家族信託において、自宅や賃貸アパート、駐車場など、不動産を登記する場合、登記手続きが必要となります。

信託登記は、信託法上の受託者の義務です。

よって、不動産を信託する場合、「必ず」登記を行わなければなりません。

本記事では、家族信託の登記の手続きや費用について、わかりやすく解説していきます。

要約

  • 不動産を家族信託した場合、登記は必須である
  • 家族信託開始時は、所有権移転及び信託登記を行う
  • 家族信託した不動産の所有権は受託者へ移転する(所有権移転登記)
  • 不動産の登記情報を信託目録に記載し、信託契約の内容の一部が公示される(信託登記)
  • 信託目録の内容の変更や、信託した不動産の売却時にも、登記手続きが必要となる
  • 信託目録は、将来生じる可能性のある不動産登記や手続きを想定して行う必要がある

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家族信託で登記は必要?

家族信託において、自宅、賃貸アパート、駐車場などの「不動産」を信託する場合は、登記が必要 となります。

なぜなら、不動産の信託登記は、信託法で定められる受託者の義務だからです(信託法34条1項1号)。

家族信託登記が必要

「登記」とは、不動産の所在地や権利(所有権・受益権など)を、法務局が管理する「登記情報」に登録し、公示することをいいます。

登記により、不動産の所有権や受益権を持つ人は、第三者にその権利を主張できるため、法的トラブルの回避などに役立ちます。

では、信託における受託者の義務とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

信託登記が必要な理由:受託者の分別管理義務

不動産の家族信託で登記が必要な理由は、受託者に「分別管理義務」が定められているためです(信託法34条1項1号)。

「分別管理義務」とは、受託者の固有財産と信託財産を、明確に区別して管理しなければならない という義務です。

受託者の分別管理義務

受託者は、信託された不動産を、信託契約で定めた目的に従い、自己の利益ではなく「受益者」の利益のために、適切に管理・運用・処分しなければなりません。

そのために、分別管理により、受託者固有の財産と明確な線引きをしておきます。

※信託財産の分別管理の方法は、財産の種類によって異なります。

分別管理の方法

信託登記により「この不動産は、受託者個人の財産ではなく、受託者が受益者のために管理する信託財産である」ということが公的に証明できます。

では具体的に、家族信託の登記はどのように進めていくのでしょうか。

家族信託開始時に行う2種類の登記

不動産の家族信託では「所有権移転登記」と「信託登記」の2種類の登記を行います。

2種類の登記は、同時に申請します(不動産登記法98条1項)。

登記の申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。

所有権移転登記は、信託不動産の所有権を、委託者から受託者へ移転 させる登記です。

信託登記では、信託目録という欄が作成され、 信託の委託者や受託者・信託の内容について登記 します。

それぞれみていきましょう。

所有権移転登記

所有権移転登記は、委託者から受託者へ、所有権を移転する 登記です。

つまり、信託した不動産の所有者は受託者」となります。

家族信託開始時の不動産登記

受託者は所有者として、不動産の管理・売却・処分を行う権限を持ち、登記によりこれを公示できます。

家族信託における所有権移転登記を行った登記情報の記載例は、以下の通りです。

信託における所有権移転登記

信託登記

信託登記では、不動産に関する家族信託の契約内容を、信託目録という欄に記載 します。

信託目録には、以下の11項目を記載することが信託法で定められています(不動産登記法97条1項)。

信託目録の項目

  1. 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所
  2. 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定め
  3. 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
  4. 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
  5. 受益証券発行信託であるときは、その旨
  6. 受益者の定めのない信託であるときは、その旨
  7. 公益信託であるときは、その旨
  8. 信託の目的
  9. 信託財産の管理方法
  10. 信託の終了の事由
  11. その他の信託の条項

