家族信託を利用する場合、信託法で受託者は「分別管理義務」を負い、信託された財産と個人の財産とを分別して管理しなければならないとされています。

そのため、金銭の信託を受けた場合や信託された不動産から賃料が生じる場合、受託者は自身が普段使用している口座とは別の信託用の口座を開設し、そこで信託された金銭などを管理していくことが望ましいとされているのです。

この信託用の口座のことを「信託口口座」と言い、開設方法には3パターンあります。

この記事では信託口口座の特徴や口座の開設方法、開設するメリットやデメリットなどについてご紹介します。

要約

  • 家族信託では受託者名義の専用口座の開設が必要
  • 家族信託で信託した金銭を管理する口座として「信託口口座」がある
  • 「信託口口座」には3つの種類があり、それぞれ内容が異なる
  • 家族信託で信託口口座を開設すれば、親が認知症になっても財産管理を継続できる
  • 受託者が死亡、破産しても口座が凍結されないものと、通常と同じく口座が凍結されるものがあるので注意が必要
  • 信託口口座を開設する際は、金融機関ごとに取り扱いが異なるので事前確認が必要

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信託口口座の種類

信託口口座には、① 信託勘定口座② 信託屋号口座③ 受託者個人名義口座 の3種類があります。

受託者が信託財産を分別管理する目的であることは変わりませんが、それぞれの口座の特徴を確認していきましょう。

① 信託勘定口座とは

信託勘定口座とは信託財産を管理するために開設された口座で、以下の要件を満たしている口座を指します。

  • 口座名義人の表記に「信託の受託者である旨」が明記されていること。
    例)口座名義人欄の表記:【委託者の名前】信託受託者【受託者の名前】信託口

  • 受託者の死亡、破産、差し押さえなどによって凍結されない口座であること。

①信託勘定口座に限り、仮に受託者が死亡した際でも受託者の相続手続きをすることなく、信託契約の内容に基づき解約等の手続きが可能となります。

口座名義人の表記に「委託者」「受託者」が明記されている口座であるため、一目で信託用の口座であることが分かります。

ただし、この信託勘定口座はごく一部の金融機関のみでの取り扱いとなります。
また、開設に当たって一定の要件(例:預金額3000万円以上など)があるため、実務上はそこまで多くはありません。

実務では、受託者が金融機関から借入れをする「受託者借入れ」をする場合などに、金融機関からの説明を受けて開設することが多いといえます。

また、金融機関によっては信託勘定口座の開設において手数料がかかる場合もあります。

開設を検討する場合はあらかじめ金融機関に確認をしておきましょう。
なお、この口座が開設できる代表的な金融機関として、三井住友信託銀行があります。

② 信託屋号口座とは

口座名義人の表記に「信託の受託者である旨」が明記されている口座で、一目で信託用の口座であることが分かります。

ただし①でご説明した信託勘定口座とは異なり、受託者の死亡や破産時において口座凍結を回避する機能はありません。

そのため、仮に受託者が死亡した際には一般の口座と同じように凍結されてしまいます。

口座が凍結されてしまうと、受託者個人の相続手続きが必要となるため注意が必要です。

この信託屋号口座の開設ができる金融機関もかなり限定されています。

本来であれば「信託勘定口座」や「信託屋号口座」といった口座を開設することをおすすめしますが、家族信託に対応している金融機関は多くはなく「信託勘定口座」や「信託屋号口座」の開設が可能な金融機関も一定数しかないのが現状です。

③ 受託者個人名義口座とは

この口座は、通常の個人名義の口座です。

①②のような口座を開設することができない場合、受託者が新たに開設した個人名義の口座を信託口口座として利用する方法です。

①②と比較すると開設しやすい口座ではありますが、名義人である受託者が死亡した場合には、②と同じように相続手続きが完了するまで口座が凍結されるため、注意が必要です。

また、受託者の個人名義の口座ですから、一見この口座が信託口口座なのかどうか判別することが困難な点があります。

そこで、受託者個人名義口座を信託口口座とした場合には、委託者兼受益者と受託者との間で、次のことを記載した「口座指定書」を作成すると、信託財産の分別管理に役立ちます。

