入の受領などの収入に関する管理
  • 通帳、有価証券、権利証などの保管
  • 遺産相続に関する手続き
  • (本人が不利益を被る契約をした場合の)取消権の行使

身上監護

身上監護とは、本人の健康や生活に配慮し、必要に応じて医療・介護・生活などに関する契約や手続きを本人に代わって進める法律行為のことを言います。

【身上監護の具体的な例】

  • 介護に関する契約や支払い(介護保険の利用や介護サービスの利用契約など)
  • 医療に関する契約や支払い(医療機関の受診、治療、入院の契約など)
  • 住居に関する契約や支払い(不動産の賃貸借契約や家賃の支払い)
  • 施設への入所に関する契約や支払い(老人ホームへの入居の契約など)

身上監護には、日常の買い物代行や付き添い、入浴の介助、トイレの世話などは含まれません。

また、医療行為の同意、身元保証人や身元引受人などは行うことができません。

法定後見人になれる人・なれない人

法定後見人は、申立をする際に親族などを推薦することができますが、必ずしも推薦した人が法定後見人になれるとは限りません。

法定後見人は、本人との関係性などを考慮して家庭裁判所が選任 をします。

親族や弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家の中から財産管理に適している人が選ばれます。

以下のいずれかに該当した場合、家庭裁判所の許可が出ず法定後見人になれません。

成年後見人の欠格事由

  • 未成年者
  • 過去に成年後見人などを解任された人
  • 破産をして復権していない人
  • 認知症の方本人に対して過去に訴訟をしたことがある方、あるいはその配偶者や直系血族
  • 行方不明者

また、あまり多くないケースですが、家族や親族が法定後見人になった場合、法定後見人の後見事務を監督する「法定後見監督人」 が家庭裁判所によって選任される場合があります。

選任された後見人が高齢である場合、財産の額が大きい場合、親族間でもめごとがある場合など、法定後見人の状況に応じて、弁護士や司法書士などの専門家による「法定後見監督人」を家庭裁判所が選任します。

成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、認知症や知的障害などで判断能力が低下した人の契約や財産管理のサポートを行う制度です。「成年後見人」を家庭裁判所から選任してもらい、本人に代わって様々な手続きを行なってもらいます。この記事では成年後見制度についてわかりやすく説明し、同時に最近注目を浴びている家族信託との比較についても解説します。
【完全版】成年後見制度とは?わかりやすく解説します

法定後見制度を利用するメリット

ここでは、法定後見制度を利用することのメリットについて解説します。

法定後見制度のメリット

  • 本人が重度の認知症でも不動産売却手続きを行うことができる
  • 本人が行った不利益となる契約を取り消すことができる
  • 本人の財産を詐欺や使い込みなどから守り、適切に管理してもらえる
  • 財産管理だけでなく、身上監護もしてもらうことができる
  • 親が亡くなる前に不動産の売却を行うことができる

重度の認知症になると、法定後見制度を利用するしか不動産売却をする方法がなくなります。

法定後見制度の利用をすれば亡くなる前に不動産売却をすることができ、財産の適切な管理や身上監護についても任せることが可能となります。

法定後見制度を利用するデメリット

ここでは、法定後見制度を利用することのデメリットについて解説します。

法定後見制度のデメリット

  • 利用をするには家庭裁判所への申立が必要
  • 法定後見人の選任は家庭裁判所が行う
  • 弁護士・司法書士等の専門家が成年後見人に選任された場合、認知症の親が亡くなるまで毎月報酬が発生し、利用し続けなければならない
  • 審判の取り消しをすることができない
  • 家庭裁判所への申し立ての準備から成年後見人が売買契約を締結できる様になるまで一般的に3~6か月程度の時間がかかってしまう
  • 親族が後見人に選任された場合、多くの時間や手間がかかるため、大きな負担となる
  • 家庭裁判所が不動産売却を認めない場合がある

法定後見制度を利用するには、家庭裁判所への申立が必要で、多くの手間や時間がかかるため親族が後見人になる場合には大きな負担となってしまいます。

一度後見を開始してしまうと審判の取り消しをすることはできず、弁護士・司法書士等の専門家が成年後見人に選任された場合は認知症の親が亡くなるまで毎月報酬が発生し、利用し続けなければならないという所が大きなデメリットであると言えます。