一般的な家族信託では、3、5、6、7を除く6項目(太字部分)について記載するケースが大半です。

信託登記を行うことで、不動産が信託財産であるという事実や、信託契約の当事者、受託者の権限などが公示されます。

信託目録に記載すべき内容は、自分で(司法書士に依頼する場合は司法書士が)データを作成し、登記申請時に法務局へ提出する必要があります。

その内容は、登記情報に記載・公示され、いわば「誰でも見られる状態になる」のです。

よって、信託契約の内容をすべて登記した場合、受益権の承継方法(遺言と同様の内容)など、秘匿性を確保すべき内容までもが、公開されてしまいます。

信託登記は特に慎重に行うべき手続きといえます。

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家族信託の登記簿記載例

家族信託組成時の「所有権移転登記」と「信託登記」を行った登記簿の記載例は以下の通りです。

家族信託登記簿記載例

所有権が受託者へ移転し、信託目録にて家族信託の契約内容に関する内容が記載され、当事者は家族信託の事実を第三者にも主張できるようになります。

家族信託の登記手続きの流れ

家族信託開始時の「所有権移転登記」と「信託登記」は、同時に1枚の書面にて申請します。

手続きの流れは以下の通りです。

家族信託開始時の登記手続きの流れ

  1. 必要書類を揃える
  2. 必要書類と登記申請書を法務局へ提出し、手続きする

順にみていきましょう。

1.必要書類を揃える

まずは、家族信託の登記手続きに必要な書類等を揃えます。

申請内容によって、求められるものが異なる可能性はありますが、一般的に必要なものは以下の通りです。

家族信託の登記手続きに必要な書類等

  • 登記申請書
  • 固定資産税評価証明書(または固定資産税課税明細書)
  • 不動産の権利書(登記済証)または登記識別情報
  • 登記原因証明情報(信託契約書など)
  • 信託目録に記載すべき情報(CD-Rなどの電磁的記録が原則)
  • 委託者の印鑑証明書
  • 受託者の住民票
  • 委託者の実印・受託者の認印
  • 委託者と受託者の本人確認資料
    (運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど)

登記申請書

法務局へ登記を申請する書類です。

登記申請の方法には、書面申請、オンライン申請があります。

参考: 不動産登記の申請書様式について|法務局

登記申請書の記載例は以下の通りです。

登記申請書例

課税価格登録免許税は、固定資産税評価証明書(または固定資産税課税明細書)に記載の不動産の評価額を見ながら、記入します。

(登録免許税の計算方法は後段で解説します。)

固定資産評価証明書(または固定資産税課税明細書)

固定資産評価証明書とは、当該年1月1日時点での不動産の評価額を証明する書類 です。

不動産の評価額は、登記でかかる税金登録免許税の計算に使用します。

固定資産税の納税義務者へ送付される納税通知書に添付されている「固定資産税課税明細書の写しでも問題ありません

不動産の権利証(登記済証)または登記識別情報

もともとの所有者である委託者(兼受益者)が、当該不動産を取得したときに、権利証または登記識別情報 が発行されます。

権利証および登記識別情報は、不動産の所有者本人であることを証明するものです。

不動産所有者であることを証明する書類・情報

平成18年以前は、不動産の所有者に紙の権利証が発行されていました。

その後、登記情報の管理がオンライン化されたことにより、平成18年以降は、登記識別情報(12桁の英数字) が所有者に通知されるようになっています。

登記原因証明情報(信託契約書など)

登記原因である「信託」の事実を証明する「登記原因証明情報」を提出します(不動産登記法61条)。

信託契約書のほか、必要事項(下記)を記載し、受託者と委託者が署名押印した書類でもよいとされています

登記原因証明情報に記載する項目

  • 登記の目的
  • 登記の原因
  • 当事者
  • 対象不動産
  • 信託契約の年月日
  • 信託契約締結の事実
  • 信託契約により所有権が移転したこと
  • 信託目録に記載すべき情報
    (必須事項ではないが、実務上確認の意味で記載するケースもある)

参考: ○登記申請の際に必要とされる「登記原因証明情報」とは,どのようなものですか?(情報番号1314 全1頁)|法務局

信託目録に記載すべき情報(CD-Rなどのデータ)