  • 信託口口座として扱う口座の「金融機関名」「支店名」「種類」「口座番号」「口座名義人」などの情報
  • 上記の口座を信託口口座として扱う旨

個人の口座と明確に分けておくことで、仮に受託者死亡により相続となった場合でも信託財産としての分別が容易になります。

家族信託の口座は大きく分けて2種類

家族信託で使う口座は「信託口口座」と「受託者名義の普通口座」の2種類があります。
それぞれの口座の特徴について、確認していきましょう。

信託口口座

信託口口座とは、家族信託で預けたお金を管理・運用するための口座です。

信託口口座にある財産は信託された財産であるため、受託者が死亡したとしても受託者の相続人へ相続はされません。

また、受託者個人による借金の滞納や破産があった場合でも、
信託された財産は差し押さえなどの強制執行の対象にはならないという信託法の規定に則り、家族信託における財産管理のため特別に開設された仕組みなのです。

一般的な普通口座と異なるのは、口座名義が「委託者○○ 受託者△△ 信託口」のように委託者と受託者が連名で記載される点です。

現時点では全国どこでも簡単に開設できるわけではなく、ごく一部の大手銀行や地方銀行・信用金庫でしか取り扱われていません。

近隣で開設できる金融機関があるか、探す必要があるでしょう。

通常の口座開設とは異なる開設条件があるため、開設までの時間と手間もかかります。

また、一見「信託口口座」に見えても実際は受託者の個人口座に屋号として
「委託者 〇〇 受託者」と明記されているだけに過ぎないケースもあると言います。

これでは屋号付きの普通口座と変わりないため、万が一の時には凍結されてしまうリスクが残ります。

家族信託を開始する前に、受託者の個人口座と紐づいていない口座の開設が可能か、金融機関へきちんと確認しておくと安心でしょう。

受託者名義の普通口座

新たに開設した受託者名義の普通口座を、信託専用の口座として使うことも可能です。
信託専用口座 とも呼ばれています。

受託者自身が使い勝手の良い銀行で口座を解説しておけば、その後の入出金も便利です。

しかしこの場合、受託者名義の口座であることから通常の口座名義と同様の記載がされます。

つまり、通帳を見るだけでは信託財産を管理するための口座・通帳とは判別できないのです。

受託者には、信託された財産を受託者自身の個人の財産と信託財産を分けて管理する、
分別管理義務があるため、他の財産と混ざってしまわないよう注意が必要となるでしょう。

また、家族信託契約書には「金融機関名」「口座名義」「口座番号」を明記する必要があります。

家族信託で信託口口座を利用するメリット

家族信託の財産管理を行うための口座は大きく分けて2種類あることをご紹介しました。

まずは「信託口口座」を利用するメリットを詳しく見ていきましょう。

財産の分別管理が容易

信託口口座にある財産は「信託財産」として扱われます。
よって、受託者個人の財産と間違われることもなく、第三者にも明らかです。

間違いなく信託財産であることが明確化されるため、分別が容易と言えるでしょう。

信託財産が、受託者の財産に混ざってしまうおそれを回避できる点も安心です。

受託者が破産・差し押さえられても信託財産を守れる

信託口口座を開設せずに管理しているうちに万が一、受託者が破産した場合はどうなるでしょうか。

前述の通り、信託口口座にある財産は明らかに「信託財産」です。

「受託者の財産ではない」ことが明確なので、受託者が破産しても信託財産に影響がでることはなく安心して財産を守ることができ安心です。

受託者が死亡しても信託財産を守れる

受託者の死亡時も同様、信託口口座の財産は「受託者の財産ではない」ことが明確です。

さらに信託契約では万が一に備えて、あらかじめ予備の受託者(第二受託者、第三受託者など)を定めておくことができます。

これを「後継受託者」といいます。
この定めによって、委託者よりも先に受託者が死亡した場合は後継受託者が管理を継続します。

このように、信託口口座であれば受託者が先に死亡しても口座は凍結することなく、スムーズに後継受託者に管理の引き継ぎが可能なのです。

また、受託者の相続人から、相続財産の一部であるといった主張をされるリスクもなく信託財産を守ることができます。

家族信託で信託口口座を利用するデメリット

利用者にとってはメリットの大きい信託口口座ですが、信託口口座を開設・管理する金融機関にとっては、信託法・信託契約の内容に従って契約がなされているかなどの確認に手間と時間をかける必要があります。