法定後見制度を利用した際の不動産を売却する流れ

この章では、法定後見制度を利用した際の不動産を売却する流れがどのようになっているのかを解説します。

法定後見制度を利用した際の不動産を売却する流れ

  1. 家庭裁判所に「後見開始の審判」の申立を行う
  2. 家庭裁判所が審理を行う(必要があれば医師による鑑定を受ける)
  3. 法定後見人が選任され、後見制度が開始される
  4. 不動産会社に査定依頼を行い、媒介契約を結ぶ
  5. 居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を得る
  6. 買主と不動産売買契約を結ぶ
  7. 決済・物件の引渡し

以下で詳しく解説します。

1. 家庭裁判所に「後見開始の審判」の申立を行う

必要な書類や費用を準備し、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ「後見開始の審判」の申立を行います。

2. 家庭裁判所が審理を行う(必要があれば医師による鑑定を受ける)

申立がされると、家庭裁判所で審理が始まります。

家庭裁判所の職員が本人、後見人候補となる人、申立人(親族など)にヒアリングを行います。

この時、必要があれば医師による意思能力の鑑定を受けることもあります。

3. 法定後見人が選任され、後見制度が開始される

家庭裁判所が親族との関係性等を考慮しながら、法定後見人を選任します。

選任までの期間は申立から2カ月程度かかります。

法定後見人には親族がなれるとは限らず、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることもあります(専門家の場合は毎月報酬を支払う必要があります)。

4. 不動産会社に査定依頼を行い、媒介契約を結ぶ

法定後見人が選任され後見が開始されると、数社の不動産会社に販売金額の査定依頼を出し、信頼のおける不動産会社と媒介契約を締結します。

5. 居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を得る

売却をする不動産が本人の居住をしている不動産である場合には、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

許可を受けずに不動産売買契約を結んだ場合は無効になってしまいます。

非居住用の不動産を売却する際は、家庭裁判所の許可は不要ですが、介護施設入居費の確保のためや医療費の支払いのためなどといった正当な理由が必要です。

6. 買主と不動産売買契約を結ぶ

家庭裁判所の許可が下りた後、法定後見人が本人の代理となって買主との売買契約を結びます。

7. 決済・物件の引渡し

残りの代金や税金などの精算、登記の手続きなどを済ませて物件の引き渡しとなります。

法定後見制度を利用した場合の不動産売却
成年後見制度は、家庭裁判所に対して後見人の選任を申立てることで開始します。この申立手続は、本人・配偶者・四親等以内の親族などから行うことが可能です。この記事では専門家に頼らず、本人の家族がご自身で成年後見の手続きを進めるために必要な情報をまとめました。
【完全版】成年後見制度の手続きの流れや申立方法を徹底解説

法定後見制度を利用した際にかかる費用

法定後見人選任の申立をする際にかかる費用や、専門家に依頼する際の報酬額の相場は以下のとおりとなります。

1. 成年後見人選任の申立手続きにかかる費用

成年後見人選任の申立手続きにかかる費用は以下のとおりです。

成年後見人選任の申立手続きにかかる費用

  • 申立手数料(収入印紙代):800円
  • 登記手数料(収入印紙代):2,600円
  • 連絡用の郵便切手代:数千円
  • 医師の診断書作成費用:数千円
  • 鑑定医による鑑定費用:5~10万円程度
    (家庭裁判所の判断で必要となった場合のみ。鑑定は一般的に数週間~2ヶ月程度で結果を得られる)

2. 成年後見人選任の申立を専門家に依頼した場合にかかる報酬

弁護士や司法書士などの専門家に申立手続きを依頼する場合には、報酬として10~30万円程度が一般的にかかると言われています。

3. 弁護士・司法書士等の専門家が成年後見人に就任した場合

成年後見人への基本報酬が月に2〜6万円程度発生し(管理財産の額によって額が決まります)、原則としてご本人が亡くなるまで支払い義務が続きます。

1年間だと24万円~72万円、10年間だと240万円~720万円程度かかってしまう計算となります。

また、専門家による成年後見人に支払う報酬には、「基本報酬」とは別に、特別な業務が発生した場合にかかる「付加報酬」があります。

基本報酬額の50%以内の金額がイレギュラー業務発生月に加算されます。

この記事の始めの方で、家族や親族が法定後見人になった場合、場合によっては弁護士や司法書士などの専門家による「法定後見監督人」が家庭裁判所によって選任されることもあると解説をしました。