信託登記で作成する「信託目録」に記載する情報を、テキストデータ(CD-Rなど)で提出します。

具体的には、前段で解説した「委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所」「信託の目的」「信託財産の管理方法」「その他の信託の条項」などです。

基本的には、事前に締結した信託契約書の内容から、信託目録に記載すべき項目(不動産登記法97条1項)の内容をピックアップして記載します。

将来の生じる可能性のある法律行為や登記を想定し、秘匿性も確保しながら戦略的に記載する必要があります。

2.不動産を管轄する法務局へ提出し、手続きする

登記申請書と必要書類を揃えて、不動産を管轄する法務局へ提出します。

登記にかかる登録免許税の納付は、原則現金で行いますので、事前に計算のうえ、用意しておきましょう。
※申請時に支払う、もしくは所定の口座に振り込むなどの方法があります。

(登録免許税額が30,000円以下の場合は、相当額の収入印紙を登記申請書に貼り付けて提出することも認められています。)

登録免許税の納付方法の詳細については、管轄の法務局にお問い合わせください。

参考: 管轄法務局の検索はこちらから(管轄のご案内|法務局HP)

家族信託の登記にかかる費用

家族信託の登記では、登録免許税がかかります。

また、登記手続きを司法書士に代行してもらう場合、司法書士への報酬も必要です。

登録免許税

登録免許税は、登記の際に課せられる税金です。

不動産の家族信託開始時にかかる、登録免許税の計算方法は以下の通りです。

登録免許税の計算方法

  • 建物……固定資産税評価額×0.4%
  • 土地……固定資産税評価額×0.3%
    ※土地の0.3%は、令和8年3月31日までの軽減措置(租税特別措置法72条1項2号)

例えば、土地の評価額が3,000万円、建物の評価額が1,000万円の場合、信託設定時の登録免許税は以下のようになります。

土地の信託にかかる登録免許税
3,000万円 × 0.3% = 9万円

建物の信託にかかる登録免許税
1,000万円 × 0.4% = 4万円

登録免許税 合計 13万円

また、家族信託の開始時だけでなく、家族信託の終了、委託者・受益者の変更、信託内容の変更の際にも、登記が必要となり、登録免許税がかかります。

登録免許税額は、ケースごとに異なります。

司法書士に依頼する費用

一連の登記手続きを、登記の専門家である司法書士へ依頼する場合、報酬の支払いが必要です。

登記手続きの代行費用の相場は、8万円程度〜 で、詳細の金額は司法書士によって異なります。

登記手続きは、自分で行うことも可能ですが、信託登記では特に、信託目録の作成に関して専門知識と経験が求められます

手続きも煩雑なため、司法書士に代行してもらうことが一般的です。

家族信託の費用は信託する財産の額によって異なります。専門家に依頼すると実費に加えてコンサルティング費用かかりますが、費用削減だけを考えて自分でやるとトラブルが発生する可能性も高まります。家族信託の費用や自分でやる際の注意点をみていきましょう。
【家族信託の費用・相場】安く抑えるためのポイントとは?わかりやすく解説します

家族信託で登記が必要なタイミング

ここまでは、不動産の家族信託を開始したときに必要となる「所有権移転及び信託登記」について解説しました。

家族信託では、信託の終了時や信託内容の変更時など、他にも登記が必要なタイミングがあります。

家族信託で登記が必要なタイミング(開始以降)

  • 信託内容を変更したとき
  • 信託した不動産を売却・贈与したとき
  • 家族信託を終了したとき

それぞれのケースでの登記の内容、登録免許税についてみていきましょう。

信託内容を変更したとき

信託開始後、当初の登記事項が変更した場合には、変更の登記を行う必要があります(不動産登記法103条1項)。

家族信託における変更の登記

  • 受益者・委託者が変わるとき
  • 受託者が変わるとき
  • 信託財産や財産管理の方法を変更したとき

変更の登記が必要となる主なケースについて、解説していきます。

委託者・受託者が変わるとき

一般的な家族信託では、委託者=受益者である「自益信託」 で組成されます。

よって「委託者の変更」の登記と「受益者の変更」の登記は同じタイミングで行うケースが大半です。

基本的に、委託者兼受益者が変わるのは、当初の委託者兼受益者が死亡したときや、受益権・委託者の地位が贈与されたときなどです。

複数世代にわたって受益権が承継される「受益者連続信託」では、当初の委託者兼受益者の死亡により、第二受益者が受益権を取得 し、それに伴い委託者の地位も承継 されます。