以上の背景をふまえ「信託口口座」を利用するデメリットも詳しく見ていきましょう。

信託口口座の開設に時間と費用がかかる

信託口口座は通常の口座に比べて、非常に特殊な口座です。

印鑑や戸籍謄本などの書類提出や、金融機関による信託契約の内容審査などの手間と時間がかかります。

また、金融機関によって口座開設の手数料として数万円程度の費用がかかり、
さらには口座管理費として年会費が定められているケースもあります。

信託財産額やプランに金融機関の指定条件があることも

金融機関によっては信託口口座の開設を希望する際、信託財産額の条件があったり、
金融機関が指定する信託プランの中から組まなければならない場合もあります。

銀行による家族信託のサポートは非常に心強いですが、
金融機関独自の条件があったりと、柔軟性に欠ける部分もあると言えるでしょう。

また、金融機関は法的手続きを代行することはできません。

状況によっては金融機関から専門家に委託する場合もあり、
結果的として専門家に依頼をする費用が高額になってしまうこともあります。

ご自分たちで信託プランを考えたい場合や、ご自身が信頼を寄せる専門家に任せたいという方にとってはデメリットとなるでしょう。

信託口口座を開設できない金融機関もある

現時点では、全国すべての金融機関で信託口口座を開設できるわけではありません。

開設ができる場合も、支店ごとに取り扱いが異なる金融機関もあります。

信託口口座を開設できる金融機関が近隣にあるかどうかの確認だけでなく
開設後に入出金の際に足を運ぶことができる場所であるかどうかも確認しておくと良いでしょう。

家族信託で受託者名義の普通口座を利用するメリット

次に「受託者名義の普通口座」を利用するメリットを詳しく見ていきましょう。

口座を開設しやすい

信託口口座と違い、あくまでも「普通口座」であることから
普段から馴染みのある金融機関で通常通り簡単に開設することができ、費用もかかりません。

信託契約書の確認や、金融機関による審査も不要です。

お金の入出金についても、ATMで行うことができる点も手軽で便利です。

金融機関が課す条件がない

こちらも同様、あくまでも「普通口座」であることから、信託口口座と違って信託財産額の条件や、金融機関が指定する信託プランを選択する必要もありません。

信託内容や相談先についても自由に決めることができ、財産額が少ない場合も利用可能です。

家族信託で受託者名義の普通口座を利用するデメリット

「受託者名義の普通口座」は手軽で利便性が高い反面、あくまでも通常の「普通口座」であることを忘れてはいけません。

信託口口座とは異なり信託法に則った取り扱いをされることがないという点に注意が必要なのです。

以上をふまえ「受託者名義の普通口座」を利用するデメリットも詳しく見ていきましょう。

受託者が破産した場合、財産が差し押さえられる可能性がある

受託者個人の名義で作成された普通口座であることから、その口座にある財産は受託者本人の財産として取り扱われます。

よって、万が一受託者が破産したり個人の債務(借金等)が支払えないといった場合「受託者名義の普通口座」にある財産が差し押さえられてしまう可能性があるのです。

受託者が死亡した場合、口座が凍結する

通常、口座の名義人が亡くなると、その口座は凍結されてしまいます。

つまり「受託者名義の普通口座」も同様、名義人の死亡につき凍結されてしまいます。
口座内の金銭が信託財産であるかどうか、金融機関では把握することができないからです。

そして、口座解約のための相続手続きが必要となります。

具体的には、まず法定相続人が「受託者名義の普通口座」の金銭を払い戻しを行います。
その後、受託者死亡後に財産管理を行う「後継受託者」に金銭を引き渡します。

このように、口座が凍結すると相続人の協力を得ないと解除することができません。

万が一、法定相続人が「受託者名義の普通口座」にある金銭を遺産の一部だと主張した場合は裁判などを通じて金銭の返還請求をしなければならない等のトラブルに発展する可能性もあるのです。

家族信託で信託口口座の開設をする金融機関を選ぶポイント

それでは、家族信託で信託口口座を開設する際、どのように金融機関を選んだら良いのかポイントを見ていきましょう。

家族信託の取り扱いがあるか

家族信託は比較的新しい制度であることから、すべての金融機関で取り扱いがあるわけではありません。

普段から馴染みのある金融機関で開設ができれば良いですが、必ずしも信託口口座の開設ができるわけではない点に注意し、金融機関への確認を行いましょう。

受託者にとって利便性があるか

家族信託後、受託者は委託者の治療費や生活費を捻出するため、日常的に信託財産の入出金をすることになるでしょう。

毎回手間とならないよう、主に以下のような点を確認しておくと良いでしょう。

  • 近隣の金融機関で入出金ができるか
  • 24時間、入出金ができるか
  • ATMは使えるか

こちらの記事でも紹介しています。
家族信託の口座はどの銀行で開設できる?対応できる金融機関まとめ

各信託口口座の開設方法

続いてそれぞれの信託口口座の開設の方法や注意点についてご紹介します。

① 信託勘定口座開設の流れ

実務上、信託勘定口座は「受託者借入れ」など、金融機関の融資が関わる場合に開設することになる口座で、ほとんどの場合、金融機関主導で開設に関する手続きの案内が行われます。