その場合には法定後見監督人にも報酬を支払う必要があります。

金額は管理財産額によって変わってきますが、法定後見人の報酬の約1/2の金額(月に1〜3万円程度) を支払う必要があります。

このため、法定後見人選任の申立をする前に、将来かかりうる費用について詳しく調べて理解しておくことが必要です。

出典: 東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」

成年後見人へ支払う毎月の費用は2〜6万円程度です。本人の財産額や、後見事務の内容によって家庭裁判所が報酬額を決定します。 成年後見制度は原則本人の死亡まで続くため、トータルで数百万円に及ぶことも。費用が決定される基準や払えない時の対処法などを解説していきます。
成年後見人への毎月の費用は?いつまで払う?払えない時の対処法も解説

認知症で不動産の売却ができなくなることを防ぐ方法とは?

この章では、認知症で不動産の売却ができなくなってしまうことを防ぐための方法について詳しく解説をします。

家族信託を利用する

意思能力を消失する前の段階であれば、家族信託という選択肢が考えられます。

家族信託とは、資産を所有する人が認知症だけでなく老後生活や介護が必要になった時などの万が一に備えて「家族を信じて託し」、不動産や預貯金等の管理・処分等を任せる契約を結んでおく仕組みのことをいいます。

信頼できる家族に管理を任せることができる点が、最大の特徴です。

家族信託は財産を託す「委託者」、「受託者」、「受益者」の3者で構成されます。

  • 「委託者」:財産を託す人・財産の所有者
  • 「受託者」:財産を託されて管理・運用・処分を行う人
  • 「受益者」:財産の運用・処分などで得られた利益を受ける人
家族信託の構成者

例えば、実家では父親がひとり暮らしをしている場合、まだ意思能力が確かで元気なうちに息子と家族信託契約を締結します。

  • 父親:「委託者」兼「受託者」
  • 息子:「受託者」
  • 自宅:「信託財産」

家族信託契約を締結しておくことにより、この先父親が認知症などになってしまった場合でも、息子の判断でいつでも自宅を売却できるようになります。

家族信託の仕組み

不動産を売却するには、認知症と判断される前(親の意思能力が問題ないとされる段階)に、家族信託契約を締結しておく必要があります。

家族信託契約を締結しておくことで、たとえ親が認知症になったとしても、スムーズに不動産売却を進めることができます。

また、不動産売却や預貯金の管理を任せるための高額な報酬が発生しない点においても、家族信託は利用しやすい制度と言えるでしょう。

いざとなってから慌てるのではなく、早めに家族信託を活用し備えておくことが重要です。

家族信託を利用するメリット

ここでは、家族信託を利用することのメリットについて解説します。

家族信託を利用することの主なメリットは以下のとおりです。

家族信託を利用するメリット

  • 認知症発症後の親の財産管理や運用(不動産の売却も含む)が可能
  • 家族間で財産管理を行うため、高額な運用コストがかからない
  • 柔軟な財産管理を行える
  • 契約を開始するまでの手続きが比較的手軽
  • 親が生きているうちに実家を売却することができる
  • 本人が亡くなった後の受益者の指定や、二次相続の承継者も契約時に決めておくことができる
  • 受託者は、家族信託をされた不動産や金銭の処分や管理を自分の判断で行うことができる

家族信託のメリットは、親が認知症を発症した後も、財産管理や運用を続けることができるという点です。

成年後見制度では成年後見人の選任などの手続きを全て家庭裁判所が行うため手間がかかり、申立に必要な書類も多く、手続きには数か月ほどかかります。

これに対して家族信託の場合は、基本的に委託者と受託者の間で契約し、契約書を作れば成立してしまうので比較的手軽であると言えます。

また、家族間で財産管理を行うため、毎月の高額な運用コストがかからないという点も大きなメリットであると言えます。

家族信託を利用するデメリット

ここでは、家族信託を利用することのデメリットについて解説します。

家族信託を利用することの主なデメリットは以下のとおりです。

家族信託を利用するデメリット

  • 本人の法的な代理人ではない
  • 成年後見制度にある身上監護を行うことができない
  • 意思能力が低下した後は家族信託契約を契約することができない
  • 受託者を決める上で親族間においてトラブルが生じる可能性がある
  • 弁護士や司法書士などの専門家は受託者になれない

成年後見制度と異なる点は、家族信託の受託者は「本人の財産を管理」することはできますが、「法的な代理人」の役目をすることはできず、身上監護も行うことはできません。

そのため、法的な代理人や身上監護が必要な場合には、法定後見制度を利用する必要があります。

家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ仕組みです。本記事では家族信託の詳細や具体的なメリット・デメリット、発生する費用などについて詳しく解説します。将来認知症を発症しても、親子ともに安心できる未来を実現しましょう。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続きをわかりやすく解説!