受益者連続型信託

委託者・受益者が変わるときの登記内容は以下のとおりです。

受益者が変わるときの登記
登記の目的受益者変更
登記の原因年月日相続(売買・贈与)
登録免許税不動産1個につき1,000円
委託者が変わるときの登記
登記の目的委託者変更
登記の原因年月日変更
登録免許税不動産1個につき1,000円

どちらも、受託者が単独で申請可能です(不動産登記法98条3項)。

受託者が変わるとき

受託者の死亡や辞任による受託者の変更登記 は原則、前受託者(登記義務者)と新受託者(登記権利者)の共同申請で行います(不動産登記法60条)。

受託者の変更登記は、実質、所有権移転登記に該当するためです。

受託者が変わるときの登記内容は以下の通りです。

受託者が変わるときの登記
登記の目的所有者移転
登記の原因年月日受託者変更(または年月日受託者死亡)
登録免許税非課税

登録免許税法7条1項3号の規定により、受託者の変更による所有権移転登記では、登録免許税は課税されません

また、受託者の死亡や、受託者の後見・保佐開始など、所有権移転の原因が以下の5項目のいずれかに該当する場合、新受託者が単独で登記申請を行えます(不動産登記法100条1項)。

新受託者による単独申請ができる受託者変更の原因
(不動産登記法100条1項)

  • 受託者が死亡したこと
  • 受託者が後見開始もしくは保佐開始の審判を受けたこと
  • 受託者が破産手続開始の決定を受けたこと
  • 受託者である法人が合併以外の理由で解散したこと
  • 受託者が裁判所または主務官庁の解任命令を受けたこと

信託財産の管理方法を変更したとき

委託者・受益者・受託者の変更だけでなく、信託登記で記載した内容に変更があれば、変更の登記を行う必要があります(不動産登記法103条1項)。

この場合は、受託者が単独で申請可能で、登録免許税は不動産1個につき1,000円です。

信託財産の管理方法を変更したとき
登記の目的信託財産の管理方法変更 等
登記の原因年月日変更
登録免許税不動産1個につき1,000円

このように、当初の信託登記の内容を変更する場合は、変更の登記が必要となり、場合によっては登録免許税が課せられます

変更の登記も信託法で定められる義務であり、専門知識が必要となりますので、司法書士へ依頼することがおすすめです。

信託した不動産を売却・贈与したとき

家族信託では、親の認知症に備えて子へ不動産を信託することで、子が受託者として不動産を売却し、老後の資金を捻出するという設計がよくあります。

実際に信託不動産が売れたら、不動産の所有権は買主へ移転し、不動産は信託財産ではなくなります

よってこの場合、売買による所有権移転登記 と、信託登記抹消 が必要です。

所有権移転登記が含まれるため、受託者(登記義務者)と買主(登記権利者)の共同で申請を行わなければなりません

信託不動産を売却・贈与したとき
登記の目的所有権移転及び信託登記抹消
登記の原因所有権移転:年月日売買(贈与)
信託登記抹消:信託財産の処分
登録免許税所有権移転:固定資産税評価額×2%
信託登記抹消:不動産1個につき1,000円