ただし、単に金銭だけを信託するなど金融機関の融資などが関わらない信託においては、信託勘定口座の開設は自主的に手続きを進めることになるため、以下を参考にして下さい。

[信託勘定口座開設の流れ]

融資の利用なく、預金関係のみで信託勘定口座を開設する場合、原則として金融機関による信託契約書の内容確認が行われます。

主に以下のような注意点があります。


信託契約の際に専門家のアドバイスを受けている場合は問題ありませんが、信託財産が預貯金のみ、少額の場合など、個人で手続きをしている場合の注意事項となります。

【注意点1】
信託契約書を作成する段階で、信託勘定口座を開設する金融機関のチェックを受ける

信託内容や委託者と受託者の関係性などについて審査を受けます。

仮にチェックを受けていない信託契約書にて信託勘定口座の開設を願い出た場合、契約内容が口座開設の基準に満たない箇所がある場合など、開設不可となる可能性があります。

【注意点2】
信託勘定口座の開設に対応しているのは一部の金融機関のみ

例として三井住友信託銀行/城南信用金庫など、信託勘定口座の開設に対応している金融機関は一部のみとなります。

また、口座の特殊性から金融機関によっては信託勘定口座の開設に手数料が発生することがあります。

【注意点3】
信託契約書は「公正証書」により作成する必要がある

法的に家族信託契約は私的契約でもスタート可能ですが、信託勘定口座を開設する場合、口座開設の根拠として金融機関に提示する契約書であるため、公正証書での作成が求められます。

また、開設には戸籍謄本や住民票などの本人確認書類も必要です。

② 信託屋号口座開設の流れ

信託屋号口座についても契約確認のため、金融機関によっては信託契約書の確認を求められるケースもあるようです。

ただし対応している金融機関が少ないため、口座開設が可能かどうかを事前に確認しておきましょう。

  • 信託屋号口座を開設できるか
  • 開設する際に信託契約書は必要かどうか
  • その他、開設に必要な書類はあるか

信託屋号口座の開設であれば、①信託勘定口座の時のような事前の信託契約書のチェックまでは求められないケースも考えられますが、金融機関により口座開設に関する条件等は異なりますので事前に確認をしておきましょう。

③ 受託者個人名義口座開設の流れ

こちらは通常の個人口座を開設する方法と同様です。
普段から利用している金融機関にて、追加で口座を開設できれば利便性も良いでしょう。

ただし、昨今は金融機関の対応もかなり厳しくなっています。
個人口座を開設する際に、その用途や同じ金融機関に複数の個人口座を持つことが難しくなっていることもあります。

すでに口座がある金融機関の場合、家族信託用の口座だとしても新たに開設させてもらえない可能性がありますので注意が必要です。

口座開設について、こちらの記事でも紹介しています。

家族信託の契約が締結できると、当事者の委託者・受託者となった方はホッとされると思いますが、信託がスタートした後も重要な手続きがしばらく続きます。家族信託が始まった後の重要な手続きとして、どのような項目があるのでしょうか?さっそく各項目についてご説明します。
家族信託をした後に必要な手続きは?登記申請や口座開設のやり方について

信託口口座の開設前に金融機関へ確認を

ここまで「信託勘定口座」「信託屋号口座」「受託者個人名義口座」についての特徴、開設方法や注意点などを解説してきました。

信託口口座は、一般の口座と比べ特殊な口座です。

そのため、金融機関によって開設の可否の判断が分かれるほか、開設に必要な書類や手数料についても差があります。

口座開設には確認事項の厳格化という流れもありますので、事前に各金融機関に確認をとり、事前に説明を受けておく方が安心です。

金融機関の選び方について、こちらの記事でも紹介しています。

高齢の方の預貯金を家族で管理する方法として、「家族信託」という制度が普及し始めています。家族信託では預貯金や不動産などの資産を家族に預けることができ、預かった財産に預貯金がある場合は専用の「信託口口座」に資金移動して管理をします。この記事では、信託口口座の種類や銀行の選び方について説明いたします。
家族信託を利用するときの銀行の選び方

また、家族信託をサポートしてもらっている専門家がいる場合は、口座開設や信託財産の分別管理に関することなどの不明点を相談したり、専門家から金融機関に確認をしてもらうと良いでしょう。

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