不動産売買取引においては「意思確認」がとても重要

不動産売買取引においては、「意思能力」の有無によって左右されてしまいますので、「本人確認」や「意思確認」はとても重要です。

ここでは、「本人確認・意思確認」について、誰が誰に対して行うのかを詳しく解説します。

登記のための「本人確認・意思確認」は司法書士が対応

不動産を売買した際、売買によりその不動産の所有権が移転したことを示すための登記がなされます。

この登記手続きは、司法書士が行う仕事です。

司法書士は登記すべき事実が実際にあったことを確認するために、決済(引渡し)の場に同席し、当事者間で不動産の売買が完了したことの確認を行います。

決済(引渡し)に同席をした司法書士は、売買における最終的な確認として、当事者に「本人確認・意思確認」といった手続きを行います。

売主である所有者への「本人確認」 とは、本当にその場に同席している方が「売主本人であるか」を確認する手続きです。

また、売主である所有者への「意思確認」 とは、今回売却する予定の不動産について「本当に売却する意思があるのか」を確認する手続きです。

登記を引き受けた司法書士は売主である所有者本人に対して、これらの確認手続きを必ず行う必要があります。

そのため、不動産売買の一連の手続きを代理人に依頼している場合でも、この「本人確認・意思確認」の手続きだけは本人が直接対応しなければなりません。

意思確認の際には、生年月日・年齢・干支・取引物件についての経緯、売却をすることを理解しているかなどの確認が行われます。

売主である所有者本人が認知症などにより、司法書士による「意思確認」の際に売却にかかる意思を明確に表示することが難しい場合には、代理人が売買契約を締結した後であっても、最終的には不動産を売却することはできないのです。

このように、不動産売買に関して代理人が手続きを進めていても、本人への「本人確認・意思確認」は必須であり、これをクリアできなければ最終的に不動産を売却することはできないということになります。

この場合は法定後見人を裁判所に選任してもらい、後見人が法定代理人として契約をしない限り、有効な契約にはならないのです。

不動産売買で必要な本人確認と意思確認

家族信託であれば本人確認・意思確認は「受託者」へ行う

家族信託をした不動産を売却する場合の「本人確認・意思確認」についての手続きはどうなるのでしょうか。

不動産を信託し、その信託契約の中で受託者(財産を預かる者)に不動産を売却する権限を与えた場合には、以後は受託者が単独で 不動産の売却をすることができます。

この場合、「受託者=売主本人」として扱われますので、登記に関する司法書士の「本人確認・意思確認」も受託者に対して行われることになります。

このように、不動産を信託財産としていた場合には、受託者が売却に関する一連の手続きを全て行うことができるようになります。

家族信託であれば、もともとの所有者である委託者の意思能力の状態にかかわらず、不動産の売却は可能となります。

高齢の親が不動産を所有している場合は専門家に相談をして今後の備えを

不動産売却には、売買契約の締結から不動産の引き渡し・売買代金の支払い等の流れがあり、代理人でも手続き可能な部分もあれば、本人に限られる部分もあります。

登記の際は司法書士による売主本人への「本人確認・意思確認」という手続きが必須です。

平成20年に犯罪収益移転防止法が施行されたことに伴い、特定事業者として不動産業者(宅建業者)も本人確認を行うことがあります。

代理人であっても、完全に本人を代理できない部分があるため注意が必要です。

不動産の取引は、状況によって年数のかかる場合があります。

とくに相続対策も行う場合は、取引に年数のかかるケースもあるでしょう。

不動産を売却する際の手続きについて不安なく進めたい場合、家族信託を締結していれば年数のかかる計画でも安心して進めることができ、取引の継続における不安要素が無くなります。

高齢の親がいて、いずれ不動産取引の可能性がある、自宅を売却する時点での意思能力に不安があるという場合は、家族信託の活用も検討してみると良いでしょう。

まずは親がまだ元気なうちに気軽な相談をしてみてはいかがでしょうか?

認知症対策をお考えの方へ

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