家族信託が終了したとき

一般的な家族信託は、委託者(親)の死亡により終了し、受託者(子)に帰属するケースが多くみられます。

委託者死亡後、受託者に帰属するケース受益者連続型信託

この場合、家族信託の終了時に行うべきなのは、以下の3つの登記です。

家族信託終了時の登記

  • 委託者変更の登記
  • 受益者変更の登記
  • 受託者の固有財産となった旨及び信託登記抹消

3つの登記は全て、受託者が単独で申請できます。

登記の申請内容は以下の通りです。

委託者の変更登記
登記の目的委託者変更
登記の原因年月日変更
登録免許税不動産1個につき1,000円
受益者の変更登記
登記の目的受益者変更
登記の原因年月日受益者死亡
登録免許税不動産1個につき1,000円
受託者の固有財産となった旨
及び信託登記抹消
登記の目的受託者の固有財産となった旨の登記及び信託登記抹消
登記の原因年月日信託財産引き継ぎ
登録免許税受託者の固有財産となった旨:固定資産税評価額×0.4%
信託登記抹消:不動産1個につき1,000円

上記の登記手続きは、委託者兼受益者の死亡により、受託者へ信託財産が帰属する場合において、登録免許税や不動産取得税を軽減する ことを踏まえた手続き方法です。

やや専門的にはなりますが、法律の解釈や法務省の文書などを踏まえて、その仕組みを解説します。

「受託者が帰属権利者となる」場合の登記で「受託者単独申請・登録免許税の軽減措置適用が可能」に

以前までは、委託者兼受益者の死亡により信託が終了し、受益者個人に信託財産が帰属する場合の登記手続について、法務局により見解が分かれており、明確な規定がありませんでした

登録免許税の解釈も定まっておらず、受託者個人へ財産を帰属させる場合について、以下の議論もありました。

  • 変更の登記とみなして「不動産1件あたり1,000円」なのか?

  • 権利の移転として「不動産の価額の2%」なのか?

  • 軽減措置を適用して(=相続による権利の移転とみなして)「不動産の価額の0.4%」なのか?

2024年1月10日に法務省によって文書が発せられ、前段で解説した登記手続きと登録免許税の適用が明確になりました。

参考: (通知)信託財産を受託者の固有財産とする旨の登記の可否について

まとめると、以下の通りです。

  • 信託が終了し、委託者兼受益者(主に親)の相続人である受託者(主に子)が帰属権利者となる場合
    (例)委託者:父、受託者:長男、受益者:父
    父の死亡により信託が終了し、信託財産は長男(帰属権利者)に帰属する

  • 信託終了時に以下の登記を行う
    →受益者変更の登記(例:父→長男)
    →信託財産が受託者の固有の財産になった旨の登記及び信託登記抹消
    (例)長男の固有財産になり、信託登記を抹消する

  • 「信託財産が受託者の固有財産になった旨の登記」における登録免許税は、登録免許税法7条2項の軽減措置が適用され「不動産の価額の0.4%」となる。

この場合の「受託者固有の財産とする旨の登記申請」にかかる登録免許税については、登録免許税法7条2項が適用されます。

よって、相続による所有権移転と同様に、固定資産税評価額×0.4%が適用されることとなりました。

信託終了時の登記手続きについては、専門的な内容のため、司法書士等の専門家へ相談するのがよいでしょう。

家族信託の登記における注意点3つ

家族信託の登記を行ううえで注意すべき3つのポイントは以下の通りです。

家族信託の登記における注意点

  1. 将来生じうる不動産の動きを想定して、登記を行う必要がある
  2. 個人情報の記載に注意する
  3. 不動産取得税の課税に注意する

それぞれみていきましょう。

1. 将来生じうる不動産の動きを想定して、登記を行う必要がある

家族信託開始時に行う信託登記において、最も複雑な作業が「信託目録に記載する事項」を考えることだといえます。

なぜなら、将来生じうる不動産の登記や権利移動など、さまざまな観点から信託と不動産に関することを想定して、記載項目や表現を検討しなければならないためです。

例えば「受託者が不動産の売却権限を有する」ということが定められているとします。

信託登記がされている以上、受託者が不動産を処分する権限を持つことは明らかですが、信託登記に受託者の権限が明記してあれば、不動産業者や買主からの理解も得られやすく、売却時の登記もスムーズに行える でしょう。

もし、受託者の売却権限について登記されていなかった場合、受託者から買主(第三者)へ所有権移転登記をする際に、登記官から指摘を受けたり、信託目録に追記する必要が発生したりすることも考えられます。

特に将来、不動産登記が想定される場合は、その不動産登記手続きがスムーズに進むように、信託目録を作成する必要があります。

2. 個人情報の記載に注意する

将来を想定して信託目録を作成するといっても、契約内容を全て信託目録に含めればよいかというと、そうではありません

なぜなら、当事者や関係者の情報が公示されてしまう ことになるためです。

例えば、当初の受益者が死亡した後、受益権が長男、そして孫へと引き継がれる「受益者連続型信託」の場合を考えてみます。

受益者連続型信託

この場合、信託契約書には、第二受益者・第三受益者の名前や住所が、本人特定のために記載されます。

第二受益者、第三受益者に関する事項とは、受益権の承継、つまり遺言と同様の内容を規定している といえます。

仮に、それらの内容を登記事項に記載した場合、不動産の財産権を親からどの子どもに引き継ぐのかなど、個人的な内容まで公示してしまうことになり、適切とはいえません。

3. 不動産取得税の課税に注意する

家族信託において、家族信託の終了により不動産の所有権を取得した者に、不動産取得税が課せられる 可能性があります。

不動産取得税は、土地や家屋を取得したときに課税されるものです。

家族信託で考えられる不動産の権利移動には、以下が挙げられ、それぞれにおいて不動産取得税課税の有無が異なります。

不動産取得税課税の有無
(地方税法第73条の7)
家族信託開始時委託者から受託者への所有権移転→非課税
家族信託契約中受益者・委託者変更→非課税
家族信託終了時帰属権利者への所有権移転→条件を満たせば非課税
(満たさなければ課税)

基本的には非課税ですが、特に注意が必要なのは、家族信託が終了したときです。

家族信託終了により、帰属権利者が不動産の所有権を取得した場合、帰属権利者に不動産取得税が課せられる場合があります。

帰属権利者が委託者兼受益者の相続人である場合は、不動産取得税は非課税となります。

これは一般的な相続として扱われるという見解に基づく内容です。

不動産所得が非課税となる例

※地方税法第73条の7 4項

上記は、一見よくある家族信託の構図ですが、不動産取得税が非課税となるには、以下の条件を満たす必要があります。

不動産取得税が非課税となる条件

  1. 受託者から受益者へ信託財産を移す場合における不動産の取得

  2. 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である
      ※つまり、信託開始時から委託者=受益者の構造が崩れていない

  3. 信託開始時の委託者から相続をした者(=満たしている)

(上記の例では3を既に満たしています。)

これら全てを満たすには、以下の流れを踏む必要があるという解約になります。

  • 受託者(帰属権利者)が委託者の地位を承継する
  • 受託者(帰属権利者)が受益者の地位を承継する
  • 受託者個人へ信託財産を移す(受託者の固有財産になる)

つまり、帰属権利者が委託者、受益者、受託者の地位につくと、不動産取得税非課税の条件を満たすことになるということです。

不動産所得税の課税回避条件

適切に登記手続きを進めるのはもちろんですが、信託契約書の表現も工夫する必要があります。

上記のような流れを踏むように、信託契約書にも具体的に記載しておかなければならないのです。

つまり、信託設計時から、終了時についても考慮し、信託契約書を作成する必要があります

家族信託を活用するうえでは、家族信託によって発生する税金についても理解しておく必要があります。この記事では、信託財産に不動産を含める場合の「不動産取得税」について、「課税/非課税」の取り扱いがどうなるのかについてお伝えします。
家族信託における不動産取得税は?課税・非課税の取り扱いについて解説します

家族信託の信託登記まとめ

家族信託を開始するときや、信託内容を変更するときは、登記手続きが必要となることについて解説しました。

不動産を信託する場合は、将来も見据えたうえで登記する内容を考えなければならず、専門家の知見が必要となるケースが多くあります。

トラブルを回避するためにも、不動産の信託は、家族信託の経験が豊富な専門家へ相談しましょう。

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